モダン・ジャズ入門

− これであなたもジャズ・マニア −


1.これを聴いてみよう

ジャズという音楽は、聴いたことのない人にとって「敷居が高い」というイメージがあると思います。 簡単に言えば、「何を聴いたら良いかよく分かんない」のではないでしょうか。 また、仮に耳にしたことがあっても、「何をやっているか分かんない」という人は多いでしょう。

一言で「ジャズ」といっても、そのスタイルは多種多様で、うっかり聴けば「その後の人生進路を変えてしまう」という恐ろしい演奏があるのも事実です。 そこで、初めての方でも比較的安心して聴けて、しかもジャズにハマってしまうという、これまたオソロシ的名盤をご紹介しましょう。 ここで紹介するアルバムは比較的入手が簡単なので、近くのレコード屋さんで買って下さい。

この入門書をより深く理解(笑)するために、この中から選んだアルバムを聴きながら先に進むことをお勧めいたします。

厳選・ジャズ入門盤 (ここからアルバムを選んでね)

どれか選んで、1回聴いてみてね。 では、2へ行ってみましょう。


2.もう1回聴いてみよう

いかがでしたか? 「曲の始めと終わり辺りは分ったけど、真ん中あたりが良く分らん。 一体全体、何してるの?」 という感想が多いのではないでしょうか。 そうなのです。 スルドイあなたは、「ここら辺りが、どうも怪しい。」と感づいたことでしょう。 これこそまさにジャズの核心部分なのです。 あ、そんなに警戒しなくても大丈夫、難しい話じゃありませんから。

さて、曲の「始めと終わり」が分り易い理由は、「あらかじめ作曲されたメロディーは、曲の始めと終わりしか演奏しない」ためです。 分かり易くて当然ですね。 では、「真ん中あたり」は何をしているのでしょうか?

その前に、一般的なジャズの演奏形態について、簡単に説明しましょう。 ジャズの演奏は、大抵32小節で1区切りになっていて、この32小節分のメロディーが、テーマと呼ばれる「あらかじめ作曲された部分」です。 小節って、小学校で習いましたね。 この32小節をコーラスと呼び、「1コーラス・2コーラス」と数えます。 ううむ、ちょっと難しくなってきましたね。もう少しですので、がんばりましょう。 では実際の演奏は、どうなっているのか見てみましょう。

<一般的なジャズの演奏形式>

テーマ(1コーラス) → ★ いろんな人のソロ演奏(数コーラス) → ★ テーマ(1コーラス)

といった具合でしょうか。 見ての通り、真ん中あたりは「いろんな人のソロ演奏」となっていますね。 ここでは、一体何を演奏してるのでしょうか。 音楽の流れとしては、32小節の繰り返ししかありませんから、当然バックのピアノやベースは、テーマでやっていたことを繰り返しています。(便宜的にこう言ってるだけで、本当は違うことをやっているのですが) 試しにテーマを覚えて、演奏中それを歌い続けてみて下さい。 コーラスが繰り返されている事が良く分ります。 もちろん、ドラムスのソロ中だって同じですよ。

ではソロ演奏者は、一体何をしているのでしょう。 皆さん、こんな風に言うと驚かれるでしょうか。

彼(彼女)は、「その場で作曲し、かつそれを演奏している」のです。

いわゆる即興演奏・アドリブですね。 この即興は決してデタラメを演奏している訳ではありません。 いかにテーマより美しいメロディーを創るか、に腐心しているのです。(そうでない演奏ももちろんありますが) ジャズ演奏の善し悪しを分けるのは、実はこのソロ演奏の出来不出来にかかっている、と言っても過言ではないでしょう。

では、テーマとソロの違いに注意して、もう1回演奏を聴いてみましょう。


3.更に聴いてみよう

いかがでしたか? 「テーマとソロ・コーラスの違い」はお分かり頂けたでしょうか。 「でも 、いろんな楽器が鳴ってて、どれが誰の演奏やら、さっぱり分らん」 という方がいらっしゃると思います。

そこで、今度は楽器の「音色」を覚えるために、ある一つの楽器だけに焦点を絞って、聴いてみましょう

リズム楽器の、ピアノ・ベース・ドラムスあたりは皆さんお馴染みで、難なく聞き分けられると思いますが、ジャズでの役割を理解するために、一応別々に聴いてみて下さい。 さて、クセモノはやはり管楽器でしょう。 もともと馴染みが薄いうえに、ジャズで登場する管楽器は種類が多いですものね。 まずはアルバムのライナー・ノーツ(解説書)なんかを読んで、どんな楽器が出てくるか確認しておいて下さい。 このライナー・ノーツには、登場する楽器やソロを取る順番が書いてあったりと、なかなか重大な情報が隠されているものです。

