● 落ち着けフィリップ 2001.04.23

 スペイン戦を前に私は不安であり、残念である。 トルシェ氏が、母国との大敗に錯乱し、 日本代表監督就任以来最大の戦略的判断ミスを行っているように思えるからだ。

 過去、トルシェ氏は何度か非常に大きな戦術的なミスを行ってきた。
例えば、コパアメリカの惨劇であり、シドニー五輪のメンバ選考である。 前者により次回以降の招待権を失い、後者により五輪でのメダルと言う実質的名誉を獲得できなかった。
しかし、それらのミスは、失うものは大きかったが、
「2002年に向けて強いチームを作る」 と言うトルシェ氏に与えられたミッションを阻害するものではなかった。

 しかし、私は危惧する。 スペイン戦に向けてのメンバ編成やマスコミを通じて聞こえてくる氏の発言に非常に危ないものを感じるのだ。そのミッションの成功に向けて、氏が2年以上をかけて、 丹念に築き上げてきた素晴らしいチームを、氏自らが壊してしまいそうに思えるのだ。

 断言しよう。スペイン戦は昨年来のチーム構成で臨むべきだった。 具体的に言うと、中村と明神を両サイドに起用したメンバである。

 本稿では、フランス戦を分析しながら、その理由を論じていく。


サンドゥニの惨劇を振り返る

 ■1. 過去の大敗

     

 ともあれ、まず冒頭に謝罪します。 レバノンの皆様、大変失礼いたしました。 もし前回の拙稿「2002年日本は勝てないのではないか」をお読みいただいたレバノン国籍の方がいたら、 連絡下さい。別途、直接メールで謝罪します。

 とにかく腹が立ち、悲しく、ショッキングな90分間だった。まあ、そこはそこ。 ただの親善試合なのだし、長い歴史の中にはそんな試合もあると思おうではないか。 それにしても. . . と言う愚痴は後から。

 大体、日本が5点差をつけられた試合など、思い出そうとしても思い出せない。 記憶で引っかからないので記録(JFAニュース00年12月号別冊「20世紀の日本代表」 を使用した)を調べてみた。

  ■1.1 大昔まで遡って

     

 公式戦では、なんと68年のメキシコオリンピックの準決勝ハンガリー戦に遡るようだ。 これは日本協会の記録によると、A代表マッチになっていない。 しかし、当時の東ヨーロッパ諸国は、オリンピックに事実上のA代表 (いわゆるステートアマ)を派遣していた事から考えると、 Aマッチと言えなくもないように思える。 また60年代、ハンガリーは欧州屈指のサッカー強国でもあった。 別にメキシコ五輪銅メダルの価値を低く見る気持ちはないが、ハンガリー戦以外の試合は、 いずれも相手が各国のプロになっていない若者チーム(今の日本で言えば大学選抜あたりだろう) との対戦だった。「本物の代表クラス」と闘えたのは、 このハンガリー戦だけであり、その試合は完膚無きままに叩きのめされたのだ。

 そしてAマッチとなると. . . 36年(西暦です、昭和11年とも言います)のベルリンオリンピック。 「ベルリンの奇跡」でスウェーデンを破った次の試合、イタリアに0-8で敗れている。 ただし、戦前のためか、Aマッチと言う明確な記録はされていない。 しかし、スウェーデンにしろ、イタリアにしろ、ほとんどA代表と言って間違いないチームだったと言う。 そう言う意味では、この「ベルリンの奇跡」は、 欧州の強豪スウェーデンを破った訳であり、日本サッカー史においては、 メキシコ五輪以上の金字塔と考えるべきだと思う(ただし、チームの中軸には、 当時日本の領土だった朝鮮半島出身選手がいた事も忘れてはならないが)。

 ちなみに60年代以前よりサッカー観戦を愉しんでいる友人(と言うより大先輩) に聞いた事がある。
「90年代になってアジア予選を当たり前のように突破できるようになるまでは、 いつも『メキシコ五輪の好成績』を当時の関係者が自慢していただろ。でも、 メキシコの銅メダル前は、いつでも『ベルリンの奇跡』の関係者の自慢話が. . . 」

