デジタル・リマス ターと高品質プラスチックのCD

 何年か前からデジタル・リマスターという手法で音を改善したCD が出回るようになりました。最近はちょっと一段落しましたが、レーベルに限らず世界的傾向だったようで、対象となる録音はアナログ時代のみならず、デジタルになって しばらく経った90年代のものにまで及んでいます。このように元の録音から意図的に音を変える作業には賛否両論あり ます。最も強く反対する立場の人は演奏者への冒涜であるかのごとく、いかなる変更も許せないというオリジナル主義を 標榜します。しかしそもそもが最初の 録音から技師が耳で調節しながらマイクのセッティングを行っているのですから、技術の進歩にともなって後から微調整 をかけるぐらいは構わないのではないでしょうか。モノラル時代のバランスの悪い録音やノイズが乗ったものをきれいに すれば聞きやすいですし、ステレオ初期のうすっぺらい高域の響き調 整してあると自然に聞こえます。ただ、60年代も半ば以降のそこそこ良いバランスの録音でもリマスター盤を出してく る風潮あり、それについては是非を確かめてみたいと思っていまし た。どうやらオリジナルが良い場合と、リマスター盤が良い場合が入り乱れているようなのです。


デジタル・リマスター盤 の音質(グラモフォン
OIBP

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      Original CD

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      Digitally Remastered CD (Original-Image Bit-Processing)

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      Original CD


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Karajan Gold (Original-Image Bit-Processing)

 リマスターの方式名は各社それぞれですが、ドイツ・グラモフォンはOIBP(オリジナル・イメージ・ビット・プロ セッシング)という名前をつけています。カルロス・クライバーが ウィーン・フィルを指揮して74年に録音した ベートーヴェンの「運命」のアナログ音源についてこの方式を検討してみましょう。OIBPの功罪は様々言われるので気になっていたのですが、なかなか両方 を手に入れるところまでは行きませんでした。 しかし今回は購入してみました。最初期の運命だけが入った盤と、7番とカップリングになった OIBPのドイツ輸入盤です。(二曲が入ったものでOIBP化されていなかった中間時期もあったようです が、今回はそれではありません。また、OIBPの方は日本の高品質プラスチック仕様であるSHM
CDではなく、 SACDマルチ・レイヤー盤でもありません。)

 聞くところによるとOIBPはマ ルチ・マイクのセッティング位置の情報がグラモフォンに残っており、マ ルチトラックのマスター・テープを再度ミックス・ダウンする際にその位置情報をもとに位相を合わせる処理をしているのだということです。救急車が通り過ぎ るとき にサイレンの音が低くなることでもわかるように、音という ものは案 外速度が遅く、複数あるマイクの位置が数メートル違えば楽器の音が各マイクに到達する時間も異なり、それをそのまま ひとつに合わせてしまったのでは干渉によって楽器位置が曖昧になってしまいます。仮に10メートルずれているとすれ ば、0.03秒ぐらいでしょうか。
グラモフォンではそれ を再度時間差を正確に設けてからミックス・ダウンしているという噂があります。私は位相をずらすソフトウェアを持っ ていませんが、これは本当でしょうか?
 OIBPの方が定位がいいということは、残念ながらわが家では確認できませんでした。高音用ユニットの周囲 に箱が存在していないようなスピーカ(専門的にはバッフル反射がないと言います)や低音ユニットとの位相管理が徹底 されているようなシステムではまた違うことがあるかもしれませんが、定位の問題とは別に高音のエネルギーを調整して あることの方が私には大きな問題に感じました。

   このクライバーの運命についてはOIBP処理されたものの方が、明らかに高音が強調されて響きます。その結果5〜8KHzあたりのどこかが少しつぶれたバ ランスに聞こえて艶消しになり、やわらかさが減って耳が痛い感じがしました。とくに5番の方が顕著です。

 その下
のカラヤンのドヴォルザーク「新世界」も全く同じ傾向でした。カラヤン・ゴールドのシ リーズは
OIBPが最初に出た ときのものですが、やはりオリジナルよりも少し高域がキツく、クライバーの運命と似たような出方をしているように感じます。それとアルプス交響曲 などでも感じたのですが、ダイナミックレンジがかなり大きいですので、フォルテになると音量を下げに走ることもしば しばで す。生のオーケストラはもっとレンジが広いですが、それ同 じフォ ルテを出して心地よい再生音であることは難しいのではないでしょうか。高域が強調されていると特にそうです。



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     Original CD   


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  Digitally Remastered CD (Original-Image Bit-Processing)

 グラモフォンの名誉のために
OIBPの方が良かった例もあげます。ベートーヴェンの交響曲第7番のベーム盤 72年のアナログ音源ですが、92年発売の廉価版「カール・ベー ム・エディション」の国内盤(原盤 は437 452-2)と、OIBPをうたってい る98年の国内版(原盤は459 162-2)の比較です。前者はこの曲が最初にCD化されたときのもので はありませんが、OIBPをうたってはいないので恐らく最初に デジタル化された音源と同じではないかと思います。音の違いは帯域バランスが大きく 異なることはなく、漫然と聞いていると聞き逃しそうですが、よく聞くと違います。あまり高い弦の音が入って いない出だしなどでは、オリジナル(92年発売)の方がオフで丸い低音寄りの音かと思わせ、それに比べてOIBPの方が中域の 少し上(1〜3KHzあたりか)が張り出して明るく聞こえます。しかし高い音が出る部分では明らかにOIBPの方が分解が 良く、耳につきません。オリジナルの方は線が細く、中低域に埋もれた中に固い金属の芯があるような感じで、その部分 で痛く感じます。BPの方が滑らかで自然な高音を出してくるので、断然そち らの方が良いと思います。