では、一つ一つの楽器に焦点を当てて、実際に演奏を聴いてみましょう。


4.更にもう1回聴いてみよう

いかがでしたか? 楽器の違いが聴き分けられたでしょうか。 さて、いよいよ仕上げですが、そろそろ飽きてきましたね。 あともう少しで、ジャズが面白くなってくると思いますよ、たぶん。

それでは、今回はこんな風に聴いてみましょう。 これまで、ある一つの楽器に当てていた焦点を、複数の楽器に増やしてみましょう

分かり易く言うと、「サックスがタラリララ〜と演奏しているバックでは、ピアノやベースやドラムスは一体どんな事をやっておるのか」という聴き方をするのです。

前にもお話しましたが、ジャズの醍醐味はその「即興性」にあります。 これは、ソロ・プレイヤーに限った話ではないのです。 バッキングを担当している人々も、それぞれが即興で音楽に関わっている、というなんだか物凄いことになっているのがジャズなのです。 そうすると、音楽的クライマックスというものは、当然予告無しにやってきます。 「ううん、録音わるいねえ」等とのんきな事を言っている間にも、物凄いインター・プレイが繰り広げられているかも知れないのです。

「音楽は終わると空中に消えてしまう。 そしてそれを、もう一度取り戻すことはできない。」 というドルフィーの言葉が好きです。 そう、これは一期一会の、演奏者たちと、そしてあなたの、リアルなドラマなのです! ちょっと...いや、だいぶ大袈裟かな。

「サックス・ソロを煽る怒涛のドラムス」や「トランペットのフレーズに敏感に反応して、同じフレーズを繰り出すピアノ」なんていうドラマが見えてくるようになれば、ジャズを聴く楽しみは、今までの数十倍になることでしょう。

蛇足ですが、ジャズを聴いている人に対するイメージに、「腕組みをして、瞑目している」というのがありますね。 これは、別に危ない人だからでは、決してありません。 こうして集中することで、音楽的ハプニングを聞き逃すまいと、努力しているのです。

では、「腕組みをして、瞑目しながら」、聴いてみましょう。


5.に出てみよう

いかがでしたか? 耳の良い人だったら、演奏家同士の「音楽的会話」が楽しめたと思います。 そうなのです。 これが「ジャズ」のヨロコビ、「インター・プレイ」なのです。 この面白さが分かってしまうと、世界は一気に広がります。

あなたが手にされているアルバムで、お気に入りのプレイヤーは誰でしょうか? ソニー・ロリンズでしょうか、それとも、アート・ペッパーでしょうか? お気に入りジャズ・メンができたら、もう1度レコード屋さんへ行きましょう。 そこで、その演奏者が参加しているアルバムを方端から聴きまくるのです。 そうすることで、「名盤」と「そうじゃない物」を聞き分ける耳が養われていくと思います。

あくまでも自分の耳を頼ることが、一番大切なことだと思います。 雑誌やなんかの評論は、あくまで参考程度にして、「最終的評価は自分でやってみる」というのが良いと思います。 ジャズのアルバムには「歴史的価値」が強調されすぎていて、これを知らなきゃジャズを聴く資格なし等と、居丈高なものがありますが、無視して下さい。 そういったジャズは今は必要ありませんし、これから先聴く機会は、いくらでもあるかと思います。

そうして聴いているうちに、「おっ、このピアノなかなか良いねえ。」とか、「おおっ! 神だ...」といった演奏に出会い、次第に知識が広がっていくものなのです。 気に入ったものを、じっくりと聴き込んでいきましょう。

あと、「気に入った曲を追いかける」という方法もあります。 例えば「枯葉」の入っているアルバムを買い漁り、それぞれの演奏スタイルを聴き比べてみるという、ちょっぴりゴージャス(笑)な楽しみ方もあり、なかなか面白いものです。

では、レコード屋さんへ行ってみましょう。


6.彼方

ようこそ、ジャズの世界へ。 ここまできたら、あとは放っておいてもマニアになる事でしょう。 自分なりの「ジャズの楽しみ方」なんかも出てくると思いますので、ここでの「聴き方」なんか無視して好きなように楽しんで下さい。 あっ、大切な事を忘れていました。

ジャズの良さは即興にあると何度も言ってきましたが、レコード(CD)で聴くジャズは、やはり製品だと思います。 それはそれで良いのですが、月に1度くらいは「ライヴ」を見ておきたいものです。 これこそまさに、「その瞬間に生れた音と出会える唯一の場」なのですから。 レコードで神懸かり的プレイを繰り広げた人が、ライヴではヘロヘロなんて事もあります。

初めてライヴに足を踏み入れるのは、なんだか恐いものですが、そこは勇気を振り絞るなり友人を騙すなりして、なんとか潜入してください。 都合が合えば、私もご一緒できるかも知れませんね。

では、行ってらっしゃい。 またどこかでお会いしましょう。

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