 その他に練習試合としてやや(あくまでも「やや」ですが)最近の例として、 77年2月、アルゼンチンワールドカップ1次予選前の欧州遠征で、 当時の世界最強クラブチームの一つだったボルシアMGに、0-5で敗れている。 この頃は、そのようなチームと敵地で試合をしてもらえる事が大ニュースになるような時代で、 大敗そのものも全く気にならなかった。主将の釜本が、 ボルシアMGの主将のフォクツ(私が最も尊敬する選手だが、 最近のファンにはドイツ代表の監督として有名か) とにこやかに試合前の握手をしているサッカーマガジンの写真が妙に記憶に残っている。

 考え方次第だが、今回の5点差の惨敗は、日本サッカー史上初めての事とも言える。 つまり、トルシェ氏と我々の若者たちは歴史を作ったのである。

 冗談はさておき、これらの歴史的大敗と今回のフランス戦を全く同一視する訳にはいかない。 現在の日本代表は、約30年の年月をかけて作り上げられた若年層の育成プログラムの成功により、 かつてないほど良質なタレントを抱えているのだ。 つまり、ベルリン五輪の川本泰三氏を軸にしたチーム、 メキシコ五輪の釜本邦茂氏を軸にしたチームと異なり、戦闘能力は格段に高いのだから。

  ■1.2 最近の大敗

     

 一方5点差まで開かないにせよ、日本代表の戦闘能力が、 他国と比較して相対的に圧倒的に高まった90年代以降の大敗の歴史を見てみよう。
94年のキリンカップのフランス戦(1-4)、 95年のインタコンチネンタルカップのアルゼンチン戦(1-5)、 同じく95年の東京でのブラジル戦(1-5)、 そして99年のコパアメリカのパラグアイ戦(0-4)などが思い出される。

 フランス戦、アルゼンチン戦、パラグアイ戦に共通するのは、 監督が就任して比較的時間がなくチームがまだ完成してない状態だった事である。 ただし、パラグアイ戦に関しては監督就任後半年以上の時間が経っていたわけだし、 その前のペルー戦で八面六臂の大活躍をした井原を外したと言う監督の愚策による大敗である事は、 ここで明言しておこう。

 またブラジルの大敗に関しては、 ラモスの引退試合と言うA代表ゲームとしては不可解な花相撲だった (と言うわけで、キリンカップでユーゴ協会にストイコビッチの招聘を要求する事そのものが、 キリンカップの権威を貶める恐れがあると懸念しているのだが)。

 つまり、最近のこれらの大敗は、監督に何がしかの「言い訳の余地」は残されていた訳だ。 つまり今回の大敗と異なり、監督がベストのチームを選択する余裕ができなかった試合なのである (もっとも、それでも帳尻を合わせるのがプロフェッショナルではないかと思うが)。

 ところが今回のサンドゥニの惨劇は、トルシェ氏も就任して約2年半、 昨年のアジアカップの準完全制覇を含め、十分にチーム作りが進んでいるタイミングでの敗戦である。

  ■1.3 過去との違い

     

 こう言った事をくどくどと考慮すれば、相手がいくら現世界チャンピオン兼欧州チャンピオンだろうとも、 本腰で勝ちを狙ってこようとも、当方に時差ぼけがあろうとも、 シーズン開幕当初でフィジカルがフィットしてなかろうとも、 不慣れな重馬場であろうとも、監督の作戦が不適切だろうとも、 あそこまでやられてよい道理は一切ないはずである。まして、 これが「世界との差」などとしたり顔で論ずる人間の気が知れない。

 私だって「世界屈指の強国のホームなのだから仕方がない」、 「来年に向けてよい経験だった」と思う。しかし、 過去の惨敗時とは比較にならないくらいよい状況での試合だったのだ。 「もう少し帳尻を合わせてくれてもよかったのではないかい」とも言いたくなる。 だから、悔しかった。約一ヶ月経ち、 ようやく冷静な気持ちであの惨敗を振り返る精神的余裕が出てきたくらいだ。

 余談ながら、これらの記録を調べて一つだけ嬉しかった事がある。 私が真剣にサッカーを見始めた70年代の日本代表の戦闘能力は、 アジアの中でも情けない程低かった。しかし、そのような時期でも、 イスラエル(70年代はアジア連盟に加盟していた)、韓国、 イランなどの強国に敗れるにせよ、せいぜい2〜3点差がほとんど。 その頃でも日本代表は(今日とは比較できないほどレベルは低かったかもしれないが)、 そこそこの肉体能力と90分間闘いぬく精神力は具備していた。 従って、当時のアジアの列強たちも、 そう簡単に日本に対して相当の点数差をつける事は容易ではなかったのである。このような歴史の再発見は、 最近の代表チームの強さとは別な意味での誇りを私に持たせてくれる。

