友を偲んで仲間が北海道に集まることになったので,その前に東大雪の縦走に出かけました(GPSログはこちら)。 はじめて東大雪を歩いたのは既に40年以上前のこと。学祭の時期,雪の残る6月に7人パーティーで石狩岳から旭岳まで縦走しました。その山行では,序盤で二つ玉低気圧につかまって音更山の山頂で連続ビバークをするという貴重な体験をしました。当時は十勝三股駅まで汽車で行って入山したのですが,その後に士幌線は廃線。現在は代行バスもなくなって,公共交通機関は一日1往復の旭川と帯広を結ぶ都市間バスのみ。そのため,今回は層雲峡から三国峠までタクシーでのアプローチとなりました。 ウペペサンケ山を目指したのですが,思っていたよりも稜線上の雪が締まっていなかったことに加えて,低気圧通過後に強い寒気が入るという天気予報だったので,ニペソツ山にタッチしてから幌加温泉にエスケープしました。 山中では誰に会うこともなく,とても静かな山旅を楽しむことが出来ました。 |
4月28日 (日) 快晴 | |||||||||||||||||||
札幌を始発の特急で出て上川駅へ。10連休の2日目だったので,上川駅前には大勢の観光客が来ているかと思いきやとても静かだった。層雲峡行き定期バスに乗った人も片手で数えられるぐらい。 層雲峡バスセンターに着いてから,タクシーを少し待たせて近くの交番に登山届を出しに行った。ちょうど,おまわりさんは巡回に出ていたので「不在時には電話で」と書いてある受話器を取ると旭川東署に繋がった。「無人の交番に計画書を置いていくのは個人情報保護の観点から困る」と言われ,電話で受け付けていただくことになった。あらかじめ,郵送かメールで届けたほうが良かったようだ。 |
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石北峠への道を分けるまで,タクシーの窓から氷瀑を探していく。でも,崩落事故後に長い銀河トンネルが出来たので,大雪国道から氷瀑群は見えなくなっていた。 三国トンネル入口が見える駐車場でタクシーを降ろしてもらった。層雲峡から8,780円だった。 三国トンネルの脇から三国山に向かう沢に入ると,歩いたばかりのトレースがあった。このトレースは上流で北海道大分水点を直接目指す左俣に続いていたので,こちらは右俣に進んで1462mポコのコルに重たいザックをデポしてから空身で三国山を往復した。コルから岩峰の基部を巻き上がるところは,所々で雪が飛んで薄い藪の中に踏み跡が見えていた。 |
大分水点に向かう真新しいトレース |
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北海道大分水点は,それぞれが異なる海に繋がる3つの川の源頭(石狩川水系→日本海・常呂川水系→オホーツク海・十勝川水系→太平洋)ということで最近名付けられたらしい。 先行していたパーティーとはすれ違いとなってしまったようで,大分水点で引き返した足跡が残されていた。立派な標識にタッチしてから三国山まで足を延ばした。 |
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カンバの樹の下に「北海道大分水点」の標識 |
大分水点から見た三国山 |
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三国山から(左はニペソツ山,中央に石狩連峰,右の雪庇のある高みが大分水点,その奥に表大雪) |
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三国山からの大展望を楽しんだ後は,ザックを回収してユニ石狩岳方面に向かった。午後のザラメ雪はときどき腰まではまる。何回か雪でもがいてからはスノーシューで歩いた。今回は「荷物になるから」とスノーシューを持ってくるかどうか家を出る直前まで迷ったのだが,担いできて本当に良かった。 三国山の山頂から岩峰状に見えていた1643mポコ直下は急な雪面になっていたので,スノーシューを外しストックをピッケルに持ち替える。意外にも,次のポコから細いリッジが現れた。 リッジを越えて尾根が広がったところでテントを設営した。 |
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1643mポコから西を見る |
リッジを越え三国山を振り返る,左奧は北見冨士 |
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4月29日 (月) 快晴 |
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移動性高気圧のおかげで,この日も快晴。中央高地の山々がすべて見渡せる。 出発してからしばらくは雪が締まっていたのでアイゼンで快調に進んだ。 ユニ石狩岳に近づくとハイマツ藪が多くなってアイゼンを外すことになる。特に1706mポコからユニ石狩岳の東コルまでは,かなり長い距離をハイマツを踏んで行くことになった。ただし,雪が消えたばかりのハイマツは下に向かって寝ているので,下りだとそれほど抵抗なく進むことが出来る。 |
