BBCモニター(BBC Monitor Speakers) 

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 BBC Monitor LS5/1 1958 LSのナンバーが与えられた BBC のスタジオ・モニタースピーカーとして最初の記念碑的モデル。BBC が KEF社のレイモンド・クックとともに開発したもので、コーン振動板がベクストレン樹脂になったものを振動板の観点から第一世代と呼ぶならば、その意味で もジェネレーション・ゼロと言える。ツイーターは後に多くのモデルに使用され、民間用スピーカーにも広がって一世を風靡したセレッションの HF1300。 このツイーターは能率が低かったためだろうと思われるが、ここでは二個遣いされている。


  
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LS3/5a 1975   BBCのモニタースピーカーで、小型のもの。同じ規格でKEF、チャートウェル、ロジャース、スペンドー ル、ハーベスなど、各社が競って作った。小さいのに音が良いと今でも人気がある。

 一 方、BBCの放送スタジオでモニター用に使われるスピーカーシステムは厳しい基準を満たしていなければならず、 耐入力だけでなく周波数特性も平坦に整えられていました。KEFのレイモンド・クックやスペンドールのスペンサー・ヒューズ、ハーベスのダッドリー・ハー ウッドといった人たちが開発に関わっていくつものモデルがあり、前のセレッションのページの写真にとりあげたLS3/6は70年代を代表するものでした が、メーカーとしては他にもチャートウェル、ロジャースなど、複数のブランドが同じ型番を作る体制になっていました。たとえば日本に入ってきたもののうち 小さい方で有名なのはLS3/5aで、ユニットはKEF製のB110とT27でしたが、この小型の移動用モニタースピーカーは箱の規格とユニットこそ決め られていたものの、製造するブランドごとに中のネットワークが少しずつ違うということがあったようです。


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KEF の優れたツイーター T27 英国 ICI 社が1950年代に工業化に成功したポリエチレン系のフィルムであるメリネックスを振動板に用いている。


         
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 KEF B110  14センチのベクストレン・コーンウーファー。ベクストレンは後にハーベス社を興す BBC の技術者、
ダッドリー・ハーウッドが LS5/5用に実用化した振動板材料である。樹脂のものとしては最初の世代。
 

            
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BBC Monitor LS5/8 と LS5/9 1985 ダッドリー・ハーウッドと、そのチームで働いてい後にチャートウェル社を興したデイヴィッド・ステッピングスがベクストレン代わって着目した素材、白っぽい半透明のポリプロピレンをコーン振動板材料として用いている。現ハーベス社の説明によると当初この材料パテントを取得したのはダッドリーのようだが、後にステッピングスのものになったようで、ステッピングスは BBC 辞してチャートウェル 社を立ち上げ、QUAD のアンプを内蔵した LS5/8 やアンプなしの PM510 などを世に送り出したものの経営不振に陥ってロジャースに身売りし、ポリプロピレンの特許もロジャースのものとなった。 LS5/8 として民間に売られた多くもロジャースのブランドで出たのである。


            
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      Audax HD13D34H  3.4センチのシルクドームツイーター

   こ こで少し、ウーファー用のコーンの材料について書きます。昔からクルトミューラー社やピアレス社など、コーン紙の専業メーカーがあって独自のノウハウを 持ってきたわけですが、湿気等に対する安定性を模索するなかで、プラスチック系材料のコーンが登場してきました。BBCでのプロジェクトとしては、後に ハーベス社を立ち上げるダッドリー・ハーウッドが中心になって60年代後半から開発が進められました。その最初の世代がベクストレンです。ベクストレンは 事実上ポリスチレン(スチロール樹脂)で、音が良かったけれども今は使われなくなったスチロール・コンデンサーなどと同じ系統の材料です。しかしこの材料 はそのままスピーカーの振動板に使うと「アヒルが鳴くような固有振動音」 (アラン・ショー氏の表現)を発してしまうため、木工ボンドで知られている(ポリ)酢酸ビニールの系統のダ ンプ材、PVAを裏表に手塗りして使います。前述のLS3/6モニ ターがその代表で、小型のモニターLS3/5aに使われたKEF製のB110も同じです。

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  Spendor SP-1  BBCモニターではないが、70年代のBBCモニター系のシステムを代表するツイーターであるセレッションHF1300を使った最終世代とも言えるスピーカー。ウーファーが樹脂振動板のファースト・ジェネ レーションであるベクストレンではなく、セカンド・ジェネレーションにあたるポリプロピレンに替わっている。古い世代のツイーターと新しい世代のウーファーという、いわば過渡期的な珍しい例。この後SP-1/2となり、ツイーターは別のものになる。


