● 小笠原、推参
−ウクライナ戦−
2002.03.26

     

 センタサークル付近で、小笠原が敵からボールを奪う。体制を崩しながらも持ちこたえ、立ち上がるや否やスルーパス。柳沢十八番の素早い動き出しにピタリ合う。そして、GKの逆を見事についたシュートが僅かにゴールを外れた(これまた柳沢十八番)。
このスルーパスを見ただけで、この日わざわざ大阪まで出かけた甲斐は十分あった。

豊富極まりない人材を抱えるトルシェ氏は、(いつもの事だが)それには満足できないと次々に新たな選手を起用した。
三都州(初代表)、福西(新顔とは言えまいが定着はしていない)、市川(なんと岡田氏時代の韓国戦での鮮烈なデビュー依頼)、さらに一昨年は完全にトルシェジャパンの中核として機能していた中村は、「サンドゥニの惨劇」以来久々の登場。中村に「テスト」と言うのは失礼な気もするが、これだけ久し振りならば、「テスト」と呼ばざるを得ないだろう。そして、遂に後半からは、小笠原も初代表を経験した。
小笠原以外の四人は四人とも、そこそこのプレイを見せてくれた。しかし、四人ともJリーグのトッププレイヤである事を考慮すれば、相応のレヴェルのプレイを見せてくれる事はわかりきった事。残念ながら、四人とも既存の選手を外しても再起用されるべしとまでのアピールとしては不十分だった。しかし、小笠原はその能力の片鱗を明確にアピールするのに成功した。

1.三都主

       三都州は、単独突破についてはそこそこの出来だったが、Jリーグでしばしば見せる快刀乱麻のドリブルワークは見せてくれなかった(まあこの相手なら仕方がないか)。むしろ、パスの名手(つまり中村なり小笠原)と同時に使って欲しかった。エスパルスにはない高精度パス(と言うと、澤登ファンは憤慨するだろうが)で一段高いレヴェルのプレイを見せてくれる事を期待していたのだが。中村と小笠原が登場したとき、三都州は既にベンチに退いていた。
 もっとも、翌日のスポーツ紙には「三都州合格」的な見出しが躍っていたようだ。私には、何が合格なのかがよくわからなかった。三都州のポテンシャルはもっと高いはずであり、あの日のプレイ程度で満足されては困るし、あれなら従来の選手で十分である。もっとも、日本代表にも推薦合格の制度があり、とにもかくにも帰化して日本代表に出てしまったから、二度とセレソンの機会がなくなったと言う意味ならば別だが。


2.福西と市川

       また福西と市川は、この時期に同時に試した事自体が疑問に思えた。既に彼らのポジションには、稲本、名波、戸田、明神、伊東、波戸がいる。無論、名波、伊東の負傷回復が6月に間に合わない可能性もあり、福西、市川のテストそのものは意味がある。しかし、現在レギュラとは言えない2人を同時に(しかもこの時期に)テストすると、結局お互いの持ち味を出し切れなくなってしまうリスクを、トルシェ氏は考えなかったのだろう。福西を試すならば、戸田と波戸(または明神)とを併用すべきだったし、市川を試すならば戸田と明神(稲本がいないからだが)を並べるべきだった。
 何かしら、周囲と合わないまま、2人は自分のアピールをしようとして、目立たなくなっていったように思えてならない。


3.中村

       中村の逆サイドの市川へ出したミリメータパスはしびれたね。
しかし、守備で破綻するのを恐れたためか、もっとも期待される攻撃参加の頻度は少なかった。焦る気持ちは手に取るようにわかった。終盤、右サイドからのFK、敵DFがかろうじてヘディングでクリアしたボールを、副審がミスジャッジしてゴールキックと判定したときの悔しそうな表情。コーナキックを蹴り、結果を何としても出したかっただろう。私も出して欲しかった。
 しかし、中村にとって情勢は極めて厳しい。今の代表チームは、一昨年中村がいた時のチームではなくなってしまった。中村が左サイドから高頻度で競り上がるためには、名波と服部の知的な後方カバーリングと、逆サイドの明神(シドニー五輪では酒井)のやはり知的な絞込みが必要だった。それは、戸田、中田浩、波戸(市川でも同様)に望むのは難しい仕事だ。戸田は名波のように「存在する事」で敵に脅威を与え、前がかりを防ぐ事はできない。波戸の妙味は上下動であり、中央への絞込みの位置取りの巧みさを期待はできない。中田浩は後方で中村の守備をカバーするほど、守備能力は高くない。この日も、(日本から見て)右サイドを崩され、クロスを上げられた場面で、敵右ウィングについて必死に戻った中村が敢え無くかわされた直後、さらに中田浩まで抜かれ、決定機を作られた場面があった。あれでは必死に戻った中村が浮かばれない。
 この日の終盤、市川(または波戸)を完全にDFラインに下げ、オーソドックスな4−4−2として、攻撃的MFに中村と小笠原(従来この2人が公式戦で並んだ記憶はない)の並べたサッカーを見たかった(もっともその場合、戸田と中田浩の場所も取り替えたかったが)のは私だけだろうか。そのようなポジションならば、中村も窮屈感なしに得意のプレイに専念できるだろう。
正直言って、名波、服部の復帰がままならず、トルシェ氏がトップ下に起用する気がないならば、誠に残念ながら中村の「23人の道」も厳しいものがあると思う。そして、この日、トップ下にはまた新たな強力なライヴァルが登場したのである。