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左奥にウペペサンケ山とニペソツ山,中央手前に1706mポコ,やや右にユニ石狩岳・音更山・石狩岳 |
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1706mポコから見たユニ石狩岳 |
ユニ石狩岳から北大雪(ニセイカ〜武利・武華) |
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ユニ石狩岳からの石狩連峰,左端にニペソツ山 |
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この日の最初のピークとなるユニ石狩岳では大展望を楽しむことができた。 ユニ石狩岳からの急な下りは登山道が出ていた。十石峠手前のコルから再びズボズボ雪となる。十石峠には,北側の由仁石狩川に向かったスキーの跡があった。 |
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音更山への急登はキックステップで登る。重荷で消耗させられたが,尾根が明瞭になる上部は雪が消えて登山道が現れていたので,だいぶ助かった。 音更山の山頂部は,背の低いハイマツに覆われた平坦な地形で,風がダイレクトに吹き抜ける。昔々,よくもまあ,こんなところでビバークしたものだと,あきれてしまった。 音更山の下りは,巨岩が堆積した雪の消えた斜面から始まった。コル付近から石狩岳に向かって登山道の刈り分けが白い筋として見えていたが,刈り分けを埋めた雪はまったく締まっておらずスノーシューを履いていても消耗した。 |
十石峠から左に石狩岳・右に音更山 |
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音更山から石狩岳を望む。 |
石狩岳から川上岳・JP方面を望む。 |
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石狩岳の肩に上がる最後のところが堅雪の急斜面になっていたので,両手のストックをピッケルとバイルに持ち替え,シャフトを交互に根元まで埋めながら登った。 だいぶ時間がおしてきたが,石狩岳〜川上岳〜JPの稜線は,いつも強い風が吹いている印象があるので,稜線上ではテントを張る気にならない。 石狩岳からJPの道は北斜面をトラバースしていく。予想通り,雪は少なめで夏道が出ている箇所が多くて歩きやすかった。 |
JPの下り・かなたにニペ |
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沼ノ原とその向こうにトムラウシ山(JPの下りから) |
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JPの到着時間は16時近かった。JPの一番高いところにタッチしてから,雪が消えて背の低いハイマツとガレ場が出ている南の尾根を下る。1717mポコまでは,かすかに踏み跡が残るハイマツ帯とお花畑帯を歩いた。 1717mポコからの下りも雪が消えていて,背丈を越えるハイマツを掴みながら降りた。途中から上から見て左手(東側)の雪に逃げた。雪の状態が一歩ごとに変わる急斜面だったので,バックステップを混ぜながらの下り。 1488m手前のコルに到着したのは17時半だった。風が吹き抜けるコルを避けて,1488m側に少し上がった藪蔭にテントを張る。久しぶりの12時間を越える行動だった。 |
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4月30日 (火) 快晴のち曇り |
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ラジオの天気予報によれば「大きな気圧の谷が近づいていて明日は全道的に雨。その後に低気圧が発達して強い寒気が入る。」とのこと。 今回の山行は,下山後の約束があるので,予備日を一日しか準備できなかった。この日にニペを乗っ越し,明日ニペ南コルで停滞すると,明後日の最終日に丸山とウペペを越えて下山という強行軍となる。もし,冬型が決まって稜線行動ができなくなったら,六の沢林道へのエスケープしかなくなる。となると,この日のうちにニペソツ山をタッチしてから幌加温泉側にエスケープするのが一番現実的な選択となる。 |