 ベクストレンはしばらく英国製のスピーカーで盛んに使われますが、ダンプ材を塗ると振動板が重くなるた め、さらに良い材料が模索されました。そして70年代も半ばを過ぎて、その仕事もハーウッドが(後にチャートウェル社を興すデイヴィッド・ステッピングスと一緒に)行ったのですが、乳白色がかった透明の樹脂であるポリプロピレンが選ばれます。難接着で有名ですが、ダ ンプ剤を塗る必要のない第二世代の振動板材料です。このポリプロピレンを使ったスピーカーについて次に述べたいと思いますが、その前に世代の話を駆け足で してしまいましょう。ポリプロピレンの次の第三世代の材料としてハーウッドが次に注目したのは、フランスのオーダックス社が振動板への導入を進めていた TPXという材料です。ハーウッドがポリプロピレンの特許を手放した事情とステッピングスとの関係はよく分からないのですが、新しく着目したTPXの 方は(ポリ)メチルペンテンという 熱可塑性の樹脂で、高い温度にするとやわらかくなる性質があり、射出成形が可能でポリプロピレンより軽いの が利点です。ハーウッドはこれを自身のハーベス・モニターHLタイプ W(後述)に用いましたし、ポリプロピレンとの複合材料としてはウィーン・アコースティックがXPPという名前で採用するなどして広がってきています。 ハーウッドから会社を引き継いだアラン・ショーの新生ハーベスでは再度ポリプロピレンに戻っているようですが、パテントの関係からか混ぜ物をした材料のよ うです。
 


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TPX系振動板のウーファーを3センチ厚のハードメープル集成材の箱に入れて試してみる。左はウィーン・アコースティックのウーファーで、右は ProAc 製。ウィーン・アコースティックの方がマグネットが小さくインピーダンスも低く、フルレンジにして聞くと高域が細身で伸びている。一方 ProAc の方は若干能率が低めでインピーダンスが水平に安定しており、高いところまで行って最後に上昇するようなカーブを描いていた。しかし音の方は中高域に若干硬く響くような強調があり、その上が急に落ちているように聞こえる。ハードメープル単板というのも失敗原因だったかもしれない。響きが乗ってしまうところがあるので、アピトンの合板にしておけば良かった。ツイーターは左が Infinity EMIT、右が Audax TW034。


       
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Rogers DU125 ST-3 ポリプロピレン・コーンのウーフも試してみた。インフィニティ・インフィニテシマル3やウィーンアコースティックS1とは違い、ProAc 同様にマグネットが大きいため高域のエネルギーが上がり気味で、ネットワーク素子で上を十分にカットしなければならない。同じマグネットでもベクストレンのようにダンプ剤で重くなったコーンの場合はハイの落ち方も大きい。この機種もやはりハードメープルの集成材の箱に入れたのでは本来の性質が見極め難くなってしまう。

 さて、そんなBBCのモニタースピーカーの中にあって個人的に非常に欲しいと思ったモデルにロジャース製のLS5/8(PM510)およびLS5/9と いうのがありました。これがLS3/6の次の世代を担う乳白色のポリプロピレンを振動板に使ったウーファーを採用したモデルです。ポリプロピレンは接着に 難があるものの、大変素直でありながら明るさも持たせられる優れた材料です。ツイーターはフランスのオーダックス製1.5インチドーHD13D34H で、やや口径が大きいながらも穏やかで素直、かつ弦の自然な艶も出るように調整されていました。5/8の方が30センチウーファーの2ウェイで大型である のに対し、5/9は20センチ・ウーファーの手頃な大きさで値段も手が届きやすく、何度も試聴して購入を夢見ました。しかし結局ツイーターをユニットで手 に入れてロジャースの14センチのポリプロピレン・ウー ファーと組み合わせて自作をする迷妄へと進んでしまいました。手に入れたユニットはウーファー側が DU125、ツイータが
HD13と同型で番号違いのTW034X0でしたが、最初6dB/oct の緩いスロープで組んでみたところうまく行きませんでした。同じSEASのフレームに入ったProAc のXPP振動板のウーファーなどに色々変えてネットワークも作り直してみたのですが、マグネットの大きなものは高域が上昇してくるため、LS5/8 や5/9では感じられなかったような高域のキツさが出てしまって成功とは言えませんでした。これはハードメープルの単板集成材で箱を作ったことが大元の失敗だったこともあるし、ツイーター側ユニットのf0 近くの暴れも取りきれなかったのかもしれません。BBC モニターの回路にならって18dB/oct の急峻なスロープ回路にすると良いバランス点が見つけられました。ただこのツイーター、いずれにしても口径のせいか、同メーカーの1インチドーム HD12(ハーベス・モニターHL用)よりもハイエンドの繊細さでは若干劣るように思います。30センチウーファーの5/8にスーパー・ツイーターとして インフィニティのEMITでも乗せれば最高のバランスになるのではないかと思います。



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