パパのワガママ

 キミと出逢ってもう6年以上も経つというのに、その間、ただの一度だって心穏やかだったことはありません。本当はボクだってもっとクールにいきたいさ。時にはタカビーにも振る舞いたいさ。でも、結局いつだってキミに振り回されている。つくづく因果な役回りを背負ってしまったもんです。

 今朝、保育園でキミと別れたあと、ボクはなにをしていたと思いますか? こっそり園庭の横にまわり、生け垣の間からキミの様子をしばらくうかがっていました。キミはかいがいしくハムスターの世話をしていましたね。ついこの間まで恐くて触れなかったハムスターを、両手にしっかりと包んでいる姿を見て、ボクは思わず目頭が熱くなったけど、涙をこぼすのだけは我慢しました。こんな所で泣いているのを、知ってるお母さんにでも見られたら恥ずかしいからね。人を愛するっていうのは、時としてみっともないもんです。

 キミが持ってる注射器のオモチャで、昨日の夜もお医者さんごっこをしましたね。「じゃあ、お熱はかりますね」とボクがキミの脇の下に人差し指を突き刺すと、キミはもんどりうって暴れます。くすぐったさのあまり、捨て身で繰り出すキミのキックが、ボクの顔面や、みぞおちや、股間にヒットすると、今度はボクがもんどりうって倒れます。人を愛するっていうのは、時として痛みをともなうもんです。

 まぁ、惚れた弱みというか、これまでボクはキミを強く叱ったり、きつく命令したりしたことはなかったけど、ひとつだけキッチリと言っておきたいことがあるんだ。それはボクより先に死んじゃいけないってこと。ほかのことなら何でも許す。落ちこぼれようが、不良になろうが、歌って踊って暮らそうが、そんなことは好きにやったらいい。だけど、ボクより先にいくことだけは絶対に許さないからね。

 キミより先にいかしてもらうこと。それが、ボクのたったひとつのワガママです。



夜明け 


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