2018年4月28日〜5月1日 真昼山地
五番森〜羽後朝日岳〜和賀岳〜真昼岳〜女神山〜後ろのツル道

 岩手と秋田の県境,真昼山地和賀山塊真昼山塊)の残雪期稜線を縦走しました(GPSログはこちら)。
 15年前の同時期に秋田駒ケ岳から八幡平まで山スキーで北上したのですが,今回は仙岩峠を挟んでその南に連続する山脈です。
 最初に検討したのは仙岩峠を起点とする縦走だったのですが,序盤の仙岩峠〜貝吹山〜地森〜五番森の標高が低く,ゴールデンウィークでは時期が遅すぎて藪が出てしまうので,五番森からの南下としました。
 真昼山地北部の和賀山塊に比べると,南部の真昼山塊も標高が下がります。でも,こちらは登山道があるので雪が消えても何とかなると思っていました。女神山からは,近年地元の方々が昔の炭焼き道を復活させたという「後ろのツル道」を使って六郷温泉に下山しました。
 大変静かな山域で,和賀岳周辺でトレースを見ただけで,入山から下山まで全く人に出会いませんでした。


4月28日 (土) 快晴
 東京駅に出て始発の秋田新幹線に乗った。盛岡駅前から雫石行きのバスに乗り換え,雫石駅前から携帯電話でタクシーを呼んだ。
 五番森に直接上がるには,冷水山の先まで林道が延びる冷水山の尾根と,岩井沢荒沢に挟まれた東尾根の2つが考えられるが,雪解けが早いこと=藪漕ぎを考えると最短距離で標高を稼げる東尾根を選択することになる。荒沢橋の手前でタクシーを降りて,古い林道を歩いた。
 雪解けで増水した岩井沢を2本ストックで棒高跳びの要領で越える。ポリタン2Lの水を行動用に持ってきたが,せっかくなので徒渉したところで追加3Lの水を汲んで持ち上げることにした。
 標高を上げて残雪に入るまで,かなりの藪漕ぎを覚悟していたのに,意外にも尾根の取り付き付近はきちんと間伐されたヒバの森で,尾根に上がると林班境界杭が打たれた明瞭な林業作業道が続いている。
(雫石線バス 盛岡駅前発車) 8:30
(雫石駅にバス到着) 9:15
(タクシーに乗車) 9:25
荒沢橋 9:45
岩井沢渡渉 10:10
五番森の山頂 12:45
モッコ岳 16:10
沢尻岳 17:15
C1 17:25

尾根取り付き付近は,きちんと間伐されていた

なぜか青森(!)営林局と書かれた境界見出標
 標高600mぐらいから残雪を繋いで歩けるようになった。ときおり雪が切れて短い区間で現れる笹も,藪漕ぎというほどではなかった。
 やがて,尾根が緩やかになると,雪がしっかりついて歩きやすくなる。この付近,962mポコから五番森山頂のブナ林にはあちこちに熊棚が見られた。
 平らな五番森の山頂には,ダケカンバに山頂標識が掛かっていた。秋田駒ケ岳が遠く霞んで見え,その前景になる地森〜下地森〜貝吹山〜仙岩峠と続く稜線は,予想通り,すでに雪がかなり落ちて黒くなっていた。

五番森の山頂に続く稜線

五番森の山頂から北を望む。右から地森〜下地森〜貝吹山。遠くに霞んで秋田駒ヶ岳。
 五番森から南コルに降りる尾根は,雪が消えて笹が出ていた。降りはじめは胸ぐらいの高さの笹藪だったが,コルに近づいて傾斜が緩むと背丈を越えるようになる。東側に帯状に残された雪堤に乗ったところで大休止とした。