 ■2. 松田と楢崎

     

 では、何故あそこまで惨敗したのかを少し振り返ってみよう。

 直接の要因は議論の余地がない。あれだけの大差になったのは、 松田と楢崎の極めて凡庸なプレイで、試合そのものが壊れてしまったからだ。 一部マスコミに掲載されている最近はやりの選手の10点評価は不思議だ。 森岡や稲本が3点とすれば、松田、楢崎は、0点か1点であるべきだろう。

 それにしても、もう松田には勘弁して欲しい。あの場面、 あれだけピレスをはっきりと手で止めて、見逃してもらえると思ったのだろうか。しかも、 自分を含めてペナルティエリアには充分に人数は足りており、 ピレスの体勢も決してよいものではなかった。落ち着いて正対すればよかったではないか。 一体あそこでホールディングをして、何の得があるのだろうか。 一部のマスコミが「あのPK提供には同情の余地がある」と記載していたが、 一体どのような同情の余地がある のだろうか。

 下手なのは仕方が無いが、頭が悪いのはどうしようもない。ややこしいのは、 松田は戦術的には決して頭が悪いプレイをする訳ではない。敵の攻撃に対する読み、 ツボにはまった時の攻撃参加など、知的なプレイをしばしば見せてくれる。

 しかし、全体の状況把握がなっていない。2002年地元大会に向けた大事な準備試合、 世界チャンピオンにアウェイで挑戦する自分たちの実力を世界に訴求できる格好の機会、 序盤を大事に乗り切る事がいかに肝要か。しかし、松田にとっては、 それよりも、一瞬目の前に到来したピレスを審判の見逃しと言う偶然に頼って止める事が大事だったのだ。 松田は戦術的な能力は高いが、戦略的な能力は極めて低いのだ。この男には、大局観がないのだ。

 93年、日本で開催されたワールドジュニアユース、その時以来、 本当にこの選手に期待してきて裏切られてきた。そろそろ、あきらめた方がよいのだろうか 。

 過去約20年間、日本はセンターバックに困った事はなかった。 加藤久と井原がいたからである。残念ながら、その後継の本命と目された松田は、 このフランス戦のあの間抜けなファールによって、 彼ら偉大なセンターバックの後継たり得ない事を証明してしまった。

 トルシェ氏もつらいところである。後継候補が思いつかないのだから。 しかも、猛一人の候補である森岡は、この日持ち前の球際の弱さが目立った。やはり、 松田しか思い当たらないのである。 井原の反転能力を近年発達しているスポーツ医学の力で蘇らせる事はできないのだろうか、 と本気で思いたくなる。

 楢崎のミスは、どう議論すればよいのだろうか。彼は、川口のように大当たりもしないが、 堅実で安定している点を評価され、A代表の座を確保している選手である。 しかし、この重要な試合で、完全に自分自身の特長を否定するようなプレイをしてしまった。 しかもあのファンブルは、精神的なミスではなく、技術的なミスである。 「アンリのシュートが鋭く、欧州のトップレベルとの経験不足を露呈した」 などとのアホな論評の問題ではない。枠にもいかない低いボールの処理を誤っただけであり、 あの程度のシュートなりクロスはJリーグでも普通のも のだ。

 トルシェ氏もさすがに困ったのだろう。スペイン戦へのプレッシャを少しでも少なくするために、 川口を合宿から外すなど姑息な手段を取って、精神的な立ち直りを促したいのだろう。

 スペイン戦は、楢崎の選手人生を左右する重要な試合となる。信用回復には実績以外にない。 スペイン戦にに凡庸なプレイを見せれば、 コンフェデレーションカップの日本のゴールは川口が担当する事になり、 再びチャンスが来る事はないかもしれない。 楢崎がそのくらいのプレッシャを己にかけ、好プレイを見せてくれる事を切に期待したい。

 ■3. フランス戦メンバ編成の疑問

  ■3.1 スタメンの疑問

     

 日本代表のベストメンバは昨年のアジアカップで、エースの中田不在の場合は固まっていた。つまり、
GK(楢崎が第一GKだが負傷でアジアカップは川口)-森岡、松田、服部-明神、 稲本、名波、中村、森島-高原、西沢である。

