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『リチャードっていう人についてあれこれ』,金井哲夫、99/6/11※日本におけるUltimaの翻訳紹介の第一人者にして元アスキー『ログイン』の編集者、現在は東京トホホ会の主催者である金井さんが、リチャード・ギャリオット(ロード・ブリティッシュ)氏との個人的な親交の思い出を語って下さいました。 金井哲夫さんのサイト 近著:『Genesis of Ultima』,ローカス,1999 |
| リチャードっていう人についてあれこれ |
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なんだかダラダラと思いつくままにリチャードに関する思い出話をダラダラと書いちゃったけど、ダラダラして読みにくいかも知れません。なんせ、ダラダラしてますから。なので、ダラダラ読んでいたらけると幸いです。すいません。 |
| オリジンでもっとも発見されにくい重役 |
ロード・ブリティッシュではなく、生のリチャードとはどんな人かを書こうと思って、いろいろ過去のことを思い出してみると、オリジンの彼のオフィスに飾られている金のプレートの言葉が目の前に浮かび上がる。 "The most invisible executive."(もっとも目に見えない重役) つまり、いつもどこかに消えてしまうという意味。 |
写真には映ってないけど、あのときみんな、NASAと書かれたデカパンをはいていた。突然お風呂に誘われたわけで、こっちは桶も石鹸もアヒルも水中モーターも用意していない。聞けばジャクジーだから、水着を着て入るだけとのこと。しかし雪がまだ残るニューイングランド地方の取材に水着を持ってくる人なんていないでしょ。そこで、ロバートが奥の部屋からNASAのトレパンをごっそり出してきてくれた。ご案内のとおり、彼のお父さんはオーエン・ギャリオット。NASAのスカイラブ計画で、宇宙滞在最長記録を打ち立てた宇宙飛行士。だからNASAのトレパンもあるわけ。それにしてもでかい。宇宙飛行士になるには、あのドでかいパンツがはけなければならないのだ。 話を戻そう。オリジンのオフィスでウルティマXの取材をしたあと、みんなでお食事をして、そのあとロバートの家になだれ込んだんだけど、その途中でリチャードは消えてしまった。たぶんおデートかなんかだったんだろう。 あとで聞いた話だけど、あのころリチャードは猛烈なホームシックにかかっていて、黒い皮の上下を着てパンクなアクセサリーをじゃらじゃらつけて夜の田舎町を歩いていたそうだ。ほんとに何もないところだったからね。すぐ近くに自家用飛行機の飛行場があるぐらいかな。 それからちょっとして、リチャードとロバートと奥さんのマーシーが日本にやってきた。あれはたしか、ポニーキャニオンからウルティマW日本語版の発売キャンペーンのときだったかな。当時のログインの編集長だった小島さんたちといっしょに青山の回船問屋という魚料理の店に行ったんだけど……、あ、そうそう、あのとき、マーシーにすごく悪いことをしちゃったんだよね。 何を頼もうかとメニューを見ていたとき、珍しいものを取ろうということになって、たぶん小島さんが、車えびの踊り食いセットかなんか頼んだんだよね。そいつは、生きたエビを透明なガラスの容器に入れて、強いお酒を注ぐってやつで、エビがもうびっくりしてばたばた暴れるわけ。それを食えという、とんでもない料理なんだけど、これを見たマーシーは顔を引きつらせちゃった。かなりショックだったらしい。すごく嫌な顔をしていたんだ。こっちだって、こんなラジカルなものとは知らず手が出せなかったのだ。小島さんは、自分が頼んだくせして「お前が先に食え!」と腰が引けちゃってた。 いや、それだけならまだいいんだけど、そんなマーシーを見て、ロバートは「そんな顔をしたら失礼だろ」みたいにマーシーを叱っていたんだ。だからさ、すごく悪いことしちゃった気がして。 あ、そうそう、ついでにもうひとつそう言えば、ロバートってすごくいい人なんだよ。この人ホントにアメリカ人なの? って思うぐらい、神経がこまやかで穏やかで、すごく他人のことを気遣うし、なにより腰が低い。 で、その回船問屋では、最初、ボクとリチャードは座敷の上で膝を突き合わせていた。ウルティマXのことを熱っぽく語るリチャードの話を聞き漏らすまいと、おビールに手もつけずに聞いていたのだ。しかしやがては、おビールのほうからこっちにやってきて、なんだかずるずるとだらしない形になり、エビが踊り、マーシーの顔が引きつるといったころになると、リチャードの影が薄くなっていた。