4.小笠原

     

 そう、小笠原である。
 中田は、強力なフィジカルを利したドリブルでタイミングを計り、大きなスウィングで誰も予期していないスペースに完璧なラストパスを通す。
 小野は敵をいなしながら時に微妙なターンを交え、突然目にも止まらぬスピードのインサイドキックで完璧なラストパスを通す。
 名波は悠然と味方とつなぎを続けながら自らの右方向に敵全体を引き付け、突然に身体を開き、逆方向に(つまり自らの左方向)完璧なラストパスを通す。
中村は細かなステップワークを重ね自らの左方向に敵全体を引き付け、突然に身体を鋭角に捻り、逆方向に(つまり自らの右方向)完璧なラストパスを通す。
 小笠原のラストパスは、彼ら4人のそれとはまた異種のもの。彼ら4人のラストパスは、極端な言い方をすれば、蹴った瞬間(というか直後)に、見慣れた私は、
「彼は狙っている」
と言う実感を感じる事ができる。敵のセンターバックも
「やられた!」
と思いながら、パスの受け手のお尻を追いかけ、GKまたは神に運をゆだねるか、カードとPK覚悟のプレイに出るかの選択を瞬時にしなければならない。
 しかし、小笠原のラストパスは、あくまでも自然体から出てきて急所をえぐる。従い、私も敵センターバックも、さらに反応が遅れる。
 この日の柳沢へのラストパスはその典型例。転倒未遂から立ち直るのと同時に、何気ないそぶりで前方へキック。しかし、ボールは柳沢の全力疾走に吸い付くように接近し(見ている私の驚きと歓喜はどんどん増していき)、最後に手品のようにドッキングした。これでゴールが決まっていたら、最高の歓喜に至るのだけど、まあ実に柳沢らしいプレイと言う事で。
 他の4人のラストパスは蹴られた瞬間に急所を突かれた事がわかるが、小笠原のラストパスの真意は一拍おいてその狙いが判明する。むしろ、その遅延までが狙いに含まれているのだろう。
 小笠原の長所はその独特のパスセンスのみではない。もちろん、この日も見せてくれた中央突破のドリブルも素晴らしいし、たびたび国内のビッグゲームを決めてしまったフリーキックも美しい。しかし、私が代表で彼に最も期待するのは、散々アントラーズで今まで見せてくれた何とも言えない見事な駆け引きである。例えば、柳沢へのラストパス直前の転倒未遂。どう考えても、あれはワザと行ったのでないかと思えてならない、結果としてウクライナDFにはフェイントになった。かく言う私も、一瞬その転倒に気を取られ柳沢の動き出しに気がつくのが遅れてしまった。
 誤解して欲しくないが、私は小笠原が中田、小野、名波、中村より優れているなどと言う気は毛頭ない。小笠原には他の4人と違う切り口のラストパスを出す能力がある事、そして豊富なミッドフィールドのファンタジスタ集団にまた新たなスタイルの戦闘士が加わった事を喜んでいるのである。

 かくして私は幸せである。
 しかし、トルシェ氏は本当に幸せなのだろうか。テストを繰り返し、それぞれが好プレイを見せるたびに選択肢は広がっていく。これが1年前だったら結構な事だろう。しかし、6月までは後わずかな時間しかない。
氏は同時には11人しか使えない。交替要員を入れても、14人。トルシェ氏はポーランド戦のメンバに加え、負傷回復途上の名波、服部、森岡、伊東を持つ。よりどりみどりと言えば聞こえはよいが、この激しいバトルに小笠原までが参入したのである。残り十試合足らずの準備試合で、氏はどのようにチームをまとめていくのか、不安半分だが興味は尽きない。
 ウクライナ戦も、多くの選手が何とかアピールしようと、空回りしどうしてもチームが落ち着かなくなる傾向があった。果たして、ポーランド戦、氏はどの11人をフィールドに立てるのだろうか。

 このあたりは講釈し始めるとキリがないので、別にまとめたい...と思っているのですが、時間がないのです。テレビで「後X日」との報道を目にするたびにドキドキする毎日です。
 まあ、まずはポーランド戦を見てから見てから。


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