アラビアンDJ
〜ニューウェーヴはアラブをどう唄ったか〜
2001/10/08

 今朝、アメリカがアフガンに爆撃を開始した。戦争開始だ。

 欧米では戦争を連想させる唄も戦争反対のメッセージがこめられた唄も放送が自粛されているらしい。国家は、メディアは、音楽を恐れているようだ。
 
 80年代ニューウェーヴの名曲の中にも、中東アラブ諸国にゆかりのある曲はいくつか存在する。これらが現在放送禁止になっているのかどうか僕は知らない。ニューウェーブはアラブをどう唄ったのか。当時はそんな問題意識なんて全く無かった。いまのところ爆音と関係の無い日本で、ヘッドホンで改めて聴いてみる。




The Cure / Killing An Arab (1979)
from CD "Staring At The Sea"

 キュアーのデビューシングル。いきなりアラブ人を殺せというのも如何なものかと思ったら、実はこれ、カミュの『異邦人』からインスパイアされているらしい。「西欧人がイメージする中近東的なメロディー」が印象的なギターと、白昼夢のような歌詞。初期のキュアーらしいミニマルサイケ。彼ら自身この曲を気に入っているらしく、コンサートでは必ず演奏している。

 カミュって、アルジェリア出身のフランス人なんだっけ?(適当な記憶) やっぱり西欧人って、アラブを「よくわからない恐いもの」の象徴として感じているふしがあるね、いま考えると。キュアーが後に日本を唄った "Kyoto Song" なんかは逆に神秘的で切ない感じだったから。




Siouxsie & the Banshees / Israel (1981)
from LP/CD "Once Upon A Time: The Singles"

 バンシーズがパンクを卒業してニューウェーヴに転身しようとする頃に発表した、混乱したイスラエルのクリスマスをテーマにした名曲。繊細なギターとラストのコーラスが神々しいまでのオーラで傷ついた世界を切なく癒す。

 今回のテロ事件、実はイスラエルが裏で糸をひいてるんじゃないかっていう説がある。ユダヤ資本をバックにつけていたクリントンと違い、WASP系のブッシュはイスラエルに無関心だったので、危機感を感じたイスラエルがアメリカとNATOにパレスチナを爆撃させるためにテロを仕組んだんじゃないか、と。




Specimen / Syria
(1983)
from mini album "Batastrophe"

 これはバンシーズの"Israel"に対する乱暴なアンサーソングだと僕は勝手に思っている。「なんかバンシーズみたく中近東の国の名前を曲名にしたら意味深でカッコよくない?」的なノリで作られたであろうこの曲はしかし、スペシメンらしいダークで華やかなグラムパンクの逸品に仕上がった。

 あるイギリス人のサイトでは「シリア人の友人が、この曲の歌詞はシリアのことを良く言ってるのか悪く言ってるのかサッパリ分からない、と悩んでいた」と紹介されていた。そりゃそうだ。"Turn it up, up, turn it !" とか叫んでるだけだからね。中東問題すらゴシック・エンターテイメントに転化してしまう黒魔術の快楽もまたロック也。

 ついでにSpecimenのデスクトップテーマを紹介したりして。これでキミのパソコンもBat Caveだ。




the The / Sweet Bird Of Truth (1987)
from single "Sweet Bird Of Truth"

 1986年、ベルリンのディスコ爆破事件に対する報復として、アメリカはリビアの首都トリポリを空爆。「テロに屈しないアメリカ」という威厳を世界に示した。

 しかし「怒れるインテリ」マット・ジョンソンが率いるザザは空爆に否定的な立場をとり、この曲を発表。リビア空爆に向かう戦闘機のパイロットの苦悩と葛藤を一人称で見事に描写してみせた。この曲は結局、放送禁止や販売中止といった憂き目にあう。全然過激な歌詞じゃないんだけどね。「戦争といっても、もっと個人の感情の内側を見つめようよ」っていうのが彼の視点だったんだから。

 ところでザザのアルバムって"Mind Bomb"が最高傑作だとする声がほとんどだけど、僕は政治色の薄かった初期の"Soul Mining"が好き。


Sweet Bird Of Truth
(超訳:真実一郎)

午前六時
この戦闘機の中で僕だけがまだ生きている
真下には血の色をしたアラビア湾
ここは天国か地獄か
「我、一塊ノ兵隊ナリ」

これまで稼いだ全財産
ここまで傷んだこのカラダ
僕は子供のように泣きわめくべきか
それとも男らしく黙って死ぬべきか
兵士なら誰もが考える瞬間が僕にも訪れる
世界は天国で世界は地獄だ
僕に出来ることはなにもない

何が正しくて何が間違っているのかなんて分からない
僕はただ感情を必死に押し殺すだけ
これまで神を信じたことなんて無かったけれど
それでもいま、君のために祈るよ
「アイシテル」

管制塔から緊急事態の連絡
もう何も聞こえない
もう何も考えられない
僕の乗る鉄の鳥がアラビア湾に落ちていく



 オノヨーコが、"Imagine"の歌詞の一節を広告としてアメリカの新聞に出稿したそうだ。世界の人が平和に暮らす姿を想像してごらん、というアレだ。でも戦争は始まった。

 真心ブラザーズは『拝啓、ジョン・レノン』という曲で「あなたがこの世から去りずいぶん経ちますが、まだまだ世界は暴力にあふれ、平和ではありません」と唄い、ジョン・レノンを「現実見てない人」「夢想家」だと叫んだ。そして戦争は始まった。

 唄には、戦争を止める力は無い。戦争を起こす力もないだろう。ニューウェーヴの名曲たちも、アラブと西欧の関係にこれっぽっちの影響力も持ちやしない。そして僕とアラブの距離が縮まるわけでも決してない。

 それでも唄を聴くと、あるいは唄が頭の中で突然グルグル再生されはじめると、僕の肌の内側はザワザワし始め、世界は明らかにこれまでとは違う見え方をし始める。

 真心ブラザーズは『拝啓、ジョン・レノン』という曲で「そして今ナツメロのように聴くあなたの声はとても優しい」と唄った。



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