高品質プラスチッ ク(ポリカーボネイト)CD(グラモフォンSHM−CD)とデジタル・リマス ター盤OIBPの音質

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Original CD


   
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SHM-CD (high quality polycarbonate CD)

   
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  Digitally Remastered CD (Original-Image Bit-Processing)

 CD盤のプラスチックの材質を歪みの少ない、透過率のよいものにした高品質CDというものもあります。れについても 試してみました。各社色々出ましたが、ドイツ・グラモフォンの日本盤仕様はSHM−CDと いうシリーズです。ラファエル・クーベリックがベルリン・フィルを指揮したドヴォルザークの「新世界」交響曲を、まず二種類用意してみました。オリジナル 盤(国 内盤)とSHM−CD盤です。盤の材質はエラーの少ない高品質ポリカーボネイトとされています。しかし、これは通常 盤の方がナチュラルな音でした。SHM−CDの方は上記の運命のときとよく似て高音域が強調されます。つぶれる感じ はないので分解能は高くなったと言えるのかもしれませんが、サ行が強調されてしまいます。

 これははたして材質の問題なのでしょうか。メーカーの説明ではデジタル・リマスター行程のことには触れておらず、 音源が通常盤と同じなのか、本国ドイツでリマスターをかけたOIBPのものを使っているのか、あるいは日本で独自の リミックスをしたのかがわかりません(他の曲ではOIBP+SHM−CDとうたってあるCDもありますが、この盤は OIBP盤のカバー・デザインになっていません)。OIBPなら販売側も版権の関係でそのように書くでしょうから、 このSHM−CDはOIBPで はないのでしょうか。また、日本独自企画でわざわざリマスターをかけるということも考えにくいですし、もしやるなら盤質と同じように大々的に宣伝するよう な気がします。したがって音源はオリジナルと同じだと仮定しておきましょう。なぜ
OIBP音源でSHM−CD化しない のかがよくわからないところですが。

 そこでOIBP盤も手に入れてみ ました。ドイツ盤の 447 412-2 で、1995年発売。オリジナルよりは新しいですが、日本企画のSHM−CDよりは12年も前です。「存在感と輝きを 加 え、空間表現に優れる (Added presence and brilliance, greater spatial definition)」 と書かれています。
 音は、オリジナルよりも
SHM−CD のバランスに近いです。ただ、SHM−CD の方が高域の輝きがわずかに強 く、エッジが幾分強調されるよ うです。ガラス質な輝きとまで は言わないものの、金属質に感 じるところからやや上あたりに かけてアクセ ントがあるのか、輪郭が若干硬 めに感じるのです。OIBPと比べてハイ上が りというほどのバランスの違い はなく、ある帯域のみ強いの で、じっくりと聞かないとわか ら ないかもしれません。弦のテクスチャーとしてはSHM−CD の方がわずかにキラっとするな ら、OIBP はそれより少しサ ラっとするといったところで しょうか。音のバランスを単純 にスケール化するわけには行き ませんが、無理に並べるなら、 オリジナルを1としSHM−CD を10として、OIBP は7か8ぐらいの位置関係で す。数が多いほどくっきりとし て、耳に負担が大きくなりま す。 この結果からして、SHM−CDSHM−CDの 音源はやはりOIBP な のかもしれません。時期的にも そう考える方が自然でしょう。 だとすると、OIBP をうたわないのは、ドイツ・グ ラモフォン側がこの SHM−CDを自分たちのリマ スター作業の一環としては認め ていないということでしょう か。そしてその場合、通常盤と の音質の違いは極端に大きなも のではないので、録音によって はSHM−CDSHM−CD SHM−CD の方が好ましい場合もあるのか もしれません。

 オリジナルに対してポリカーボネイト盤の音が変 わるとすると、それについてはこんな説明もあるようです。CDプレーヤの中に は読み取り用の赤色レーザー光が散乱しており、それが音楽信号の系統にではなく、サーボ系(盤の回転などを制御して いる系統)の回路の中に混じり込んでしまうというのです。信号系で はないのでエラーが誘発されることはないのですが、混入した散乱光が回転数の情報と取り違えられると瞬時に回転を補 正するための電流が流れて、その誘導が信号回路にも影響を与え、音が変わてしまう。高品質CDで用いられている高透過率の材質と 高反射率の蒸着膜との組合せは、通常盤より一層レーザー光の乱反射を助長することになり、読み取りの精度上がる一方でサーボの誤動作も増えてし まうというのです。機械との相性もあるでしょうから何とも言えませんが、オーディオの世界では以 前からCD盤の上に被せて乱反射を防ぐグッズが売られていますし、盤の円周に色を塗ると音が変わるとも言われてきま したこのように音の善し悪しというものは複雑な要因で変化する可能性がありますから、迂闊なことは言えません。

