「お役立ち」かどうかはちょっと疑問ですが、医療機器メーカーの社員としての若干の知識の中で、少しでもみなさんのお役に立てればと思い、実際に患者の家族となって気づいた様々を記載していきます。まだまだ情報が少ないですが、これから増やしますので、リクエストなどもどんどん下さい。解る範囲で掲載します。


「モニター」って・・・?

  一般病棟に移ってしまうと縁遠くなってしまいますが、手術後のしばらくを過ごすICU(集中治療室)・NICU(新生児・乳幼児集中治療室)などでは、ほぼ必ず、ベッドの側にピコピコ音をたてる機械があります。これが「モニター」です。何やら規則正しい波形と数値が表示されていますが、大抵の場合、@心電図、A呼吸曲線、B血圧曲線、CSpO2の波形(血液中の酸素の割合を示す値です。)の4つについて表示があるはずです。

 @心電図は説明するまでもないかと思いますが、心臓の動きを電気的に捉えたもの(胸に3個の電極が貼ってあるはずです。)で、波形を見ていると、一定間隔毎にとげのように鋭い波形が出てきます。そしてそれにあわせるように、「ピッ、ピッ」という音がしているはずです。この鋭い波形は心室(「りんのすけの病気について」参照)から全身に血液がグッと送り出された時のもので、成人なら一分間に6、70回くらい、赤ちゃんだともっと多くて140〜160回くらいは、送り出しているはずです。この一分間あたりの心臓の拍動を「心拍数」といい、先ほどの「ピッ、ピッ」を「心拍同期音」と言います。モニター上では、「HR」(=Hart Rate)で表されます。ちなみに大抵のモニターでは、一番上にこの、心電図の波形・心拍数が表示されるはずです。

 A呼吸曲線は、@同様に呼吸の動きを電気信号に変えて、波形表示したものです。心電図のために貼った電極と兼用なので、あれが剥がれていると上手く表示できません。寝返りをしたり、泣いたときに波形が乱れるのはこの電極の部分が不安定になるためです。呼吸数は、この呼吸曲線の「山」がいくつあるかを数えており、やはり一分間あたりの数を表示します。表示では「RR」(=Resp. Rate)成人では大抵15〜20回前後ですが、これも赤ちゃんでは若干多めになります。ちなみに麟之介が最初に入院したときは約120回(!)でした。呼吸曲線の表示場所は色々ですが、他の波形と比べると山の数が少ない(回数が少ない)のですぐにわかると思います。

 B血圧波形ですが、これは「観血的血圧測定法」により測定した血圧の波形のことです。詳しい測定原理は専門書を読んで頂きたいのですが、モニターに波形が出ている血圧は、血管に直接針を刺し、そこから噴き出してくる血液の圧力を電気信号に変えて、表示しているものです。対称的なのが、ナースや先生が、水銀柱のついた血圧計を持ってきて、腕に聴診器をあてて計る血圧で、こちらは「非観血的血圧測定法」と呼ばれます。読んで字の如しで、こちらは出血がない測定法です。さて、血圧波形からは、最高血圧・最低血圧・平均血圧が解ります。「非観血」の血圧では、その都度、腕に腕帯(カフまたはマンシェットと呼ばれます。)を巻き、シュポシュポさせながら計らなければなりませんが、「観血」式では、その必要がありません。常に値が変化し、モニター上に現れます。画面上では、大抵、上から2番目辺りだと思います。数値は「BP」(=Blood Pressure)で表され、120/70などのように表示されます。一番大きい数字が最高、小さいのが最低、真ん中は平均血圧です。

 Cは聞き慣れないかもしれませんが、心臓を患った赤ちゃんでは非常に重要な項目です。通常は「サチュレーション」などと呼ばれますが、これは正式には、「動脈血酸素飽和度」というものです。動脈血、すなわち全身に酸素を届けるべく心臓から送り出される血液には、たっぷりの酸素が含まれていなくてはなりません。この「たっぷり」の度合いを示すのがSpO2で、正常ではこの値は95〜100%を示します。足先や指先などに赤い光の出るテープ(または洗濯バサミみたいなもの)が巻いてあると思いますが、これがセンサーになっています。発光部と受光部が対になっているので、上手く向かい合うように貼っていないと値もめちゃくちゃです。ちなみに麟之介は大体70〜80%前後(^^;)です。

