■72:お茶濁しにお勉強
そう、先達てからネタがない。実は「ネタ」という単語は「種(たね)」を逆から呼んだ隠語である。デルモ〜。ナオ〜ン。というような言葉のサキガケ男闘呼塾とも言えなくもないことを知っている人は知っていそうなのでまぁそこらへんは民明書房に任せるとして、ネタがないので我等が妖怪のお話でもしたいと思う。神学、と言うより幻獣学?の視点からだと、実は妖怪とは日本にいるものだけではなく、中国のものとか、その他の地域のそれに類するようなものも入るのだが、まぁ神話や伝承上の生物達を一まとめにする言葉がない今の時点ではそんな種類分けは無意味か。一般的に「妖怪」と言えば日本において神ではない特異な生物達を指す言葉である。妖怪全体の特徴としては、先ず滅多に人を殺したりといった酷いことをせず、驚かしたりとか、転ばしたりとか、どちらかと言うと悪戯の範疇におさまることをやりたがるものが多い。また一つの妖怪の出る地域はある程度決まっていて、他の場所に出現することは少ない(河童は全国にいるが細かい特徴は地域によって差があり呼び名も違う)。という訳で妖怪の種類について分類してみることにする。この分類は私の独自の解釈である。
@神が妖怪となったもの、神に類するもの
古来から信じられていた神がその力を失い(或いは信仰が弱まり)、弱い力しか発揮できなくなった(或いは重要視されなくなった)ために妖怪となったもの。便所の壷の中で小便と大便を手で受け止めてくれる「厠の神」は、水と井戸の神であった水罔女神(みずはめのかみ)が変化したものだと言われている。また妖怪には、付喪神(つくもがみ)や貧乏神のように神と呼ばれる(しかし大きな能力を持たない)ものも多くいる。
A怪現象を擬人化したもの。
古来にそれが何故起こるかわからないというような現象があった場合、それを妖怪のせいだとすることは多くあった。擬人化しないままに怪現象としてだけ扱う場合は「妖怪」と「怪現象」を分ける研究者もいるが、その境界線は曖昧だ。例えば蜃気楼は「蜃」という大きなハマグリの妖怪が吐く息によって出来上がると考えられた。墓場でふらふらと浮かび上がる火の玉(動物の死体から発生するリンの発火現象だとされている)は「鬼火」と言われ、それ自体が妖怪として擬人化されている。暗い夜道で人の髪を引く、いわゆる「臆病神」や、道を一人で歩いていると足がもつれて上手く歩けなくなる「脛擦り」などは、この変形で、闇や孤独感からくる不安による人の怯えを擬人化したものだといえるだろう。
B都市伝説に類するもの。
話は人の口から口は伝播することによって次第に大げさになることが多い。現代の都市伝説で名高い「口さけ女」は最初はマスクをとって笑ってから逃げ去るというような話だったが、そのうち「自動車より速く走って追いかけてくる」なんていう設定まで付け加えられている。江戸時代においてもこのようなことが起こったことは想像に難くない。一つ目小僧などはおそらく見世物にされていた隻眼の少年の話が次第に肥大化して出来た妖怪だろうし、大きな口だけ開けてお歯黒を真っ黒に塗った歯を見せて笑うのっぺら坊の一種「お歯黒べったり」などは、暗い道端で厚く白粉(おしろい)を塗った女性をあざ笑ったよもやま話から来ているのかもしれない。
C人を戒めるために生まれた妖怪
ヨーロッパの妖精などにも言えることだが、子供に「どこどこに入っちゃいけない」とか、「なになにをしてはいけない」とかいう注意をする時、危ないからだとか、やっちゃいけないことだからとか言うより、未知の生物に襲われるからだと言った方が手っ取り早い。神社で壁や鳥居に落書きをしたりすると上から落っこちてきてその人を懲らしめる「おとろし」や、庚申待の夜に人々が行事をちゃんとおこなっているかを見張っている精螻蛄(しょうけら)はこの典型的なものである。
D物や自然物の擬人化
日本では年月を経たものは石や木や道具や動物に至るまで全てに霊が宿り、人語を話したり、あるいは霊力を藻って動き回ることが出来ると考えられた。勿論これは昔から日本に根付く神道、シャーマニズムの影響で、意思を持つようになった道具の総称である「付喪神」や、年老いて人に害を成す猫の妖怪「猫又」、サザエの妖怪「栄螺鬼」、またキツネやタヌキ、カワウソなども霊力を発揮すると考えられた。
実際には妖怪はこれらの特徴が複雑に絡み合っている。例えば、「山彦」や「木霊」は人間が発した声が反響して返ってくるエコー現象を説明できなかった(A)昔の人が、それは山の神(@)や木の精(D)の声だと考えたことによって出来た妖怪だ。