この日の日本は、「カウンタ得意のポーランドに良さを出させない」と言うテーマを完璧に実演した。これは単に守備的とか攻撃的とか単純な表現では描写できない見事な試合ぶりである。敵のよさを出させないと言う意味では守備重視とも言えようが、そのためにできる限り敵陣近くでプレスの網を張ると言う意味では攻撃重視とも言える。
私は、トルシェ氏がチームをここまで成熟させてきた事に感慨を禁じえない。
シドニー五輪の1次リーグ。日本は苦戦しつつも2連勝したが、あろう事か最強と目されていたブラジルが南アフリカに苦杯を喫したため、自力で準々決勝に進出するためには最低引き分ける事が要求された。
このような試合では、まずは点を取られない事を考えなければならない。ところが、日本は立ち上がりから、漫然と試合に臨み(そう見えた)立ち上がりに猛攻を許し、敢え無く先制され、そのまま押し切られた。
もちろん、A代表ではない若いチームだった。しかも、攻守の両輪だった中田と森岡を警告累積で欠く布陣だった。しかし、あの時点では、トルシェ氏のチームは「強いチームに対してまず守りを固める」モードを持っていなかったのだ。
昨年のコンフェデ以降、チームの成熟が高まると共に、攻守のバランスが飛躍的に向上してきた。冒頭に述べたカメルーン戦、あるいはキリンカップのパラグアイ戦など、ほぼ完璧な内容で完勝した。
この日のポーランド戦では、上記2試合と同様に完璧な内容の試合を、アウェイでベストメンバのワールドカップの準備を狙っていたチームにきっちり行う事ができた。しかも、この日の日本は、小野のスルーパスも(フルタイム出場はしていたが早めにリードした事もあり、無理はしていなかった)、中村のセットプレイも、森島の飛び出しも、柳沢の素早い挙動も(小笠原も三都州もと言うとキリがないが)使用せずに勝ってしまった(その分、攻撃の多彩さが欠けた訳だが、文句を言う筋合いではなかろう)。つまり、日本としては力半分でそのような成果を出せたとも言える。
もちろん「完璧な守備」と言っても、わずかなほころびがあったのも事実。後半30分ごろ、敵FWにフリーのヘディングシュートを許した場面(川口好捕)は、中田浩の集中力欠如が要因。前半たびたび宮本が敵の前進に身体を寄せつつもウラをつかれたのは、宮本自身の守備能力の問題。こう言った問題は、チームと言うよりは選手の個人的能力の問題であり(特にディフェンダにとって、集中が90分間継続するかどうかは、もっとも重要な個人能力である)、個々の選手の成長に期待するしかない。
私はかつてこの2人について、「知的ではあるが、守備者としての基本能力に欠ける」と厳しい評価をしてきた。しかし、彼らに謝罪をしなければならない嬉しい時期が刻一刻と近づいているように思える。だからこそ、これらの問題も解決し、できるだけ早急なタイミングで謝罪(と感謝)を行わせて欲しい。
またポーランド戦には、服部、森岡と言う最も信頼性の高いディフェンダが2枚欠けていた。本大会に向けて、一層守備を完璧にするための伸び代は残されているとも言えよう。
ベルギーはポーランド以上に守備が固く、決して容易には崩せないだろう。ロシアの中心選手の技巧はポーランド以上に高く、単純な個人能力から決定的なピンチを招く事があるかもしれない。異様に楽観視されているチュニジアも、全体的な技巧とパスワークはポーランドより高いから、プレスを巧く外されるかもしれない。
しかし、この三国相手ならば、ポーランド戦で用いなかった強力な攻撃兵器の使用と、森岡と服部の復帰で、いずれも互角以上に戦えるだろう。決して楽観はしないが、決勝トーナメント進出の可能性は、相当高いと思う。
問題はそれ以降である。
究極の目標であるベスト4を目指そうと言うならば、アルゼンチン、フランス、ブラジル、イングランドのどれかを粉砕する必要があろう。これらの国には偶然で勝つのはほとんど困難である(余談ながら、こうして見ると、韓国の方が日本よりよい組み合わせにあるとも思えてくる)。
シュケルもストイチコフも釜本もいない我々は、これらの最強国を破るためにはどうしたらよいか。私は、短い時間帯でよいから(例えば後半30分以降の15分間だけでも)、これらの最強国以上の素早く変化に富んだ技巧あふれるパスワークで、敵DFを崩すような布陣を組む事だと思う。ポーランド戦で見せた守備と中盤の制圧を、一層高い技巧レヴェルで行うのだ。
「そんな事は不可能だ」
とおっしゃる向きが多いかもしれない。私はそうは思わない。既にトルシェ氏はそのような技巧的なチームの原型を、我々に見せてくれたではないか。
そう、アジアカップである。
繰り返そう、現在のバランスが取れたチームに、アジアカップで全アジアを驚かせた、素早く変化に富んだ技巧あふれるパスワークを加えるのだ。そのためには、何が必要か。
名波浩である。
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