黒猫・白猫
- Aloysius' Rating: 8/10
Crna macka, beli macor (France/Germany 1998, 130min.) Directed by Emir Kusturica Written by Emir Kusturica, Gordan Mihic Cast: Bajram Severdzan, Srdjan Todorovic, Branka Katic, Florijan Ajdini, Ljubica Adzovic, Zabit Memedov

クストリッツァが今いちばんパワフルでポリフォニックな映画を作る監督だということは間違いないと思う。ただ、その作風はユーゴスラビアが本質的に田舎であるという事実に支えられているような気がしてならない。前の 「アンダーグラウンド」 でもそうだったが、「黒猫・白猫」も結局は最初から最後まで村祭りで(しかも夏祭で)、田舎の愛といがみ合いがモチーフになっているという辺りはまったく変わっていない。相変わらずそこら中に銃があるし何かと言えば人に突きつけるし人命は安いし手榴弾でお手玉はするし、変わったのは銃を空に向けて撃つようになったというそのくらいだろうか。豚は車食ってるし楽団は大木からぶら下がって演奏してるし人家の周囲はアヒルで埋まっていて満足に前に進めない。しかもそのアヒルでンチ拭いたりするし。
主人公の親子はいちおう密輸業者ということらしいが、これがまた情けない密輸業者でドナウ川の河畔で水上生活をしていて普段は酒飲んで博打に狂っている。上流のロシアから船(艀くらいにしか見えないけれど、なんとマクシム・ゴーリキー号)がやってくると河辺のあっちこっちから同じような業者が小船に乗ってわらわらと湧き出してきて、ロシア人から石油を買ったりその他の家電製品を買ったりして、それを流して食ってる(もちろん露助どもはユーゴ人よりもたちが悪いので石油を買ったつもりが水を掴まされたりしていた)。ロシア船も含めて船はどれもこれも小さくて汚いし、そこへきれいな船がやってくるとこれはユーゴともロシアとも関係のないドイツ船で、「美しく青きドナウ」を奏でながらデッキの上でワルツを踊っていたりする。なんちゅう美しさだ、などと言って親子で船に見入ったりしている辺りがたっぷりと田舎で、悪いことに出口がない。
ドナウ川流域というのは本当にこうなのだろうか。このまま放置しておくとクストリッツァのせいでユーゴはヨーロッパのど田舎で騒々しくて大酒飲みで不潔で暴力的だというイメージが世界中に定着してしまう可能性がある(すでにそうだから気にしていないのかもしれないけれど)。
「アンダーグラウンド」 では決別から和解に至った「村人」たちがドナウの川の先行きの見えない流れの果てに去っていったが、こちらでは苦難を乗り越えて結婚に至った若い二人がドイツ船に乗ってドナウ川を去っていく。結末はなんでもかんでもドナウに流せばいいと思っているのではあるまいか。