 ここからモッコ岳までの間は,数カ所で藪が出ていたが,良く締まった雪の尾根が続く。天気が良すぎてちょっと霞んでいたが,展望を楽しみながら歩いた。

五番森を振り返る

和賀山塊を目指す。左はモッコ岳・スカイライン右端が羽後朝日岳。真ん中遠方に和賀岳が覗く。
 モッコ岳の三角点は,藪の中に見つかった。
 モッコ岳の南の肩で,尾根は南西に繋がる主稜線と南東支尾根の二つに分岐する。山頂から続く雪面は支尾根に続いていて,主稜線方向は背の高いハイマツの壁で塞がれていた。
 雪面を少し下ると,ハイマツに賑やかに5本ぐらいピンクテープが下げられていた。そこから濃いハイマツ帯を越えてみたら,雪が崩壊しかけた悪い急斜面に出てしまった。もっと雪の多い時期に付けられたピンクテープだったらしい。雪の割れ目を伝って稜線に逃げたが,安直に他人の目印に頼った自分が悪いと反省。

 そろそろ時間になったのでテン場を探しながら歩いた。モッコ岳沢尻岳のコル付近の雪庇が落ちて出来た雪面がテン場に良さそうだったので,一旦はザックを降ろしてみたものの,弱いながらも風が抜けてくる。日の長い季節だし,もう少し歩いてみることにした。
 沢尻岳の山頂部周辺は雪が消えて,きれいに刈り広げられた登山道が出ていた。大荒沢岳方面に少し下ったハイマツ陰にテントを設営した。


4月29日 (日) 快晴
 月齢14ということで,とても明るい夜だった。
 昨夕に出ていた南東風は,夜の間にすっかり静かになった。放射冷却のおかげで堅くなった雪面をアイゼンを着けて大荒沢岳に向かった。

 大荒沢岳も,山頂周辺だけ雪が消えている。ここから,主稜線を離れて羽後朝日岳を目指した。
 羽後朝日岳までは,空身で往復するのを少し躊躇するほど中途半端に距離があるので,とりあえず全装備を担いで行く。
C1発 5:05
大荒沢岳 5:40
羽後朝日岳 6:25
大荒沢岳 7:00
根菅岳 8:20
和賀岳 10:50
薬師岳 12:50
大甲山 14:10
甲山分岐 15:10
C2 15:20

正面に大荒沢岳・右に羽後朝日岳。和賀岳は一番左端に覗いている。
 羽後朝日岳への吊り尾根は,腰までの笹藪から始まったが,少し下ると雪が繋がるようになった。中間コルまで下ると雪原となっていて,どこからでも見通せるので,ここにザックをデポして空身で山頂に向かった。

 羽後朝日岳山頂の直下まで,ずっと雪を踏んで行けたが,頂稜に出たところは雪が切れていた。登りは,ここから地面に足のつかないハイマツの藪を漕いでしまったが,羽後朝日岳に着いて見下ろすと,少し北に回り込んだところに雪が繋がっていた。
 山頂は360°の大展望台だった。
 ちなみに,帰りの頂上直下の藪漕ぎは10m程ですんだ。

大荒沢岳の山頂から見た羽後朝日岳

羽後朝日岳の山頂直下から見た大荒沢岳〜根菅岳〜和賀岳(右奥)への稜線
 大荒沢岳に戻るころには雪は緩んだので,アイゼンを片付けて,つぼ足で縦走を再開した。
 和賀岳への主稜線は根菅岳の北の肩で真西に方向を変える。和賀岳への稜線は最新の地形図にも登山道の点線が残っているが廃道となっていて,沢尻岳からお世話になった登山道は根菅岳から高下岳へ続いている。根菅岳があまりに立派に見えるので,ザックをデポして山頂まで往復してみた。

大荒沢岳付近からの和賀岳

根菅岳からの和賀岳

和賀岳山頂

小杉山へ下る途中から見た和賀岳
 根菅山から和賀岳への稜線は,数カ所で雪が落ちていたけれど,和賀岳の直下まで良く締まった雪の上を伝って行けた。和賀岳山頂一帯は広く雪が消えていたので,夏にはお花畑になるであろう草原をそっと歩いて山頂に向かう。
 和賀岳山頂はとても広くて,三角点や山頂標識以外にも,環境省の看板やら石碑やら祠やらが置かれている。祠で手を合わせて,山行の無事をお祈りした。