 リマスターもした方が いい場合とそうでない場合とあるようです。しかし新しい企画で高音質CDを出し直す場合、前よりも高域の分解能を はっきりわかるほど上げる必要があるのでしょう。すると周波数バランス的にハイ上がり傾向にも なりやすいわけです。 努力はわかるのですが、
新 車のマイナーチェンジのように、買 い換え需要促進のためにオリジナル・デザインにヒゲを生やし、結局バランスを崩したの類も多く あります。下記はマイナーチェンジの方が洗練された例です。



デジ タル・リマスター盤の音質(EMI art)

 
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      Original CD


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Digitally Remastered CD (art  Abbey Road Technology)

 イギリスEMIも同じようにデジタル・リマスターのシリーズを出しました。そのひとつにビー トルズでおなじみのア ビーロード・スタジオで行われているART処理があります。そのひとつを輸入盤で聞き比べてみました。アルバン・ベ ルク四重奏団によるラヴェルの弦楽四重奏曲です。このウィーンの四重奏団ならなんでも好きとい うわけでもないですが、この曲については東京クァルテット、最近のアルカント・クゥアルテット と並んで素晴ら しい演奏です。CDのジャケットはグラモフォンのOIBPシリーズ同様、オリジナルのデザイン を画面の中に小さくあしらったもので、ちょっ と残念な気がします。カップリングでストラヴィン スキーの曲をおまけしてくれたりするのもかえってうれしくありません。まあ、商売も大変ですが、録音も古くないこう した
CDで、前 の盤を持っている人がこの手で新たに買い直したりするものなのでしょうか。 私の場合ART盤を先に買っていて、中古屋で偶然オリジナル盤が安くなっていたので買ってみたのですが。では、肝心の音はどうでしょうか。

 否定的なことを言ってしまいましたが、前述のグラモフォンの運命とは違い、この盤については ART処理されたもの の方が良く聞こえます。別々に聞いたのではわからないほどのわずかな違いですが、高域の出方はオリジナルの方が少し だけ強く、情報量が多いとかハッキリしているとかいうことではなく、ややささくれだったラフな 感じに聞こえます。帯 域にすると5KHzより上でしょうか。一方で中域はART処理盤の方が少し張り出していますが、その中域にハイエン ドがマスクされることはなく、細かな音はかえってART盤の方が拾っているように感じます。こ れはあくまでも聴感上 そう感じるということで、周波数上の実際の音圧の問題ではありません。何をしたのかはわかりませんが、巧妙なノイズ 処理でもかけたような感じです。こういう仕上がりなら大いにデジタル・リマスターもかけて欲し いところです。



デジ タル・リマスター盤の音質(DECCA)

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      Original CD (1985)
 

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Digitally Remastered CD (1997)

   英デッカによるリマスターです。シャルル・デュトワとモントリオール交響楽団のベルリオーズの幻想交響曲で比較しました。最初二枚 組のリマスターされて いる方をそれと知らずに買っていたのですが、幻想交響曲が途中のトラック からになっていたので初期盤を安い中古で買い直してみました。ところが上手く行かないもので、最初に買ったデジタル・リマスター盤の方が音が滑らかでし た。オリジナル盤の方は、ああそういえばデジタル録音初期はこうだっ たな、という薄っぺら い音に感じま す。元来がその頃のものとしは 悪くない録音なので 普通には問題にならないでしょうが、いい方を聞いてしまっているので後戻りができません。

 このダ ブル・デッカシリーズはリマスターをうたい文句にはしていません。しかし「ザ・クラシック・サウ ンド」や「デッカ・レジェ ンズ」のようなシリーズではないながらも、音からすると明らかに調整されていま す。デッカはあまりこの方面で宣伝をしないようです。レジェン ド・シリーズについてはオリジナルと両方を持っている盤がないので今回は比較できませんでしたが、カラヤンのチャイ コフスキーのバレエ組曲を聞く限りではかなりシャープな音に仕上がっており、バランス的には好 みではありませんでし た。

 アナログ時代の録音をCD化するにあたって、リマスター作業は必ず行われています。なぜな ら、アナログのマスター テープ(磁気テープ)から音を起こしてCD用のデジタル・ファイルにしたものは、その段階で「デジタル・マスター」と 呼ばれるのであり、その作業がリマスターだからです。しかし初期のCDはわざわざ「デジタル・ リマスター盤」とはう たっていませんでした。後年になってそれが出てきたのは、当時のデジタル・マスタリングの機器とやり方ではアナログ LPのときの滑らかさが出せなかったので、やり直す必要があったからです。その音は一般に「デ ジタル臭い」と言われ る、低音の薄い
ギスギスした音だと認識されています。同じような音になっていた当 時のデジタル録音(最初からデジタルで録音された80年代前半のもの)とは意味が違うものの、同じ問題を言っている のかもしれません。つまり、アナログ音源のデジタル化については、AーD 間で周波数バ ランスを微調整する必要性が機器の性質上生じていたの に、当時はそういう認識がなくてそのままデジタル化されていた。そして最初からのデジタル録音については、新しい録音機器の性質に合わせてマイク等を調整 する必要があったのに、 以前のアナログ時のセッティングで録音された、というようなことがあるわけです。そのため、ここで取り上げているよ うな「デジタル・リマスター盤」が、アナログ音源のものに対しても、デジタル初期の音源に対し てもセールス・ ポイントとなってきているのです。



