Spirituality(崇高):シャミノと霊魂
rune_honor ブリタニアの死者は安らかな眠りにつくことが出来ずにきた。 何故そうなのかは分からないが、 この世界、この国土の生命力があまりに旺盛なので死者にさえ その思い出を蘇らせてしまうのかも知れない。
ともあれ、私の最後の物語は、礼儀を わきまえない墓地の住人が街を襲った時のものだ。ただの亡霊の類ではなく 実際のゾンビの被害についてだ。 そこでは毎晩のように死者の集団による暴動が起き、 しかも彼らは無目的にうろつくのではなく、何か背後に悪意ある ものが居て、その命令で秩序立って破壊と恐怖をもたらしている ようだった。

村人達は、これは松明や熊手とかで立ち向かっても どうしようもないのは明らかだったので、 王の助けを願う使いをブリテン市に向かわせた。

願いは迅速に聞きいれられた。ロード・ブリティッシュは 他ならぬレンジャーのシャミノに命を下した。シャミノはブリタニア の最初の英雄であり、陛下のもっとも古い友人である。

彼は街につくとすぐに剣と弓、盾で以って仕事に取り掛かり、 あっという間にさまよう亡者達を小さな肉塊に変えてしまった。 亡者を片づけるとシャミノは墓地に乗り込んで行き、 そこに太古の地下墓地に続く新しいトンネルが口を 開けているのを発見した。

湿った陰気な暗がりの中に、シャミノは災厄の根源で あるリッチを見つけた。それは第一暗黒期の 時代から生き延びる古くて力ある亡霊だった。 そいつは何世紀にも渡って墓地に眠り続け、 最近目覚めて地上の人間を悩ませていたのだ。

シャミノはそいつを一晩中に及ぶ長い魔法と剣の 戦闘の末に打ち倒した。何故この戦闘叙事詩を端折るように 話すかと言うと、これが単なる前奏曲に過ぎなかったからだ。

リッチを倒した後もシャミノは街にとどまる事にした。 戦いの疲れを癒すためと、化け物が本当に死んだのか 確認するためである。

リッチの死後二晩目、一人の村の若者が恐怖のあまり 神経をすっかりやられてしまった状態でシャミノの前に 現れた。

若者はやがて落着きを取り戻してシャミノに語った。
彼はもう悪霊たちは消え去ったと思って、肝試しに墓地に入ってみたと言うのだ。しかし彼は 墓地に入るや否や、ゾンビ達ではなく、霊魂のうなり声に 出くわすことになった。 彼は霊魂達の呟き声を全く理解できなかったが、 その中に込められた絶望と自暴自棄の念力たるや凄まじく、 普通の死体に出くわしたほうが余程ましだと思わざるを 得なかった。

シャミノはリッチの討伐が完璧でなかったために その邪念がこれを引き起こしているのだと思い、 それほど驚きはしなかった。彼は一日かけて準備をすると、 深夜に再び墓地に入っていった。

彼は墓地の門をくぐると同時に霊魂たちに囲まれた。 彼らはてんでばらばらに悲嘆にくれ呻き声を上げ、 それはシャミノの心にも突き刺さった。 シャミノはこの霊魂たちに邪悪なものは感じなかった。 ただ酷く孤独で絶望に満ちていることがシャミノの心を 打ったのだ。

しかしシャミノは村の若者とは違い、意志の強い人間 である。霊魂の叫びは物理的に何の危害も及ぼさなかった から、心に蓋をして惑わされないようにしてから、 結界を張る準備を始めた。彼のスキルの働きで霊魂たちは シャミノの前で沈黙した。

それからシャミノは一つ目の霊魂に言った。
「さて、あなた。あなたは何故夜な夜なここをうろつくのか 言ってみなさい。」

「私はかつて」霊魂はため息をついた、「裕福な人間で その富を誇っていた。しかしそれを周囲の人間の助けに なるように使った事はなく、今では私の人生が 無意味だったと思うのだ。」

「あなたのプライドは大きかった。」シャミノは言った、 「それが今はどうだ? あなたが見下げてきた貧しい人達の 方があなたよりも安らかに眠りについている。安らかに 眠るのだ、死の謙譲(Humility)とともに。」

霊魂はシャミノの言葉を聞くと、これを受け入れ、消え去った。

(さまよう霊魂が言葉だけで消えるのは奇妙に 聞こえるかも知れないが、レンジャーのシャミノは 普通の人間ではないのだ。彼が霊性(Spirituality)に ついて話す時、彼はその権威であり、超自然的世界の 生き物は彼の言葉に従うことになるのだ。)

次の霊魂が言った、「私は生前、あたかも自分が英雄か貴族で、 持ってもいないスキルを持っているかのように気取って 人々に話していた。友人や幸運を手に入れたいと思ってのことだ。 だが今思えば私が嘘をついて手に入れたものはすべてそれ自体 偽りばかりだ。」

「それなのに」シャミノは答えた、「あなたはまだうわべを 装っている。何故生きている者の間を歩いて彼らを悩ませるのだ。 偽りを捨てて本来の姿になるのだ。 死の誠実(Honesty)の中で眠るがよい。」