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出発してからしばらくは,ハイマツ藪に入ったり雪の上を歩いたり。トムラ〜オプタテ〜富良野の稜線がよく見えていた。 1578.6mからヌプントムラウシ川源頭のなだらかな沢形に入ると,お昼寝がしたくなるくらい穏やかな雰囲気だった。例のごとく,アイゼンが使えたのは早朝だけで,1578.6mの下りからはツボ足で進んだ。 1320mの最低コルで主尾根に戻ってからは,雪が緩んで歩きにくい。 前天狗に繋がる尾根は,高度が上がるにつれ傾斜を増す。特に,肩に抜ける最後の約20mは傾斜がきつかったので,スノーシューを外しピッケルとバイルで登った。雪融けの季節限定の現象だと思うのだが,数歩がブルーアイスでキックステップができなかった。ピッケルのブレードで透明な氷にステップを切ってテラスに上がる。テラスでアイゼンを付け,壁の残りはダブルアックスで登った。 |
JPからの尾根,右上がJP・左下が1488mのコル |
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1578.6mのポコから見たニペソツ山 |
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ニペソツ山が高い |
前天狗への登りで一番急だった部分 |
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前天狗への急登を上がりきったところから歩いてきた稜線が全て見えた (左端がJP・石狩岳・音更山・ユニ石狩岳・右端が三国山) |
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天狗岳のトラバースに入る手前の雪田に荷物をデポして,アイゼンとピッケルだけでニペソツ山に向かった。既に,太陽には暈がかかっていた。 上部の雪面トラバースに入るまでは,ブッシュの中の刈り分けが雪の白い筋として見えている。この雪が緩んでいてズボズボ埋まる。この日の朝方に登った方のトレースが残っていたけれど,うらやましいと思いながら,そのトレースを派手に踏み抜いて登ることになった。 最後のトラバースを抜けて飛び出した頂稜の西側は雪が消えて登山道が出ていた。ひと登りで,丸い山頂標識の立つニペソツ山に到着。 絶景の一言。 |
空身でニペ往復に出かける |
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ニペソツ山の頂上から辿ってきた稜線を眺める |
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ニペソツ山の頂上から,今回行けなかった丸山〜ウペペサンケ山を望む |
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前天狗からの下りは急な雪面 |
1662mポコから見る丸山〜ウペペサンケ山の稜線 |
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ザックを回収してから,まずはバス会社に携帯電話をかけて翌日の都市間バスの予約をした。すでにキャンプしても良い時刻となってしまった。でも,どれだけ天候が崩れるか判らないので,できれば樹林帯に逃げ込みたいところ。 杉沢ルートの分岐から急で一様な雪面を下ってシャクナゲ尾根に降りる。シャクナゲ尾根では,ブッシュの中の潜るザラメ雪に足を取られ,気は焦るものの,ちっともスピードをあげられなかった。 針葉樹の樹林に入ったところでテントを張る。結局,2日連続の12時間を越える行動となった。 夕ご飯の準備をしていると,もう雪が降り始めた。テントに積もる雪をときどき叩いて落とした。 |
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5月1日 (水) 雨のち曇り |
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雪は夜半から雨に変わった。一時,南風が出てゴウゴウと鳴っていたが,明け方には風の音は静かになっていた。 アカエゾマツの下にテントを張ったせいで,ずっと雨垂れの音が続いていた。 少し明るくなったのでフライを開けて外を伺うと,だいぶ小降りになっている。風の影響をほとんど受けない樹林の中のルートなので,寒気が入ってくる前にと,雨具に身を包んで幌加温泉を目指して出発する。 暖かい雨のせいでスボズボのザラメ雪。テン場を出るときからスノーシューを履いた。 |
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美しい樹林帯 |
トドマツに「三条沼」の看板 |
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全く見通しが利かないタンネの森をぼけぼけと歩く。適当に下ったら別の尾根にひきこまれてしまう地形だが,GPSがあるので気が楽だ。 台地から1段降りると,良い感じで三条沼が出てきて,やがて林道跡に出た。古い林道は,所々で路肩が崩落していた。 さすがにゴールデンウィークとあって,幌加温泉には,入れ替わり立ち替わりお客さんが来ていた。夕方のバスまで時間がたっぷりあるので,温泉に浸かってからビールを飲んで昼寝。幌加温泉の若夫婦とおばあちゃんには,とても親切にして頂きました。 |
幌加温泉口バス停 |