消えてはいなかったけど、隅っこでニヤニヤ笑ってた。 リチャードという人は、ウルティマのことなんかをこっちから聞けば、いくらでも話をしてくれる。こっちの目をまっすぐに見て、本当に真剣に説明してくれる。でも、無駄なおしゃべりとかは、あまりしないほうだ。普通に話はするけど、ボクみたいに相手が嫌がろうが何しようが、くだらないことをべらべらしゃべりまくるタイプではないんだ。反対に、人の話をよく聞く。ボクがログインで馬鹿編集者をしていたころ、ボクみたいないい加減な人間の意見を、ロバートもそうなんだけど、身を乗り出すようにして真剣に聞いてくれるんだよね。 どんな些細な情報でも真面目に聞いて、自分に役立てようとする。それは、今でも同じ。大金持ちの世界一のゲームデザイナーになった今でも、ボクの話を真剣に聞いてくれるし、友達の意見に敬意を払ってくれる。そこはほんとにエライと思う。 |
| リチャードは本当の「いい人」 | |
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![]() | そう、リチャードって、意外におとなしい人なんだよね。ウルティマのキャンペーンでは、大きなコンピューターショーの会場で騎士の格好をしてチャンバラまで見せる人なんだけど、どこか静かな雰囲気がある。二面性というほどかけ離れてはいないんだけど、ばーっとみんなと遊びたがるくせに、ひとりでニコニコしてたりする。ロード・ブリティッシュとシャミノが同居してるからかな。 |
| ボクがログインで無気力編集者をやってたころ、アメリカにはリチャードと並んで天才ゲームデザイナーと呼ばれる人が何人かいた。リチャードが神とあがめるビル・バッジは別として、リチャードと同格のデザイナーたちって、今どこでどうしてるんだろう。 今でも印象に残っているのは、リチャードと顔もよく似ていたダグ・スミスだ。『ロードランナー』っていうゲームを大ヒットさせて、いちやくスターになったんだ。そして、ゲームで儲けた金で、湖の近くに家を建て、その1階に下りるとモーターボートのガレージがあって、そこからぶいーん! と湖面に出られるという優雅な生活を送っていたのだ。しかし、その後は鳴かず飛ばず。 何年かして、いろいろなゲームメーカーの人たちと話していると、「どーしてるのかねー」と、たまーにダグのことが話題になってた。で、最近知ったのは、あの直後に金を使い果たして、今はシアトルのニンテンドーでプログラマーをしているとか。 リチャードとダグは、どこが違ってたんだろうかと考えると、どこが同じだったのかを考えたほうが早い。どーんとゲームで儲けたことと、顔が似てたってことだね。それ以外はぜんぜん違う。 まず、リチャードはウルティマがヒットしたその直後から、シリーズ化を考えてウルティマUを作り始めている。自分のアイデアを大切にして、そいつをどんどん発展させようと考えていたんだ。そこは、アクションゲームとRPGではまったく状況が違う。PRGは物語だから、後を引くんだよね。プレイヤーも、当然、その後の話が気になる。だから、リチャード自身はシリーズ化なんて考えてもいなかったんだけど、続編という話は自然の流れだったわけだ。 リチャードのすごいところは、形にとらわれず、面白いアイデアを思いついたら、どんどんそれを実現していく姿勢だ。また、自分の考えだけに固執しないで、外からいろいろなものを採りいれる柔軟性もある。ウルティマUのタイムドアのアイデアは、映画『バンデッドQ』から得たものだし、ウルティマYのマウスコントロールはファミコンの影響だ。 彼は日本へ来ると、精力的にいろいろなものを見てまわった。秋葉原へ連れていくと、もう目をまん丸にして、あれこれ見て回るんだよね。そして、あれはすごいね、これはいいね、と熱心に話してくれる。「それっくらいのことに驚くわけ?」とか思うんだけど、彼の中では、そうした小さい驚きが大きなアイデアにつながっていく。と言うより、どんな些細なことに対しても謙虚に学ぶ姿勢があるといったほうが当たってるかな。 もうひとつ、リチャードが成功した理由として、彼が常に優秀な人たちに助けられているという点がある。アップルUを使って自らコーディングしていた時代からそうだった。あの世紀の大発明”タイルグラフィック”も、バイト先の友達、ケン・アーノルドの協力によるものだ。ウルティマXあたりから、スタッフが増えるんだけど、全員がウルティマファンで、リチャードと仕事をしたいと言って集まってきた人たちだ。 そういうリチャードを見て、「カリスマ性がある」って言う人がいるけど、近くで見ていると、カリスマ性というよりは、単に「いい人」なんだよね。