 @、B、Cの波形は、何れも心臓の拍動と連動するので、波形の形は違っても、ほぼ同じタイミングで波形の「山」が出てきます。見分けるヒントにして下さい。また、表示している数値(特に回数)は、電極・センサーの装着状態が甘いと、体動などですぐに狂ってしまいます。値が、事前に決められた範囲を越えると大きな音でアラーム(警告音)が鳴りますが、慌てずに画面を見てみましょう。寝返りなどの体動によるノイズなら放っておけばアラームは止みます。また、アラームを止めるボタンは、殆どの機械では、オレンジや赤の目立つ色をしたボタンで、「警報解除」などと書かれていますが、赤ちゃんに本当の異常があった場合にみなさんがこれを押してしまうと、ナース・先生が気づかないので、絶対に押さないようにして下さい。

 また、過去にさかのぼって、心拍数や呼吸数の変化を見ることも出来ます。「トレンドグラフ」と言われる機能で、面会できなかった時間の様子がある程度、判ります。「画面選択」などのキーを何回か押すと見ることが出来ますが、やはり、医療従事者の先生やナース以外の人が機械に触るのは、何かあった際の責任問題に発展する可能性もあり、非常に危険です。もし見たい場合にはナースにお願いするなどしてからにしましょう。


人工呼吸器について

 見たらすぐにわかる機械です。要は空気(酸素濃度はちょっと濃い目にすることが多いです。)を一定のパターンで肺の中に押し込んでいるのですが、口から入っているチューブが何とも痛々しいですよね。場合によっては「気管切開」(喉のちょっと下辺りを切って、そこから管を気管内に入れることです。痛い〜!!)などをしていることもあり、ひどいことをしている機械だ、というイメージも強いかもしれません。

 手術が終わって、麻酔が抜けないうちは、呼吸する筋肉も麻酔が効いているので自分で呼吸(自発呼吸)ができません。そのため、人工呼吸器(ベンチレータ、あるいはレスピレータと言います。)で呼吸を手助けします。最近の機械は性能が良いので、自分の呼吸が始まりだしたら、それを検知し、機械からの空気の押し込みを止めます。こうすることで、少しずつ自分の呼吸を増やしていく(ウィーニング、と言います。)ことが出来ます。一分間あたりの自発呼吸が10回あって、目標が毎分20回だとしたら、最初は機械の設定は10回/分。だんだん元気になって、自発呼吸が増えてきたら、自発+機械の回数が20回になるように機械の回数を減らしていけば、最後は20回全てが自発呼吸で行えます。


輸液ポンプについて

 栄養剤・強心剤・利尿剤など、麟之介もたくさんの種類の薬を腕に刺したチューブから摂取しています。これら液体の薬などを一定の流量で体内に送るのに使う装置が輸液ポンプやシリンジポンプと言われるものです。

  @輸液ポンプ・・・点滴台の上の方に吊したバッグやボトルから出ているチューブを挟み込み、装置内部でそのチューブをしごくことで、流量などをコントロールしています。栄養剤など、長期間、量の多い輸液をする際に用いられるのが一般的です。

  Aシリンジポンプ・・・名前の通り、「シリンジ」(注射の筒です)をすこ〜しずつ押すことで、流量などをコントロールします。輸液できる量も限られており、強心剤・利尿剤などの薬液投与に用いられます。体の小さい子供達では、特にきめ細やかなコントロールが必要とされるので、こちらを使うことの方が多いようです。

 ベッド周りには、ほぼ間違いなく、最低1台は置いてあるはずの、ごくありふれた装置ですが、投薬の場合には量の管理を誤ると、生命に関わる事態にもなりかねません。現場のスタッフも最新の注意を払って設定をしているはずですし、装置の精度も非常に高いクオリティで管理されていますが、一応、患者側からでも気をつけられることを少しだけ。