デジタル・リマスター盤の音質  (Philips 96KHz 24-Bit Super Digital Remaster)


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      Original CD

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      Philips Great Recording 50  96KHz 24-Bit Super Digital Remaster

 残念ながら今はレーベル自体がなくなって しまったフィ リップスのリマスター盤です。これはグレート・ レ コーディング50のシ リーズで、アナログマスターから96KHz24bit でディジ タルに起こしてからCDフォー マットにしたものです。これに関しては断然リマスターの方が良い音でし た。ハイが自然に伸びて レン ジの広さを感じさせますし、それでいて大変自然で変な強調感はありません。質が上がったという 印象で、このアナロ グ録音の優秀さをあらためて感じさせてくれます。

 
ちな みに96KHz24bit いっ ても、CDプレー ヤーで言うところのいわゆるハ イビット、ハイサンプリング処理と は違います。CDプレー ヤー元々 44.1KHz16bit だったCD情 報をリサンプ リングして本来の信号より もさらに細かく仕切り直 してから再度元に戻す作業をし ており、いわば荒かった情報を容れ物だ け細密に して入れ直しているだけだから、変換行程ばかり増 えて自然な音にはならないのです(こ の点は 機器や I C 設計者の観点から は異論のあ るところでしょう。CDプレー ヤーの理屈に関しては「オー ディ オ迷路」のページに書いて おきました)。しかし最初から アナログのマスターテープを高精度な 96KHz24bit デジタルで読み込んでCD形式に落 とす場合は、マスター テープが本来細密な情報を持っ ているので、その後CDにするに あたって情報を細かい方から粗 い方へと 落としてきているだけであり、96KHz24bit のハイサ ンプリングにも意味があるのだと思い ます蛇足なが ら、96KHz24bit というのはマルチ・ビットの PCM 方式のデジタルですが、昨今 は1ビットでサンプリングの周波 数をぐん と上げたDSD方 式が増えて きており、リマスターもこDSDで行うケースが 多くなってきました。ハイビッ ト方式とDSD 方 式のどちらが優れているかは、同じ 現場で同じ機器を用いて録音・比較し てみないことにはわかりませ ん。



デジタル・リマスター盤の音質 (DENON  MASTER SONIC 20-bit Processing)
                  
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      Original CD

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Digitally Remastered CD (Master Sonic 20-bit Processing / Blu-spec CD)                               

 ノイマン/チェコ・フィルによるドヴォルザークの定番CDで比較をしてみました。これは デンオンが廉価版でありながら高品質プラスチックを使用し、レー ザー・カッティングの精度上げているというありがたい盤で す。おまけに今までは別々に出ていた7番と8番がカップリングされていて、大変お得感があります。
 うたい文句によると変更点は主に三つのようです。

1.20ビットのリサンプリングでデジタル・リマスターをかけているということ。
2.ブルー・レーザーという技術で正確なピット生成をしているということ。
3.歪みの少ないブルー・レイ・ディスク用のポリカーボネート材料を使用しているということ。

 1.は20ビットという精度の高さ以外に、人のセンスに左右され るアクティブな音質改善が含まれる可能性があり、2.と3.はパッシブなハード面のみの改善です。何がどう影響して いるかはわかりませんが、音はオリジ ナルの方がバランスが良いと感じました。リマスター盤の方はより高域が強調され、潤いが少なく感じます。歪みっぽい とかささくれ立つとかいう感じはなく、分解能は高いのだと思いますが、一方で聴感上の帯域バランスも非常に重要で、 オリジナル から変更する意味はなかったと思います。よりクッキリ聞かせることで違いを出そうとしているのなら、やかましい店内で売れるオーディ オ装置の音決めと同じであまり感心しません。良いと思える技術を使ったらそうなった、ということかもしれませんが。



デジ タル・リマスター盤 の音質(SONY  MASTERWORKS  DSD)

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      Original CD


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     Digitally Remastered CD (Masterworks DSD)

 ソニーのリマスターです。90年代に出た四季の名盤を早くもデジタル・リマスターしています。ジャケット にも黄色い縁取りがされていて、グラモフォンやEMI同様に、とりあえずデザイン的にはちょっとがっかりです。