 フランス戦前のスタメン予想は大体以下の通りだった。森島が負傷で招集されていないから、 エースの中田がそのまま入るのだろう。世界屈指の強豪との対戦である、 中盤を厚くするために、2トップのどちらかを外して、小野か中村がトップ下に入るかもしれない。 中村が前に出るならば、Jリーグで成長著しい中田(浩)が左DFか左MFに入る. . . と言うあたりが、(私の)常識的な予想だった。 これらの組合せは、トルシェ氏が2年をかけて作り上げたベストメンバを基軸としており、 どのような組合せになっても、従来のチーム作りの延長線上となる。

 ところが、私はTVで紹介された先発メンバを見て混乱した。中盤に伊東がいる。 でも明神もいる。いったいどう並べるのだろう。で、想像したのは、 4DFで明神をライトバックにおいて、左右に中村と伊東を配した、4-4-2なのかと思った。 そうか、年末の日韓戦も終盤4DFを採用した。 いよいよトルシェも色々な守備体系を採用するようになったのか、と思ったのである。
しかし、映像を見ると、そうではない。 明神は右サイド前方に張り出すアジアカップと同じポジション。では、伊東はと見ると、 明神と稲本の間に窮屈そうにしている。 伊東と明神がお互いに遠慮しながら右サイドでゴチャゴチャする割には、 対面のデュガリーの球離れが早いから、2人が同時に存在意義を失い、逆サイドで中村が、 カンデラとピレスの対応に四苦八苦。

 もともとゾーンの3DFはワントップへの対応を苦手としているが、 せめて中盤でのプレスが巧く決まれば、押し上げとカバーリングの切り替えも何とかなる。 しかし、あれだけMFで混乱してしまえば、どうしようもない。この選手配置は、 明らかにトルシェ氏の采配ミスであり、 前半ミッドフィールドであそこまで劣勢となる最大要因となった。

 プレスが決まらなければ、DFラインが3人だろうが4人だろうが、 簡単にウラを取られてしまう。あの惨劇の守備崩壊の要因は、DFラインの人数ではない 。

 立上りに信じ難い2失点を食らい、中盤での不適切なポジション配置に混乱し、 余裕を持って速攻をしかけるジダンに悩みつつも、名波と中田を軸に少しづつ日本は修正を続ける。 中村と伊東を前掛りにして(これはいずれも名波の適切な指示によるものに思えた)日本も次第に落ち着いてくる。

 中田のバーに当たったシュートは、 フランスのミスから生まれたやや偶然に助けられたチャンスだった。しかし、ロスタイム、 右サイドの中田から伊東、中村、服部、稲本と巧みにつなぎ、 最後は左サイドで名波がフリーとなり、狙いすまして中田に合せようとしたが、 僅かに合わず、逸機。この見事なパスワークは日本独特の素早いものだった。 このような美しくも効果的な攻め込みの頻度をいかに上げるか、後半が愉しみになった場面だった。

 したがって後半は、前半終盤のよい流れを引き継いで闘うので良かったはずだ。 それには、いくつかの手段が考えられる。ようやく前半の終盤によい攻めができたのだから、 中盤で位置関係がはっきりしていない伊東と明神を交通整理して、 そのままのメンバで望むもよし。アジアカップ時のベストに近づけるために、 上記した昨年ベースの布陣に戻すも良し。残念ながら2点差をひっくり返すのは難しかろうが、 気分を取り戻し、後半しっかり守りつつゴールを目指すのは十分に可能だと思えたのである。

  ■3.2 信じ難いメンバ交替

     

 ところが、トルシェ氏はあろう事か、中村と明神を外してしまった。

 確かに中村は再三ピレスやカンデラに振り回されていた。しかし、 それは逆サイドの守備の混乱のためである。しかも三浦の守備能力が中村以下である事は、 再三五輪で示されたではないか。MFのバランスが取れた状態で、 中村があの厳しいフランスのプレッシャを外して巧技を見せる事ができるか、 確認する必要はないのか。

 確かに明神は再三中途半端な位置取りで危機を招いていた。しかし、 それは伊東とのバランスが不明確だったためである。しかも、 トルシェジャパンの課題だった左右のアンバランスを解決したのは、 昨年明神が右サイドに定着した事だったではないか。 MFのバランスが取れた状態で、明神があの厳しいフランスのプレッシャを切り崩し、 名波や中田らのファンタジスタにスペースを作れるのか、確認する必要はないのか。

