何万人もの人の列が、道路を埋めつくし、バグダッドの南150kmのカルバラを目指していた。人々は、胸をたたきながら、「フセインは永遠」などと、唱えながら歩く続ける。
フセインといっても、フセイン大統領ではない。イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の孫で、7世紀の宗教指導者フセインの名前だ。彼が殉教した日から、40日目に行われる、イスラム教シーア派最大級の宗教祭典「アルバイン」が、聖地カルバラで、22日から始まった。国内外から約800万人の教徒が集まるという。
同じイスラム教でもスンニ派中心だったフセイン政権下で、シーア派は大規模な宗教行事を禁じられてきた。今年の「アルバイン」は、フセイン政権崩壊で、弾圧から開放されたことを祝う場のようでもあった。
車で来る人、歩いてくる人とさまざまだが、中には400kmも離れたバスラから、15日間歩いて来た人もいるという。歩くことも、祈りと同じような意味を持つのだという。
米軍とイラク軍の激戦の舞台となったナシリアから、車と徒歩で2日間かけて、カルバラに着いたアブド・サダールさんは、開放の喜びをこう語る。
「サダムの時代は終わった。我々は、35年間今日のような行事を禁じられていた。アメリカには感謝している」
こんな人もいる一方で、「我々は、独立した政府を望む」と、書かれたプラカードを掲げて、「アメリカは出て行け」と叫ぶグループも見られた。
イラクの総人口の約65%を占めるシーア派の支持なしに、新政権の安定は望めないとあって、米の慎重な対応が求められるところだ。
しかし、同じ22日、シーア派教徒約1万人が、シーア派聖職者会議指導者の1人、アルファルトシ師が米軍に拘束されたことに抗議して、デモを繰り広げた。米のイラク復興の舵取りは、まだまだ前途多難のようだ。(2003年4月、熊本日日新聞掲載)

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