 まず、流量の設定ですが、「1.0ml/h」など、1時間当たりの流量設定が画面に表示されているはずなので、毎日、チェックしましょう。極端に変わっている場合には、病状の変化に対して先生から指示があったことに由来するケースがほとんどですが、設定ミスによる可能性も否定できません。
 また、輸液している薬液については、ビニールテープに内容物を書いて、シリンジやバッグに貼ってあるはずです。液の色などである程度の区別はつくはずなので、ナースに聞いて、どんなものを使っているか、また、どれがなんの薬かを覚えておきましょう。
 少し細かくなりますが、輸液チューブをよ〜く見てみましょう。中に気泡がついている場合は要注意。血管に気泡が入ると凝固した血液が血栓となり、末梢のほそ〜い血管に詰まったりします。静脈への輸液では、そのまま肺で吸収されてしまうので大丈夫、という方もいらっしゃいますが、気をつけるに越したことはありません。もし見つけたら、すぐにナースに声をかけましょう。

テレメータについて

 恐らく、この名前で呼ばれている施設はあまりないと思います(やっぱりこれも「モニター」って言われちゃいます。)が、実際は「医用テレメータ」として総称されます。この項の一番最初に「モニターって・・・?」というタイトルで、心電図モニターについてご説明しましたが、基本的には、あの「モニター」が無線式になって、計測している情報が電波で受信機に飛ぶ、という装置です。

 NICUやICU・CCUから晴れて一般病室へ移ったものの、しばらくは心臓の様子が気になるので、ということで胸に電極を貼り、タバコの箱くらいの大きさの機械を渡されたパパ・ママもいらっしゃるのではないでしょうか。これが「テレメータ」の送信機です。心電図を図る原理は「モニターって・・・」で説明した通り。違いは、この測定した波形を電波でナースステーションにある受信機に送っていることです。患者さんのすぐ側では観察できませんが、看護婦のみなさんがナースステーションでバッチリ観察してますからご安心を。トイレに行く間もバッチリです。ただ、大きさを見て頂くとお分かりかと思いますが、何せ、あのサイズ。心電図と呼吸くらいを測るのが精一杯です。従って血圧やSp02といった項目を測定する場合は、もっと大きな送信機を使用するか、普通の(有線式)ベッドサイドモニタを使用するしかありません。

 また受信機は、一人用のもの(つまり送信機1台と受信機1台が対)と多人数用のもの(受信機が例えば8人分を同時に受信できるような)があります。一般病室の患者さんの分は、ナースステーションにある多人数用の受信機で観察するケースが殆どですが、この受信機を「セントラルモニタ」といいます。尚、普通のベッドサイドモニタ(有線式)も、セントラルモニタで観察することが殆どです、この場合は、何台かのベッドサイドモニタとセントラルモニタが直接、壁の中のケーブルでつながっています。たくさんの測定項目を観察できますが、ちょっとトイレに・・・なんてことはできません。

 「テレメータ」で使用している電波は、「電波法」という法律で、他の装置やアマチュア無線が使用する電波からは完全に保護されています。ですからそうした機械との混信は心配はないのですが、テレメータ同士ではもちろん、混信の可能性があります。ですから、患者の取り違えが起こったら・・・なんて考えると心配ですが、ご安心を。送信機をよく見ると「5073」とか「6001」など、4桁の番号が記載してあると思います。これが「チャネル」と呼ばれる、いわば識別コードです。その送信機が使用している周波数を数字で表したもので、もちろん、受信機側にも同じ数字が表示されていて、対応するようになっています。ラジコンなどを趣味にしているパパ達なら、すぐにイメージが沸くと思います。テレメータは導入時に、この番号がダブらないように、院内で、きちんと管理しているので、混信してしまうことはまず、ありません。

 それから、他のフロアにいったりしても大丈夫なのか気になりますが、これは、アンテナの配置によります。その患者さんの入院している階に受信機があるのですが、アンテナを他の階にまでひいてあれば、もちろん受信可能です。一応、直線見通しで100mくらいが安定して電波が届く範囲なので、1フロアに何カ所かアンテナが立っているのが通常です。まあ、病院によって千差万別なので、確認してみて下さい。

 送信機には、ナースステーションに届く電波を利用して、ナースコールボタンがついています。これを押すと、セントラルモニタ上に、呼び出しがあったことが表示されますが、通常は、ベッドに備え付けのナースコールを使用するようになっています。但し、廊下をあるいていて急に気分が、なんて時にはぜひ活用して下さい。

 最後になりますが、実際に身につけてみると、大きさの割に結構な重さだということが実感できました。メーカーの人間がこんなことを言うのも変ですが、やっぱり、まだまだ改良されていく余地はありますね。そのうち、電極一つで、心電図だけでなく血圧やSpO2なども測れるようになるといいですね。