 しかも、この2人はトルシェジャパンの中軸であるのみならず、 昨シーズンは1年を通してコンスタントに活躍し、実質的な年間最優秀選手を争ったのである。 前途有為なこの2人が、世界チャンピオンに通用するかどうか、 僅か45分間で見切ってしまうのは理解できない、と言うかあまりにもったいなかった。

 後半は早々にCKから無様な失点を食らい、一層の凡戦となってしまった。 この失点時の守備は、昨年のアジアカップでも問題となっていたもの。 さらにその後の2失点は、伊東、三浦のサイドMFの攻めから守りへの切り替えが遅いのが要因だが、 これも昨年来再三見せられた光景であり、ある程度予想された事。 後半の45分間は、日本がチームとしての経験をほとんど積む事はなく、 単に出場選手がフランスの技巧と肉体と戦術能力を経験するに留まってしまった。

 ■4. スペイン戦はどう臨むべきなのか

  ■4.1 世界との差がまだわからない

     

 おさらいしよう。フランス戦の敗因は、以下の2点である。

    松田と楢崎の形容不能な大ミス
  • ベストメンバで臨まなかった采配ミス

 つまり、まだ現時点ではわからないのである。約2年の歳月をかけてトルシェ氏が作り上げ、 昨年アジアカップであれだけ猛威を揮った、攻撃的な日本代表チームが、 ワールドクラスでどの程度通用するのかどうかは。確認前に馬鹿げたミスで2失点してしまい、 さらにベスト構成のMFでまともに戦っていないのだから。
ベストメンバを組んでやられたのならば仕方が無いし、今後の対応を検討できる。 しかし、そうではない。日本が自滅しただけなのだ。

 とすれば、スペイン戦の狙いは明らかなはずだ。中村、 明神をサイドMFにした昨年の好調時のチームで、スペインに挑戦し、 どこまで通用するかを確認すべきだったのである。その上で、 その布陣が厳しいと言うならば、服部なり中田浩なりを左サイドに起用し、 中村を前に上げる従来からあるオプションを試せばよかったのだ。 その際により守備能力が高い事が期待されるDFを試すのならば、 それは非常に興味深いトライとなるのだが。

  ■4.2 錯乱が止まらないトルシェ氏

     

 フランス戦、ベンチが大写しになる度に、トルシェ氏の表情が引きつっているのがよくわかった。 上記した中村と明神の交替など錯乱の現れだろう。

 氏の采配がおかしくなる時は、大きく分けて「淡白」になり何もできなくなるパタンと、 「錯乱」し訳のわからない交替を連続するパタンの2種類がある(詳しくは 「トルシェ氏をどう評価するか」をお読み下さい)。前者「淡白」の典型的な試合が、 五輪の合衆国戦である。

 そして、今回氏の母国での母国との対戦で、我々は「錯乱トルシェ」 を久しぶりに見る事ができた訳である。

 しかし、事態は深刻である。従来ならば、「錯乱トルシェ」は、試合が終わると 「信念の人」に戻り、再び丹念なアプローチでのチーム作りを行ってきた。 そして、昨年のアジアカップのあの魅力的な攻撃サッカーをするチームが完成したのである。

 ところが、今回はトルシェ氏に立ち直りが見られない。 サンドゥニの惨劇を引きずり錯乱状態のまま、スペイン戦の選手選考が行われてしまった。

 大体、フラット3と心中するが、選手を守備的なタレントに切り替える事で対応可能と言う説明が既に、 氏の「信念」から逸脱しているではないか。もし、 そのようなオプションがあるならば、五輪でもやればよかったではないか。 あの時は、そのようなタレントを豪州に連れて行かずに、自滅したのだから。しかし、 それはそれで一つの「信念」に思え、理解できないでもなかった。 合衆国戦にしたって、主審が驚天動地の判定さえしなければ、勝てたのだし。 それよりも2002年を見据えた強力なチーム作りに向け、 若い攻撃的タレントたちに経験を積ませるのは決して悪い事ではないからだ。

