堅い話題 By Akira Higashikaze 目次 戻る May 28 1999 Update
Contents:
[ 中古ゲーム流通問題…判決を巡って ]
[ 著作権問題の危険な行方 その2 ]
[ 著作権問題の危険な行方 その1 ]
[ コミックマーケット雑感 その1 ]

中古ゲーム流通問題…判決を巡って

 ゲームソフトの中古売買についてかねてから係争中だった裁判で、中古品販売業者の主張を認めゲームソフトメーカーに販売を制限する権利の無い事を確認する判決が昨日(5/27)出ました。ソフトウェアの中古流通やレンタルについては以前から議論が多く、実用ソフト(ビジネスソフトや開発用ソフト)では「販売」ではなく「使用許諾契約」であるという形式を整える事で中古流通やレンタルを抑止するようになったと言う経緯もあります。
 ゲームソフトの場合、ユーザー登録に基づくサポートやバグフィックス、バージョンアップなど「使用許諾契約」とした場合のユーザー側のメリットを、メーカー側が(コスト的な問題などで)提示できにくいと言う理由もあるのか、そうした形での抑止も少なく、中古市場が事実上成立している形になっています。そうした中でメーカー側(今回の裁判ではエニックス)が「ゲームソフトは映画の著作物にあたる。映画の著作物には『頒布権』が認められている。従って中古販売は頒布権の侵害である」という論法でその差し止めの権利を主張し、中古業者側(今回の件では上昇)は「ゲームソフトは映画の著作物ではない。仮に映画の著作物であるとしてもその頒布権は新品販売時に限られるべき(ワンタイム・ドクトリン)である。従って中古販売は原著作者の権利を侵害しない」と主張していました。

 今回の東京地裁の判決では「ゲームソフトは映画の著作物にはあたらない」との判断を示して中古販売業者側の主張を全面的に認めているのですが、当然ソフトメーカー側は不服で控訴してさらに争う事になるようです。また同じコンピュータゲームでは「パックマン」のテーブルゲーム機の複製品を設置していた喫茶店に対して、「ゲームは映画の著作権であり複製機による営業は著作権者の上映権の侵害」と認める判例が既にあり、今回の判決とこの判例との整合性についても議論される事になると思われます。  ただ、今まで映画の著作物である事を根拠に「著作権侵害」とされた例はいずれも業務用機を無許可でデッドコピーしたケースについての物で、著作権法の趣旨から考えて、そうした行為が何らかの形で規制されなければ、ゲームの制作者側が実質的に無権利状態に置かれる事になると考えられるケースです。これに対して今回のケースでは、中古流通しているのはあくまでもゲームメーカーの「真正品」であり、少なくとも新品販売の段階で著作権に基づく利益を一度は得ている物です。

 さらに、可能な操作がごく単純な動きに限られる内容で、ゲーム機本体と一体化したROMに固定され業務用として流通しているような物と、インタラクティブ性が高く選択できる操作が多岐多様に渡り(登場するキャラクターをエディットできるなど)、ゲーム機本体とは別にソフトウェアとして一般消費者向けに流通販売している物とを、同列に論じてよいのかという点も問題となるでしょう。
 実際、今回の判決ではゲームソフトのインタラクティブ性に注目して、著作権法で想定するような「映画の著作物」にはあたらないという判断を示しています。これはある意味で成り立ちうる考え方だと思いますが、しかしそれならばインタラクティブ性の低いゲームならば「映画の著作物」にあたるのか、逆にDVDなどを使ってインタラクティブ性を付加した映像作品は「映画の著作物」にならないのか…など単純に割り切ることの難しい問題もあるとも思います。

 またそれ以上に考えるべきなのは、ゲームメーカー側の意図が、著作権によって中古市場を規制する事を通じて、ゲームソフト流通おけるメーカー側の支配力を強めたいと言う所にある点です。メーカーの理論としては「中古市場が新品市場を圧迫し開発費が回収できなくなる」という事なのだが、そもそも中古ソフトとの競争力もない新品ソフトの開発費が回収できなくともそれはメーカーの責任であって、不要なソフトを処分して購入費用の一部分でも回収したいと言う消費者の権利に優越するような話では無いと思います。
 「開発者に多くの利益がもたらされれば、より良いゲームが作られるモチベーションになり、消費者にとっても利益が大きい」とメーカー側は主張していますが、その裏返しで「競争がその分無くなる事で品質の劣る製品でもそれなりの利益が出るので真剣に良作を作る努力が放棄される」という危険性も指摘できる訳です。
 実用ソフトの例で考えれば、「使用許諾」という名目だけでなくサポートやバージョンアップなど実質的なサービスを付加して中古品との差別化を明瞭にした事、また価格自体も一部に見られた過大な設定が無くなり相当の低価格化が進んだ事、かつ必要以上のコピープロテクトが見られなくなった事など、中古流通の意味が無くなるようなメーカー側の施策もあって、事実上中古市場が消滅しています(もちろんその代わりに企業内違法コピーというやっかいな問題を抱えたが…)。

 仮に中古市場が規制されるべきであるとして、その場合も「より多くの利益がより良いゲームを産む」と言う理屈以上の、消費者にとって具体的なメリットが提示されないならば、どのような規制も消費者からは支持されないでしょう。実際に中古市場が確実に一定の規模で存在し、一定の認知を受けているという現状は、そういう市場の存在に消費者が何らかのメリットを感じているからに他ならないのです。
 中古市場の規制をゲームメーカーが望み法的措置に訴えようとするのなら、それに替わるメリットを消費者に提示するのはメーカーの側の責任でしょう。そうした責任ある展望無しの行動であれば、それは「利己的な市場支配願望」であると言わざるを得ないと思います。


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