■75:視覚で四角以上に正方形は異常だと思う
 私は偏頭痛持ちである。私の場合は眼精偏頭痛といって頭痛がくる前に視野狭窄になったり視界の一部分が見えなくなったり、場合によっては一時的な全盲状態になったりするのだが、これを偏頭痛の前兆発作をいう。偏頭痛の原因の多くは脳に血液が供給されない状態が起こるときに発生する。つまり、脳に繋がる毛細血管が、ストレスやアレルギー、何らかの運動(原因ははっきり分かっていないが、ストレス性の偏頭痛が一般的であると考えられている。神経質な人に偏頭痛が多いと言う説もある)により圧迫され、脳の一部に血液が十分に行き渡らなくなった時、前兆発作が始まり、そのあと頭痛が起こるという訳だ。
 私を含め多くの場合は視神経野という視覚情報をつかさどる脳の部分でこれが起こるため、視覚の情報が上手く処理できず、前に書いたような視覚異常が起きる。したがって、眼精偏頭痛がもっとも一般的であるものの、血液が行き渡らなくなる脳の部位によって前兆症状はまちまちで、私の知っている人だと、筋肉が萎縮してしまう人や、その間の記憶が喪失してしまう人、とりとめのないことしか喋れなくなってしまう人などもいる。
 しかし、偏頭痛持ちにとって問題はその前兆症状よりもむしろそのあとにくる頭痛である。前兆発作はいつかすぐ終わるものなので、視野の真ん中が抜けてたり、人の顔が全部人に見えなくてもまぁそれはそれで割り切れば楽しいと思っている偏頭痛野郎も多い筈だ。あとに頭痛さえこなければ。これは想像を絶するぐらいの痛みで誰だって何もやる気をなくすような痛さなので、その間仕事や勉強は普通身につかない。
 そんな我等偏頭痛野郎にとって一番の救いはすごくよく効く薬があったことだ。これは「セデスG(薬局で売っているセデスとはまったく別物)」と言う薬でこれを飲めば頭すっきり爽快。偏頭痛仲間であればセデスに足を向けては眠れないと誰もが思っているような薬なのだ。ところがこの薬が生産中止になった。実はこのセデスGと言う薬、頭痛になった時に(あるいは前兆症状が始まった直後に)飲む薬で、頭痛防止のため一日一回服用するというような薬ではない。しかしながら連続して服用すると反対にこの薬によって頭痛が引き起こされ、また服用しすぎると腎臓に悪影響が出ることが分かったらしい。腎臓に悪影響が出ることは最近分かったことで、連続使用で薬による頭痛が引き起こされることは前前から分かっていたことだし実はセデスGの専売特許の症状と言うわけでもない。そんな訳でセデスGを失ってしまった我々偏頭痛野郎はもう大変だ。生産中止がニュースに流れると共にすぐさま2チャンネルに「セデスGスレッド」が立ち上がり、意見が交換された。それによるとセデスGは効果の割に安価であるため、薬品会社が儲からない為適当な理由をつけて生産中止にして違う高価な薬を買いやがれという陰謀なのだとか、セデスGを大量服用するヤツが悪いんだそんなの医者が患者に注意することで薬が悪いわけじゃねぇしそんな薬いっぱいあるからセデスGが悪い薬とは言えねぇとか、セデスGを3袋一緒に飲むと桃源郷に飛び立てるよねとか、俺早速病院行って「アタマ痛いんですセデスGくれよくれったら」ってせがんでセデスG30袋ゲットしてキターヨ、とかまぁとにかく色々な意見が交換されたわけである。

 余談だが世の中に偏頭痛に悩む患者は結構多く、そんな偏頭痛野郎のための情報交換の場として「頭痛大学」という名のサイトもある。ここには偏頭痛の前兆発作中に偏頭痛野郎が書いた絵なども展示しており、「あーあーこんな感じ!」という風にとても興味深い。眼精偏頭痛はかなり古代から発見されていた病気で、そのことを考えれば目の酷使によって眼精偏頭痛が引き起こされているわけではないことも分かる(悪いのは目より脳や神経という事だ)。前兆症状の中でもっとも一般的なのは、視野の一部分が半月状、円状、楕円状に見えなくなり、その部分に輝いてるのか黒いのよくわからないものが見える。これは実際は視野のその部分が見えてないから、明るいとも暗いとも形容しがたいからだ。という事だ。自分の見えないところに何が見える?と聞いてるのと一緒で、何も見えないとしか言いようがないがそこの部分に何かがあるはずなのは確かなのでこんな感じになる。医学用語だと「暗輝光点」とかいうらしい。授業中にこれになると、俺は変な動きをとる。焦点を合わせた部分が見えなくなるので、わざと横を向いて焦点を合わせないように教科書を見ようとするので、本人は大真面目だが、はたから見てると気持ち悪そうだ。こんな人がクラスにいたらそっと肩を叩いて、「いいから保健室行って寝てろよ」と罵倒してあげてください。また酷いと人の顔が顔に見えなくなるなんて時もある。普通、人の顔を映像としてみた時、「目と口と鼻があるからこれは顔だ」と脳が判断して、「あぁ顔じゃん」と認識する、「図形認識能力」があるから顔を顔だとわかるのだが、偏頭痛の前兆症状のとき、この「図形認識能力」が働かなくなる時がある。そうするとそこに体があるんだから首の上は頭が乗っていると言うことは百も分かっていてもそれが顔に見えなくなる。この状態になると想像以上に変な気分になることはなんとなく想像できると思う。「アリスの不思議な国(原本)」の挿絵を書いていたことで知られる画家ジョン=テニエルも偏頭痛持ちで、前兆発作の時見える風景を参考にして絵を書いたそうだ。