● フィリップ、もう大丈夫だよね
   −カメルーン戦−
2001.06.03

1.史上最高の後半

     

 この日の日本代表のパフォーマンス、特に後半のパフォーマンスは、紛れもなく史上最高のものだった。
92年のアジアカップ決勝のサウジ戦、93年のワールドカップ予選の韓国戦、96年のキリンカップのメキシコ戦、あのジョホールバル、98年キリンカップのチェコ戦(これは引き分け)、(ワールドカップのアルゼンチン戦も加えたいが負けたしね)、00年シドニー五輪でのスロバキア戦(おっとA代表戦ではなかった)、00年アジアカップのサウジ戦とウズベク戦。これらの歴史的な勝利と比較しても遜色ない。しかも、本気で勝とうとしていた世界屈指の強豪であるカメルーンを公式戦で完璧に圧倒したのだから。
 カナダ戦と併せ、新潟に行かなかった事が、本当に後悔させられる。ここまで、見事な試合を見せられると、(スペイン代表が大事な試合を、全てゲンのよいセビリアで行ったのと同様に)「代表の重要な試合は全てビッグスワンで行うべし」と牛木素吉郎先生が言い始めたりして(牛木氏が新潟出身なのは、皆知ってるよね)。

 カメルーンは後半、特に2−0になった以降は、ほとんど抵抗らしい抵抗ができなくなってしまった。日本の前線、中盤からのプレッシングが殆ど完璧に決まり、まともなボールがまったく前線に出せなくなったからである。これほど統率が取れた組織的な守備の継続はそうは見られない。そして、カナダ戦同様、終盤のボールキープ、スローテンポ化も見事なもの。
 もちろん、気候条件、生活環境、熱狂的な応援と「ホームの有利さ」が、この素晴らしいパフォーマンスを支えた事は確かだ。これだけの見事なバランスを、果たして「アウェイ」なり「中立地」で、できるかどうかはわからない。しかし、まずは準備のよい状態で、よいプレイをできる事が重要なのだ。これだけのレヴェルのプレイができたと言う事実を、まずは喜ぼう。
 左サイドに小野、右サイドに明神の起用は、ようやくトルシェ氏が錯乱から完全に開放され、本来の「超攻撃モード」を思い出したことがよくわかった。この日のスタメンは、昨年のアジアカップベースのものに戻ったのだ。不在の名波に替えて稲本を「上がり目ボランチ」に、高原に替えて鈴木、中村に替えて小野。森島の位置にはエース中田。フランス戦、スペイン戦と回り道をしたが、日本代表の強化はまた順調に進み始めたのだ。

 また、この日のゴールが、カナダ戦とはまた異なるパタンだったのが嬉しいところ。
1点目は、見事な速攻。明神−松田−森岡−中田浩の非常に素早く見事なサイド切り替えで、DFラインで最も正確なフィードが出せる中田浩にスペースを作った所で勝負あり。中田浩のロングパスの強さと精度は本当に見事だったし、鈴木のトラップから強シュートまでの流れには、往時の釜本を思い出した。
2点目は、所謂森島パタン。家来の西沢の献身的強力を得て、鈴木がとどめを刺した。森島パタンは、ブラックアフリカの雄にも通用するのだ!!!森島のセンタリングがDFに当たり方向が変わりソングォの読みが外れ鈴木がフリーでヘッドができた事とGKのミスは確かに幸運だった。しかし、一方で森島の粘りは当然としても、西沢、鈴木の二人のフィジカル能力がカメルーンに通用したのだから痛快極まりない。


2. 森岡と明神

     