 技術者が意図的に音を調整する行程が含まれるかどうかはわかりませんが、DSD変換による技術だと書かれてい ます。DSDはファイルの形式名(ダイレクト・ストリーム・ディジタルの頭文字)で、使われている技術はスーパー・ オーディオCD(SACD)を録音する際に用いている1ビットのビット・ストリーム方式です。最近では録音現場で広 く用いられ、SACDのみならず普通のCD用に録音する際もこの方法で記録されていることが多くなりました。 フィリップスが80年代に再生用のCDプレーヤーに開発した1ビット方式のDAコンバーターは、それまでのマルチ・ ビット方式と比べて滑らかではあってもつまらない音になる(一部のオーディオ好きたちの主観的評価)要注意なもので した。そのため一度は時代逆 行でマルチビット機が高級機扱いされるようになり、その後両者の利点を合わせた方式が開発され、現在のハイビット・ハイサンプリング
CDプレーヤーの時代に至っています。 しかしCDの録音現場でいうDSDは、再生側のそれと同じビット・ストリーム技術を使ってはいるも のの、情報量も圧倒的に多く、音質面でマイナスとい うことはないようです。CDプレーヤーの 場合は元々44.1KHz16bit で書か れている情報を変換して1ビット方 式で読み出していることもマイ ナス要因でしたしかしDSD方式で録音されて普通のCDフォー マットに落とされたCDの中には大 変優れた音のもの も多数あります。最近はDSD方式のままのネット配信も始まり、ハイ・リゾリューション(情報量が多いということ) 再生を楽しむオーディオ・ファイルもいます。これが可能 になったのは、DSDのファイル形式をそのま まア ナログへとDA変換できるコンバーター(再生装置)が近頃売り出されているからです。パソコンの記憶装置から再生す るこのやり方はiPodなどの圧縮音源を楽しむのとは似ていながら も反対で、まだまだ一般的ではありません。SACDですら廃れて行ったレーザー・ディスクの運命をたどるかもしれないのですから、普及はしないかもしれま せん。

 本題に戻りますが、このリマスタードCDに限っては、その音は私にはあまりうれしくありませんでした。 元々 この四季の録音は高域側のエネルギーが高く録音された、いわゆるハイ上がりの音でしたので、デジタル・リマス ターさ れてそれがよりいっそう強調される結果となってしまいました。同じシリーズで他のヴィ ヴァルディの協奏曲のCDを2枚持っており(美しい曲と演奏です)、その方がバランスが良かったので四季もわざわ ざリリース時の盤を買い直しました。最初はリマスター盤の方で格闘し、パソコンにファイルを吸い上げて波形編集 ソフ トでバランスを色々いじってみたりしたのですが、どうも納得行くようにはできませんでした。ただしこの音は、方式の問題ではなく運用の問題かもしれませ ん。




デジ タル・リマスター盤 の音質(CBS John McClure / SONY  SBM
/ MASTER SOUND  DSD)


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      Digitally Remastered CD (Produced by John McClure from newly remixed original session tapes.)

   
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      Digitally Remastered CD (High Definition 20-bit Sound Remastering + SBM Super Bit Mapping  Remixed by
      Louis de la Fuente [Reissue Producer],  Darcy M. Proper [Reissue Engineer])


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Digitally Remastered CD (Master Sound  DSD SBM-Direct  UTL  PSP)

  もうひとつソニーで、こちらはリマスターを宣伝としてうたうようになってからのもの同士の比較です。曲目はブルー ノ・ ワルターが指揮したベートーヴェンの「英雄」。ワルターのCD が初めて出たときの盤も手に入れて比較できるとより良いのでしょうが、そこまではやれていません。LPのときの音がそのままイコライジングされずにデジタル化されたのであれば、ヒスノイズはか なり盛大に出て、高域のシャキシャキした音だったのだろうと想像します。今回、一連のワルターの録音を行った技 師、ジョン・マックルーアが自らリマスターしたという評判の盤を手に入れましたので、合計3枚を比較します。

 写真の一番上が噂のマックルーア・リマスター盤で、アメリカ CBS から1985年に出たものです。82年の
CD登 場から間もないので国内盤の35DC と同じ音源なのか確信はありませんが、「オリジナル・セッション・テープから新たにリミックスしたものからジョン・マックルーアがプロデュースした」と表 記があるので間違いはないと思います。それとも最初にCD化されたものがいわゆる「マックルーア・リマスター盤」 で、リマスターというのはデジタル化したという意味なのでしょうか。い ずれにしても今回手に入れたものは国内盤の他曲のマックルーア盤(35DC)と音質傾向は同じに感じます。その 国内盤は白地に金模様の装丁で、一部でこの音をベストと褒める声があるせいか、ソニーでは紙ジャケットで限定再 販してみた り、廃盤のものが4千円から1万円超で取引されたりで、「英雄」については気にはなっていたものの買う機会がありませんでした。マーラーの巨人やモーツァ ルト の40番など、評判になる前に手に入れていたものがあるので音の傾向はイメージでき、何を白熱しているのかなと 思っていたのですが、とりあえず同じ音源でないと比較にはなりません。曲を変えれ ば良かったのでしょうが。

 真ん中
がアメリカ版 の95年のリマスターで、通称 SBMリマスターなどと言われるようです。「ハ イ・ディフィニッション」というシリーズ名は20ビットによるハイ・サンプリングを 意味します。 「+スーパー・ビット・マッピング」(SBM)というというのは、ハイ・リゾリューションの情報(20ビットにせよ DSD ファイルにせよ)を
CD本来の16ビットに戻す際に少ないロスで行うということのようです。リマス タリング・エンジニアはルイース・デ・ラ・フエンテ(Reissue Producer)とダーシー・M・プラ パー(Reissue Engeneer)となっています。