薬師岳から和賀岳を振り返る
 和賀岳から南,薬師岳への稜線は和賀岳登山の表玄関なので立派な登山道がついていた。特に小杉山から南は幅広に刈り払いされていて夏山ハイキング気分になる。
 薬師岳の山頂手前には広大な草原があって,キクザキイチゲの花だけでなくニッコウキスゲの新芽もいっぱい出ていた。お花の時期に,もう一度訪れることができたらと思う。
 薬師岳南で刈り払われた登山道は,主稜線と別れて西側の真木林道の方へ降りていく。主稜線を伝う踏み跡は見つからなかったが,「薬師分岐 大甲→」と予定方向の地名が記された朽ちた道標が倒れていた。ままよと,道標のところから笹藪に突っ込むと,意外にも木の根などに邪魔される事なく足が前に出るので,か細いけれど登山道に入ったことが分かった。
 少し下ると,小灌木の痩せ尾根となったので踏み跡ははっきり見えるようになった。この痩せ尾根は,東側が切れ落ちたところが続いて少々緊張させられた。

大甲山(1108m)から北。左に薬師岳・右に和賀岳

大甲山から南。稜線から西に少し離れて甲山。
 笹や木に隠れて頼りない登山道も,大甲山(おおかぶとやま)の手前から雪の下になることが多くなった。特に,大甲山甲山(かぶとやま)分岐とのコル周辺は東側が雪原となっていて,カモシカの足跡にならって,東から回り込むように歩いた。

 稜線から西に瘤のように突き出た甲山が近づいてきたが,そろそろ時間なので,甲山を訪問するのは止めて,テン場を探しながら歩いた。
 甲山分岐から中ノ沢岳の間は,うまい具合に雪が繋がっていたので,それほど歩かないうちに良いテン場が見つかった。

甲山分岐下から見た中ノ沢岳
 
4月30日 (月) 晴れ
 雲の無いとても明るい満月の夜だったが,気温はあまり下がらなかった。
 つぼ足で中ノ沢岳に向かって歩き出す。

 中ノ沢岳の山頂付近は,雪が消えていた。この付近の踏み跡は薄くて,部分的に藪漕ぎとなる。
 中ノ沢岳の西コルから再び雪が繋がるようになる。雪の上に数日前に歩いたらしい不明瞭なトレースが見え隠れししていて親近感を覚えた。でも,このトレースは何処にも繋がらない994mポコの尾根に消えていったので,クマさんが歩いた跡だったのかもしれない。
C2発 5:05
中ノ沢岳 5:50
風鞍 7:35
鹿ノ子山分岐 10:55
峰越林道の峠 13:45
音動岳C3 15:10

C2の上から和賀岳を振り返る 

風鞍を目指して歩く
 風鞍の手前まで気持ちの良い雪稜をたどれたのだが,風鞍への登りだけは雪が消え,登山道の跡も見つからず。雪稜に抜けるまでの短い区間だったが,細い灌木に邪魔され,まじめな藪漕ぎとなった。
 この先が思いやられると思いながら風鞍の山頂まで来てみると,意外にも風鞍の山頂は刈り広げられていて,南に向かって新しい刈り払いの道が続いている。

風鞍から南望。真昼岳とその左の小さな三角の山が女神山。

風鞍から北望。和賀岳が遠くなった。右手前は中ノ沢岳。
 風鞍からしばらく,刈り払いされた道を歩いたり,雪の上を歩いたりする。
 南風鞍の先も,かなり明瞭な登山道が続いているらしく,雪が消えたところは登山道を辿ることが出来る。ただし,鹿ノ子山分岐では,登山道は鹿ノ子山の山腹をトラバースしていたらしく,雪が切れたところで登山道を見つけることができなかった。鹿ノ子山の稜線を伝って登山道に復帰したが,灌木の藪を漕ぐことになった。
 少しでも登山道をはずれると面倒なことになると実感したので,この先はできるだけ登山道を意識して歩くことを心がけた。

 この日の行程の中では,cont.750mの最低鞍部から風越林道の北東ポコまで標高差200mの急登が一番大変だった。相当な刈り払いのエキスパートが仕事をしたことが判る急尾根に付けられた登山道は,さらに傾斜を増した尾根の上部で雪渓の下に消えていた。堅雪の急斜面をピッケルを出してキックステップで登ったが,雪渓の上端に達したのに登山道は見つからない。仕方が無いので,そこから藪を直上した。藪を登っている途中で後ろを振り返ると,なかなかの高度感だった。なお,Tシャツで藪に突っ込んだので二の腕が擦り傷だらけ。
 傾斜が落ちて笹藪に入ると,まもなく刈り払いされた登山道にあたる。登山道は直上するのではなく,北西側から巻き登ってきていたらしい。