 カナダ戦と比較して、守備面が明らかに改善されていたが、その要因は、森岡の(僅か2日間での)成長と、明神の復活だろう。

 森岡は、シドニーやレバノンで、松田や宮本に替わって中央のDFを勤めたことが再三あった。しかし、シドニーでは、ライヴァルの二人が不振を極めていたための起用と言う雰囲気が濃厚だった。事実松田が復調してきたレバノンでは、松田が試合に出られる時は、右DFで起用されていた。
 しかし、スペイン戦以降の中央での起用は、全く雰囲気が異なっている。フランス戦で松田は守備の中核足り得ないことが証明されたからだ。従い、森岡は中央のDFとして、完全に守備ラインの中心として機能することが要求され始めた。つまり、スペイン戦以降の中央での起用は、過去の緊急避難的措置ではなくなったのだ。
 スペイン戦にせよ、カナダ戦にせよ、森岡の出来は悪くなかった。従来のように「フラット」に拘泥することなく、必要に応じて深めのラインを構成し、よく守備ラインを統率した。しかし、スペイン戦ではムニティスの右からの突破には何ら有効な対処を見出せなかったし、カナダ戦では単純な逆サイドへのクロスを捕まえ損ね再三ピンチを招いた。
 しかし、この日の森岡は素晴らしかった。元々この選手は必ずしも、守備の1対1は強くない。おそらく、フィジカル能力を誇るカメルーン相手に開き直ったのだろう。まともに1対1で正対する場面を作っては勝ち目がないので、決然と敵の突破を読み、早めの勝負に出ていた。決断が早ければ、両サイドの中田浩と松田もサポートがしやすく、3DFは前半立ち上がりに松田が敵FWに完全にヘディングを取られた場面と、前半半ばに戸田が壊れて動けなくなった場面以外は、崩れる事はなかった。
 この開き直りを、ブラックアフリカが相手の時以外でも試みて欲しい。フランコ・バレシだって、決してフィジカルに恵まれていた訳では、なかったのだから。

 一方、明神の復帰は当然と言えば、あまりに当然過ぎることである。「サンドゥニの惨劇」では、彼自身もその立役者になってしまったが、その要因は本人ではなく、トルシェ氏のいい加減な采配にあった。従って、スペイン戦でもカナダ戦でも、スタメンから外された事そのものが不当だったのだ。
 カナダ戦、交替出場後の守備の安定振りと右サイドからの安定した押し上げにより、明神が日本代表に必要不可欠な人材である事は、誰の目にも明らかになった。
 伊東も波戸もよい選手だ。しかし、この2人は右サイドでの起用を検討される場合、今の日本ではバックアップに過ぎない。


3.25分間、小野の君臨

       中田と森島が交替した60分から、小野と服部が交替した85分までの25分間は、完璧な試合振りだった日本代表の戦いとは別な要素も、記憶に残るものとなった。
 小野が、初めて日本代表の全権を把握した試合(時間帯)だったのだ。森島、鈴木、西沢(途中から中山)のチェイシングと、稲本、明神の高速展開を受け、左サイドから悠然と小野が進出し、起点となり、ラストパスを狙う。セットプレイも全て仕切る。高質な知的労働者の支援を受け、フィールド全体での小野の君臨振りは実に見事だった。
 中田の肉体の強さを活かした個人技と、味方との連携により敵陣にスペースを作り狙う能力は、現状の小野を凌駕する。名波の展開の速さと広さと変化も、現状の小野には望めない。中村のラストパスの精度も、現状の小野を上回るだろう。
 しかし、小野にはこの3人にはない、雰囲気めいたものを感じるのだ。独特のスローテンポなリズムのせいだろうか。この3人、特に中田、中村とは、年齢が近い事を考慮すると、小野が一人で日本代表の中盤を仕切る状況はそうないように思える。今後も相当な期間に渡り、彼らとの組み合わせによる夢のような相互作用を愉しむ事になるののだろう。だからこそ、非常に珍しい、この25分間の小野ワールドをしっかりと記憶に留めて置きたいのだ。
 それにしても、この4人を同時にフィールドで使って欲しい。「超攻撃的トルシェ」なら、何か工夫してくれるのではないか。もっとも、私の場合は贅沢で、この4人のみならず、明神も稲本も森島も同時に使いたくなるので、なかなか11人に納まらないのが問題なのであるが。


4.尊大にブラジル戦を待つ

       それにしても、これほど気持ちのよい星取表はない。日本−カメルーン戦終了時点で、準決勝進出を決めたのは、日本だけなのだから。
 大会を盛り上げるためにも、決勝でフランスに先日の復讐戦を挑むべし。そのためには、まず3日のBグループの結果をじっくり待ち、フランスと豪州のどちらが1位になるかを見極めてから、ブラジル戦にどう望むか考えよう。もし、豪州が1位で来るようだったら、ブラジルにわざと負けて2位になればよいのだから。


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