 一番下は98年の日本盤で、こちらは「マスター・サウンド」というシリーズ名ですが、
巷では「DSD リマスター盤」とも言われるようです。DSD 方式でいったん情報を吸い上 げるものであり、SBM リマスター盤がマルチビット(20ビット)なのに対して1ビットで行います。ビット数が少ないのは精度が低 いように思われるかもしれませんが、サンプリング周波数は2.8MHzという、前者の64倍の精度で取り込んでいま す。 並記されている「 SBMダイレクト」というのは前者のSBMと同じことで、DSDファイルから16ビットに戻すときの言い方のようです。リマスター時のエンジニアの名前は 表記されていません。リチャード・ブリッタン Richard Brittan の名が Engineer として挙げられていますが、マックルーアの下に書かれているので、最初に録音されたときの技師の名なのではないで しょうか。
 
 さて、音なのですが、ひとつ前の四季とは一見反対の結果となり、日本盤の
DSD リマスター盤が一番好みでした。こうした比較はオーディオ機器との相性もありますから大変微妙ですが。

マックルーア・リ マスター盤
 マックルーア盤も確かに悪くはありません。オリジナルのアナログ・マスターからあまり加工せずに最 小限に整えて、 自らが録音した素の音を出すという方向なのだろうと思います。テープのヒスノイズは残っていますが、気になるほどで はありません。一時期の
最もハイ上がりだった頃のLPよりは高域全体を落としているのでしょう。低 音は結構雄大に出ていますが、ワルターのこの時期のコロンビア交響楽団の録音全般に言えることとして、印象とし ては中域の上の方、2〜3KHz あたりが目立たず、弦の音がやや痩せて聞こえます。強調されて響くのは金属的になる帯域よりは少し上、繊細な倍音が乗っているところよりは少し下の帯域、 恐らく7KHz 前後でしょうか、擬音的にサーとか、無声音のS、SH などで表されるよりは低いところですので、シャ、シュなどの音と言えばよいでしょうか。このマックルーアのリマスターではそのバランスはあまり変えられ ず、しかしやや抑えられて艶っぽさも幾分乗って聞こえます。最新のデジタル録音よりも優れた音だと評する向きも あるようですが、過大評価のような気がします。少なくとも私の耳にはそうは聞こえません。御大自らがやった ものなら何でも良いというなら権威主義でしょう。情報量が最大の録 音だとも思いません。仮にハイ・レゾリューションのリマスタリング音源から直に聴く機会があったとしても、すで に失われている情報は戻らないのではないでしょうか。もちろん、ステレオ最初期の音源として、他のレーベルのも のや同レーベルの他のセッションと比べて記録されている情報が多いということはあるかもしれません。

SBM リマスター盤
 これに対して SBM リマスターの方はずいぶん低音が増強されて聞こえます。昨今の低域をタイトに絞めたスピーカーや小型のブックシェルフでは良いのかもしれませんが、ボンつ いていると感じさせる機器もあるかもしれません。ただ、これは実際に低域が増えているのではなく、バランス的に 高域が抑えられているせいもあってそう聞こえているのかもしれません。こういう問題は相対的で、どこかに基準点 を取ってレベルを計ってみなければわからなくなります。
 高域は明らかに少し調整をかけて抑えている帯域があるようです。本来の線の細さがやわらいでいます。しかし周 波数バランスを細かなバンドごとにいじっているのではなく、元のバランスのままハイを落としている感じでしょう か。全体にはマックルーア盤で聞かれた、中高域のふくらみが抜けて痩せたシュワーンとした音の傾向がここでも聞 かれます。むしろ高域を抑えたせいか、かえって艶も抑えられてしまって色気のない音に感じられます。ドンシャリ というと言葉が悪いですが、全体にドン・サラぐらいのテクスチャーでしょうか。ヒスノイズのシーという音はほと んど聞 こえなくなっています。ノイズフロアを計算して差し引きしてあるのでしょう。トータルではマックルーア盤の方が バランスが良く聞こえ、この SBM を最初に買って納得が行かなかったことを思い出しました。しかしマックルーアの音を台無しにしたギスギスしたリマスターだとまで言 うのは当たらないと思います。そこまで加工しているとも思えないし、ハイ上がりにしてエッジを効かせ、一見ハイ ファイに聞こえるように狙った他社の国内盤のような方向とは逆です。ふくよかという表現も違うものの、むしろ マックルーア盤よりミッド・ハイのバランスは抑えているのです。

DSD リマスター盤
 最後にソニーの国内版のリマスターです。これは DSD でリサンプリングしたという宣伝ですが、DSD エンコーダのバランスに癖があるならば別ながら、音は明らかに技師がいじっているだろうと思います。しかし私に はそれが悪くは聞こえません。元来が中域のふ くよかさが抜け、弦にしっとりした艶が感じ難い傾向の録音ですから、意図的にバランスを整え、若干ならば艶や かに聞かせるのもありではないでしょうか。ここでは適度に艶が乗り、マックルーア盤よりももう少し輪郭が付く傾 向があるようですが、キラキラするよりも下の帯域であるため、やかましい方向には向かっていません。第一印象で はむしろおとなしく感じるぐらいです。冷静に分析するとバランス上中高域は明らかに増えているように思いますの で、人によっては高域がキツいと言う可能性もありますが、元々足りなかった分なのでこの方が自然なのではないか と思います。