もちろん、ただ人がいいだけで人は集まらないんだから(だって、別にダグ・スミスは悪い人じゃないんだし)、やっぱり王様にふさわしいカリスマ性はあるんだろうけど、実際に付き合って見ると、やっぱり、「いい人」なんだな。 とにかく、人に不快感を与えない。いつもニコニコしていて、話すときも話を聞くときも、まっすぐに相手の目を見る。自分の意見をはっきり言う。ごはんはかならずおごってくれる。 そうそう、ボクたちが取材だなんだでオリジンを訪れると、お昼を食べにいこうよってことになる。で、リチャードが「ごはん行ってきます」というと、ぞろぞろと人が付いて来るんだ。アルバイトとかも含めて、10人ぐらいになっちゃう。それでもリチャードは気にせず、みんながいっしょに座れるテーブルを用意させて、みんなで楽しくごはんを食べる。もちろん、リチャードのおごり。 みんなでわいわいやるのが好きなんだね。オリジンって会社は、アメリカの会社としては非常に珍しく、家族ぐるみで集まって、運動会をやったりもする。でも、日本の会社みたいな、べたべたしたしがらみはなくて、従業員はみな友達って感じでやってるんだよね。 もうやめちゃったけど、オリジンのプロデューサーに、アラン・ガードナーというカウボーイ野郎がいて、彼がボクにしみじみ言ってくれたことがある。 「世界中の金持ちが、みんなリチャードみたいだったら、世の中はどんなによくなるか知れないよ」って。 |
| 幻のオーストラリア移住計画 |
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5年ほど前、オリジンを訪れたとき、リチャードは食事の席で重大発表をしてくれた。 「ここだけの話、ボクはオーストラリアに移住しようと思ってるんだ」 「エーッ!?」と一同。 「この前、リアン(ガールフレンド)と行ってきたんだけどさ、いいところなんだよ。しかも、コンピューターショップもある。だから、仕事も心配ない」 じつにリチャードらしい。コンピューターショップが1軒あったから、そこへ会社ごと引っ越してしまおうという、ウルトラ安易な発想。でも、この無邪気さというか、大胆さが、彼の原動力なのだ。 「テツ(とリチャードはボクのことを呼ぶ)、オーストラリアで仕事したくない?」 そりゃもう! いいところだし、コアラちゃんも抱っこできるし、リチャードがホントにオーストラリアに移住したら、今の仕事をやめてオリジンに入れてもらおうかなと、真剣に考えた。 でも、冷静になってみると、こんな非現実的な話はないよね。まず、お兄さんのロバートが許すはずがない。ロバートがいいよと言ったとしても、親会社であるEAが死んでもオーケーを出さないだろう。海外にオフィスを移すとなれば、EAとしても大事だからね。絶対あり得ない計画だった。 その後、ウルティマオンラインですごく忙しくなって、あの話は消えちゃった。あのときボクは、リチャードの家をオバケ屋敷に改造して、町の人たちを招待してはお祭り騒ぎをするというハロウィン恒例の”スプークハウス”の取材をかねて行っていたんだけど、その打ち上げのとき、リチャードはオリジンのスタッフの前でこう宣言した。 「スプークハウスは今年でおしまいだ。ある秘密の事情があって、スプークハウスを開くことができなくなるからね」 スプークハウスは2年ごとにやってたんだけど、リチャードのそのときの計画では、2年後にオーストラリアにわたることになっていた。だから、「だってオーストラリアに行くんだもん」というナイショの意味が込められていたのだ。 オーストラリア計画が完全に消えてしまった証拠に、リチャードは今、自分のお城を家の近くに建てている。建設責任者は、もちろん、リチャードの親友で、デュプレのモデルになった建築家グレッグ・ダイクス。"大工のダイクスちゃん”と小島さんだったら言いそうな人だ。だから、ボクもオーストラリアへは行けなくなった。 |
| コンピューター・ゲームというフロンティアを切り拓く同時代の巨人でありながら、温かさと純粋無垢の人であるリチャード・ギャリオット氏、その素顔を感じて戴けましたでしょうか。彼の才能が生み出す豊かな仮想世界を体験できる喜びを、私はあらためて感じずにはいられません。 また、突然の原稿のお願いに快く応じて下さり、-素人が主宰するサイトにもかかわらず- かくも興味深い数々のエピソードを披露して下さった金井哲夫さんに深く御礼を申し上げる次第です。 読者の皆様にはご意見・ご感想を金井さんへのメール、またはBBSにてお寄せ下されば幸いに存じます。 孔雀(Kuj@ku) |