 しかし、母国での惨劇に動揺したトルシェ氏は、今後の展望を一切考えずに、 見かけの守備強化に走ってしまっている。

 余談になるが、今回のメンバ編成の問題は、 昨年のベストメンバをトライできないと言うだけではない。中村、森島、 小野がいない今回のメンバ構成では、 FWなり攻撃的MFでトルシェジャパンで実績を上げている選手は、中田、中山、 高原、西沢だけである。藤田も奥も久保も、確かにJリーグを代表する選手だが、 不思議にトルシェ氏のチームでは実績を上げていない。つまり、 今回のメンバは攻撃面でのオプションは非常に少ないのである。 新しいDFを連れて行くのは大いに結構だが、それで前線の中村や小野を外すのはよくわからない。

  ■4.3 スペイン戦の可能性

     

 報道で謳われている通り、サイドMFに守備的な選手を起用し5DF的にスペイン戦を戦ったとしよう。 結果の可能性としては、以下の3通りが考えられるが、 いずれになったとしても、トルシェ氏は次の一歩が非常に難しいものとなる。

  1. 3点差以上の大敗

     急遽守備的な布陣に切り替えて戦っての大敗は、チームとして一層の自信喪失につながってしまう。 今後、ワールドクラスの強豪と戦うときは、一層弱気の布陣で臨む事になってしまうだろう。 選手たちはそれでも立ち直る精神力を持っているかもしれないが、 果たして小心者のトルシェ氏はそれに耐えられるだろうか 。

     最悪、あの魅力的だった昨年の美しい日本代表は二度と編成されない恐れもある。 つまり、今回惨敗してしまうと、チームは益々混迷を極め、 完全に崩壊してしまう恐れさえあるのだ。トルシェ氏は、 丹念に作り上げてきたあの見事なチームを、自らの錯乱により、崩壊の危機に立たせているのである。

  2. 1、2点差の惜敗

     欧州、南米の強豪に対して、攻守のバランスを取られたチームを作れば、 そこそこ戦える事は、3年前に岡田氏が既に証明している。

     当時提起された課題は、はその状況下で得点を奪い、勝ちに行く事だった。 したがって、スペインに「トルシェ流守備的布陣」で検討したところで、 新しい発見はない事になる。

     とすれば改めて、強豪相手の攻撃を検討する事になる。 とすればコンフェデレーションカップで、再び「攻撃的なチームが通用するか確認する」 と言う作業を行う事になる。つまり、フランス戦は自信を喪失し、スペイン戦は自信を回復する、 と言う事にしか使用されなかった事になり、貴重な二試合を無駄に使用した事になるではないか。 だったら、スペイン戦から上記の通り、従来のチームが通用するかに挑戦すべきではないか。

  3. 勝点を奪う

     もちろん、大変嬉しい事だ。しかし、そうなれば今後チームはいじりづらくなる。 森島、中村、小野と言ったファンタジスタはあまり起用せずに、 リアリズムあるチームを目指す事になってしまうのではないか。 それはそれで構わないかもしれないが、そうだとするとトルシェ氏の築いてきたこの2年間は、 あまり意味の無いものとなってしまう。

     コンフェデレーションカップで従来のチームに戻すとしても、 この2試合が無駄なものになってしまうのは変わりがない。

     つまり、結果がどう出ても、次の一歩は非常に難しいものになってしまう。

     繰り返そう、無敵艦隊には昨年のチームをベースにして挑戦すべきだったのだ。 しかし、中村も小野も(仕方が無いが森島も)スペインには行かなかった。

     結局、フランス、スペインとの2試合は、 故郷に錦を飾り損ねたトルシェ氏の錯乱として記憶される事だろう。しかし、今回は惨敗だけは避けたい。 上記のように、ますますチームは混乱し、あの魅力的だった昨年のチームが本当に崩壊してしまうかもしれないからだ。

     つまり、何としても、今回はそこそこの成果を挙げてきて欲しい。 教え子に厳しい現実を教授したルメール氏と異なり、かつてのスペインの冷静な闘将カマーチョ氏は、 それほど本気で戦おうとしないかもしれない。その辺りに期待し、 中田と中山のホットラインが、 3年前ナントでのクロアチア戦で奪う事ができなかったゴールを期待する事にしようか。そうすれば、 少なくとも自信は回復される事だろう。その上で、この2試合は無駄になってしまったかもしれないが、 コンフェデレーションカップから再スタートを切ればよい。

    ただし、最後に確認しておこう。自信を回復する必要があるのは日本代表の選手ではない。

    そう、フィリップ、君なのである。


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