 SBM リマスターよりも低音がだぶついて聞こえないのは、これもバランス上高域にいくらかウェイトがあるせいでしょうか。低音自体はよく出ています。トータル で言って、この DSD リマスター盤が最も「新しい録音」のように聞こえる調整ではないかと思います。弦の倍音だ けをルーペのように拡大して見 れば若干のつぶれはあり、そこの帯域を強調している分だけつぶれも目立つと言えるかもしれませんが、それは元々 のマスターテープからの問題です。デジタルの最近のものでももっとつぶれているものがありますから、この年度で は大変優れている方です。良くとれた最新録音のように、自然でありながら倍音の細かなニュアンスが付き、弦の返 しやハッと息を呑むような空気感があれば言うことはありませんが、録音のプロセスで一度失われた情報はどうやっ ても元には戻らず、最初からそのような音が含まれていない場合はどうしようもありません。超高域成分をその下の 帯域から予測計算して付け加えるというデジタル処理を考え出したオーディオ・メーカーもありますが、それも疑似 的なものであって、いわば創作行為ですからレコード会社がするべきことではないと思います。

 SBM 同様ノイズは除去されています。ノイズが乗っていると埃っぽく聞こえますので、これはこの方がいいと思います。盛大にノイズが乗っていてもアナログ録音の 方がリアルだ、したがって一切いじるべきでないと言う人もいますが、それはある瞬間に輪切りにしたときの周波数 スペクトルが どうなっているかという問題ではなく、経過する時間の流れの中で楽器の音色が変化する割合が大きいかどうかを問 題にしているのでしょう。確かにデジタル初期には単調な表情の録音もあり、アナログの方が音がいいと言いたくな る気持ちもわかります。しかしディテールが著しく損なわれるの でないならば、今回のような場合、一般の人にはノイズ・リダクションは軽くかけた方がいいと思います。
CDというも の自体がもうすでにデジタルになってしまっているわけですし、ソフトウェアでいじった瞬間に 音がすごく悪くなるわけではありません。人間の耳でノイズ成分だけを差し引 いて聞けると主張するようなマニアは、案外高域成分の感受性が衰えているのかもしれません。年齢とともに判断す る耳が悪くなるとは決して思いませんが、物理的低下はあり得ますし、思い込みも常に生じます。

 結果的に最も自然に聞けたのは最新のリマスター盤でした。
これは方式だけの問題 ではないでしょう。技師は誰だったのかCD自体には書いてあ りませんが、人のセンス大いに関係あると思います。日本盤が日本 で作業されたのかどうかもわかりません。少なくとも言えることは、DSD方 式が悪いということはないということ、日本盤が常に悪いということもないということです。

  ワルター盤については参考までにもう一点触れておきます。昔のアナログのLPレコードも、私は当時のもの(日本盤)を持っていますが、デジタル臭さと は違った意味で高域に癖のある音がしていました。それについてはすでに述べましたが、まずサーッというノイズ(テー プヒス)があり、ハイ上がりのバラン スになっていて弦が不自然でした。馬の尻尾をスチール・ウールに替えた弓で フォーク・ギターの弦を張ったヴァイオリンを弾いているかのような音であり、後の時代に「デジタル臭い」と言われた 音のバランスに似ているとも言えます。 RIAAのイコライザー・カーブに何か問題があるような感じです。つまりアナログLPは良い音だったというのは、ス テレオ最初期の録音については言えないことも多いのです。 当時の録音では英デッカでも同じような傾向の音が聞かれ、反対にドイツ・グラモフォンには一部のフリッチャイの盤のように良いバランスのものもあったりし ます。グラモフォンはむしろその後の方が、70年代になってからアナログ録音の終わりまで、技師によって は非常に中高域のキツい音のものを出すことがありました。


 ブルーノ・ワルターの音楽は私も好きで、色々な曲で持っています。リマスターでも差が出やすい音源ですから無頓着 でもいられません。今回の聞き比べでは上記のような結果でした。しかし私の一番好きな音は自分で勝手に調整をかけた ものだったりします。なんだか自慢めいてきましたが、モーツァルトの40番のシンフォニーはワルターの演奏が気に 入っており、波形編集ソフトに様々 なプラグインを動員してやりたい放題のことをやってみました。何点かの周波数でピーク/ディップを儲け、Q値も調整 してたくさんのバリエーションを作りました。そのときはしませんでしたが、
ある帯域だけ狙っ て少しだけ反響を付けるということもできます。フィルターで絞って行って、わからない程度に響きを付けるので す。一度付けた反響は取り除けないのでやり過ぎないことですが、デッドな録音の場 合は巧くやれば潤いを出すこともできます。モーツァルトについてはどこの周波数をど う調整したかを言いたい気もするほどですが、音を積極的に改変する行為は邪道も邪道でしょうから、戯言の類いで す。ただ、どのリマスターも絶対ということはありません。日本では素材主義 のようなことが良く思われ、下記ビク ター のXRCDあ たりが特にそう宣伝しましたが、他社も同じ方 向性で、曰く「状態の良いオリジナ ル・マスターテープを確保し、そこからできるだけ余 分な機器と行程を経ずにデジタル化することで良い音を得ました」と言われます。これは素材の味にこだわる日 本料理のようですが、技術的には全く正しいことです。ただ、古い録音でバランスの悪いものに関してはそういうパッシ ブな方法では補正し切れないものもあると思います。公言はされていませんが、積極的に音をいじったことで心地よく聞 こえている 場合もあるのではないでしょ うか。  