「生前の私は、」三番目の霊魂が言う、「自分を人間の 間に放たれた狼のように思っていて、弱き者は私の 餌食でしかなかった。私は彼らのなけなしのものも 奪って自分のものとした。しかし今は、それゆえ 酷く憎まれていたことが悲しい。」

「では何故未だに生者を苦しめるのか?」シャミノは問うた。 「あなたが慈悲に欠けていたことを悔いているなら、 死から慈悲(Compassion)を学べ。それは全ての苦痛と悲しみ を終わらせるであろう、例え汝のものでも。」

「生前の私は、」四番目が語り始めた、「自分の前にある 危険から逃げていた。今思えば、栄光の内に、仲間の慰めに 囲まれて死んだほうがどんなに良かっただろうと思う。 罪の意識を感じたまま無駄な生を重ねたことを思えば。」

「あなたは未だに逃げている」シャミノは冷淡に言った。 「恐怖の中にとどまり、勇敢に(Valiantly)死の神秘と 抱き合うのだ。あなたの友や愛した者もそこで待っているのだ。」

五番目の霊魂が嘆願するように言った、 「生前私は友情から罪人の弁護にまわり、 主人に命じられて無罪の人を声高に責めたことが ある。この間違った行為で私は今ツケを払っている のだろうか?」

「あなたは自分のした行為に対して名誉回復を求めているが、 あなたは全ての人が直面する審判から逃げている。 公正さに飢えているならば、 死の公正さ(Justice)に気付くだろう。それは 最終的な判決なのだ。」

「私は生前守銭奴だった」六番目が言う、 「生涯富に囲まれていても孤独で、誰かに とって意味あることをしたことがなかった。 雇い人が誠実になし得た仕事に対して支払いを するときでさえ、自分の金の方が大事で 値切ろうとした。だがその金は今何処にあるのだろう?」

「実際あなたの金はもう永遠にあなたの手には届かない。だがあなたには 一つだけ献身的に為せることが残っている。それは あなたの哀れな不死を、死に対する捧げ物(Sacrifice)に することだ。死は忍耐強くあなたの供物を待っている。」

あと二つの魂が残っていた。月明かりにふらふらと飛びながら 遂にそのうちの一つが言った。

「かつて私は、私を愛してくれた男に仕えていた。 私の奉仕と親愛を何よりも大事にしてくれた男だった。 しかし私はより大きな富と権力を求めて彼を裏切ってしまった。 今の私は手に入れたもの全てを失った。私が仕えた相手は 私を虫けらのように見るだけだ。」

「あなたの為した悪は大きい」シャミノは厳粛に言った、 「あなたに免罪符を渡すことは出来ない。だが あなたは自分の最後の義務を果たすべきだ。 名誉をもって(Honorably)死に至るベールをくぐる気はないのか?」

最後の霊魂はそよ風に漂うだけで話したがっているようには あまり見えなかったが、シャミノが沈黙を破った。

「霊よ話し給え。不自然な生に汝を結びつけて苦しめる汝の罪を。」

「私は罪に汚れてはいない、」霊魂が応えた「私は何時も 徳に能う限りの敬意を払ってきた。」

「それでは何故、自分の死を前にして躊躇っているのか?」シャミノは問うた。

「私は死者ではない、」幽霊は応えた「だが以前ここにいた 何か邪悪なものが私の霊と体を分離してしまったのだ。 どうか私を自分の肉体に戻してくれ。そうすれば余生を 続けられるのだ。」

これは初耳だったが、それでもシャミノの鋭い 観察眼からすれば、生きた人間の霊と死者の霊の違いは 若い樫の木と腐った切り株の差と同じ位明白だった。

「それは思い違いだ、友よ」シャミノは穏やかに言った「あなたは 本当に死んでいるのだ。誓ってよい。あなたは眠りについて 生者を悩ますのを止めなければならない。」

「嘘だ」霊魂は吼えた、「私は動けるし見ることも話すことも 出来る。それなのに死んでるって?私は生きてるんだ!生きてる!」 それはシャミノの言葉の呪縛から逃れようとし、彼を 攻撃しようとした。だがシャミノの張った結界は強く、他の霊魂が去ったことで 超自然界のエネルギーは弱まっていた。

シャミノには何が霊魂を地上に結び付けているのかが分かった。 霊性(Spiritual)の能力は少ない手がかりから背後に隠された 真実を見ぬく力だ。この霊魂は忌まわしくも呪われていた、 それも自分自身が作り出した呪いによってだ。 他の霊魂たちが自らの罪を自覚して苦しんでいたのに対し この魂はそれを全く認めないことで苦しんでいたのである。 霊魂は自らを偽り、臆病にも死から目を背け、自らとその 真の姿を嫌っていたのである。これはそれぞれ偉大な三原理 (真実、勇気、愛)への拒絶で あり、同時にこの三つが作り出す最高の徳、崇高さ(Spirituality) に対する否定だった。

シャミノは暫くこの哀れな魂を前に立ち尽くしていたが、やがて 言った。 「あなたには何もしてやれることがない。そのままでいるがよい。」 シャミノは結界を解くと、その場を永遠に立ち去った。

霊魂はと言えばその後も墓地をさまよい続けた。 もはや人々を怖がらせる力も無く、夜の暗闇の中で、 そして自らの蒙昧の中でさまよい、うめき、ため息をつくだけだった。


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