鹿ノ子山を振り返る

峰越林道の北東ポコに上がってから振り返る

峰越林道の峠

音動岳とその向こうに真昼山
 峰越林道の峠を予定テン場と考えていた。しかし,真昼岳の北ポコである音動岳の山頂付近に平坦な雪のキャップが載っているのが見えた。「ここに泊まったら?」と誘われているような気がしたので,もうひとがんばりする。
 真昼岳への登山道は,足の踏み場もないほどにカタクリとキクザキイチゲが乱れ咲いていた。笹原の中で,日当たりの良い場所は登山道だけなので,ある意味,このお花畑は人間が作ったものとも言える。
 音動岳山頂台地の雪原から南を見下ろすと,沢筋が雪融け水でキラキラ光っていた。水の流れる音も聞こえたので,ありったけの容器を持って雪渓末端からピッケルを駆使して雪壁を降りて水を汲んだ。
 テントを設営した後に天気図を取ってみると,大きな気圧の谷が近づいてきているのが判った。

5月1日 (火) 濃霧・曇り
 起きたときには真昼岳の山頂まで見えていたのに,徐々に上空からガスが降りてきた。テントをたたむ頃には音動岳山頂も霧に巻かれる。
 
 霧に濡れて登山道の上のカタクリの花も閉じている。
 赤倉口登山道の分岐からひと登りすると,避難小屋としても泊まれる大きな社がある真昼岳の山頂に着いた。あいにくのガスで展望は全くないので,社の中のご神体にお参りしてからすぐに女神山方面に向かった。 
C3発 4:55
真昼岳 5:35
兎平分岐 6:55
女神山 8:30
後ろのツル道分岐 9:55
六郷ダムの碑 12:15
六郷温泉あったか山 12:35
(タクシーで大曲駅に出て秋田新幹線)
 しばらくは良く踏まれた登山道を進んだが,南峰を越えた先に急傾斜の堅い残雪が残っていた。周囲が真っ白で見通せない中,方向を決めて慎重に下る。視界がなく目標物もない一様な雪斜面は,いくつになっても緊張する。
 灌木が見られるようになったところで雪渓は終わり,再び登山道に出ることが出来た。

 その先は,要所要所でGPSで現在地を確認しながら歩いた。ときおり雪が消えて登山道が現れている箇所もあったが,基本的には固く締まった雪を歩けた。
 なお,霧の中を慎重に歩いていたにもかかわらず,女神山の東側のいったん尾根が消えるところは,GPSを見ても磁石を見ても何となくピンとこず,頭で納得できるまで平らな雪の上をあちこち歩き回ってしまった。

真昼岳の山頂

霧のブナ林

女神山山頂もガスの中
 女神山北東尾根の東側は雪庇が落ちてできた雪の急斜面になっていたので,この急斜面に沿って下から回り込むように尾根に上がった。
 最後の山頂となる女神山も,霧で視界がなく,少々残念だった。それでも,山頂で待っていると空が明るくなって,霧が千切れ千切れに飛んでいくのが見えるようになった。
 結局,展望がなかった女神山にお別れして標高を下げたら,雲の底を抜けて見通しが利くようになった。見事なブナ林が,一面に黄緑に芽吹いていて美しい。
 白糸の滝への道との分岐から,真新しい伐開とピンクテープに導かれて「後ろのツル道」に入った。ところどころで道は雪に消えたが,多くの目印に助けられる。

「後ろのツル道」のカタクリロード 

「後ろのツル道」の登山口

六郷温泉「あったか山」
 カナクラ鞍部から下は,雪はほとんど消えていた。お花の写真を撮りながら,昔から歩かれていた道とのことで切り通しになっている部分もある歩きやすい山道を下った。
 六郷温泉「あったか山」で温泉に入ってのんびり。携帯電話でタクシーを呼んで大曲駅に出た。

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