デジ タル・リマスター盤 の音質(JVC  XRCD  20bit K2 Super Coding)

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      Original CD


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Digitally Remastered CD (JVC XRCD 20bit K2)
 
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Digitally Remastered CD (JVC XRCD 20bit K2)

 ビクターの最初の頃のXRCDシリーズです。ビル・エバンスはクラッシック・ファンにも広く受け入れられている、 白人系でちょっと印象派的なジャズのピアノ・トリオであることはご存知かと思います。そしてこれはまた歴史的に有名 なレコーディングですが、オリジナルのマスターテープで状態の良いものを捜し出し、細心の注意を払ってデジタル化し たようです。そしてそれをまたCDの盤にするまでの行程でも音質劣化させないように配慮したとのことで、リマスター の技術者がソフト的に音をいじったという方向性ではないようです。

 素晴らしい音です。一皮剥けた生々しさがあり、それでいて潤いがあります。高域寄りのバランスにして見かけの分解 能を高めたりするのとは別のレベルです。ノイズによる埃っぽさもまったくありません。愛聴盤にしているアット・シェリーズ・マン・ホールなど、まるで最新録音のようです。 こういう話題はオーディオおたく的で音質 とは何の関係もないのですが、ドラムがスティックを落とすカランカランという音が入っていて、あまりの生々し さに毎度構えてしまうほどです。値段は高かったですが、このシリーズ、買い直すだけの価値はありました。その後盤質を高品質プラスチックと組み合わせたも のへとシリーズ展開しているようですが、そちらはまだ検証していません。



デジ タル・リマスター盤 の音質(A&M)

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Now and Then (remastered by Richard Carpenter)
 
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Horizon (remastered by Richard Carpenter)
 
 カーペンターズを同時的に知っている世代とリヴァイヴァルで知った世代とでは、受けとめ方が違うのでしょう か。知っていた世代の人があらためて聞くと印象が違っていた、という話をよく耳にします。ということは、流行ってい た当時はあまりにも光が当たり過ぎていて、露出オーバーで白とびしていたのかもしれません。自分のことを思 い出してみても、「イエスタデイ・ワンスモア」などというタイトルばかり頭にあり、昨日のことを懐かしむ後ろ向 きの歌という印象を持っていたことを思い出します。流行への反動もあったでしょ う。

 カレンが拒食症で亡くなってどのくらい経つでしょうか。一部の摂食障害の人には「自 分のことはOKだから話さない」という感じ心を開いてくれない印 象もありますが、今あらためてカレンの歌を聞くと、なん と完璧主義な人なんだろうと思います。一般的な甘い歌声というお仕着せのイメージでとらえて いたときには気づかなかったことでした。とんでもなく才能のあった人のようで、ドラムの腕も一流であり、叩きながら まったくその作業に影響されずに完璧に歌をうたっている映像などを見ると目が釘づけになります。

 相棒だった兄のリチャードは、今になっても「カレンの完全な歌に皆まだ気がつかないんだ」というようなことを言う ことがあるようです。どれほどの愛情を注ぐ相手だったのか、失った悲しみが感じられて胸が痛みます。インタビューを 見ても、カレンが心配しているのではないかと思うほど彼女のことを力を込めて話していました。完璧にコン トロールされた歌声、自分を追い込んで行かざるを得なかった姿勢。夫との関係で傷ついたとか、アメリカ特有の薬のオーバードースがあったとか言われ、カレ ンの心の真実はわかりませんが、結果的に命を 失うことになったのは事実です。しかしその心が表れているだろう彼女の残した歌声に、私たちが今穏やかさややさしさ を感じて癒されるということが起きています。ユング派の心理学では「傷ついたヒーラー」と言いますが、癒せ るものは傷ついた者、そこに不思議な力を感じます。

 リチャードはそれこそ完全主義ともとれる情熱でカレンの歌声をデジタル・リマスターしているのだそうです。CDの ジャケットを見ると、70年代の日付以外どこにも今の日付が入っていなくて驚きます。もちろんデザインも当時のLP のものと変わらずです。そしてその音質なのですが、ポップスのリマスターというと音が前に出てくる迫力のみが追求さ れ、コンプレッサーという仕組み(今はパソコンでできます)で小さい音を大きくし、大きい音を歪まないよ うに頭打ちにして圧縮するのが一般的なようで、細かいニュアンスもへったくれもないのですが、兄リチャードがかか わっている上記のCDは生々しくも繊細で、まるで最新録音のようです。 技術者のセンスによって善し悪しが決まるために「リマスターは人だ」と言われますが、そのいい例ではないでしょうか。リチャードはカレンを甦らせようとし ているのでしょうか。




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