● トルシェ氏をどう評価するか (3) 2000.07.03

3. トルシェ氏の問題点

 ■3.1 コパアメリカの惨敗

     

 アウェイとは言えパラグアイに4点取られて負けるなど、 今の日本には許される事ではない。
現在、我々はアジアのトップ(を自負している)のであり、 次回のW杯を主催し上位進出を目指している(と私が思っているだけかもしれないが)のであり、 将来W杯の優勝を目指している(これなどもっと私が思っているだけかもしれないが)のである。 この時点でクビにしてよかった位だ。

 準備時間の不足、中田の不在、五輪代表との二重強化など、 トルシェ氏に同情する要素は多々あった。
しかし、あれほど無様な敗戦を喫して許されるものではない。 苦境でも帳尻を合わせるのがプロフェッショナルである。
特にパラグアイ戦に関しては、その前のペルー戦で好調だった井原、 楢崎を起用せずにあの惨劇を招いたのだから、 現場で指揮を執る監督の責任は極めて重いものがあった。

 あれだけ惨敗して平気な態度を取られたのも非常に残念だった。
あの敗戦後あれだけ、「選手のせいで負けたのであり、自分は悪くない」 と言った態度を(例えばサッカーマガジンの連載で)語れる神経は、 ある意味で大したものである。
あれだけの態度を取ると言うのは、もしかして氏はフランスW杯で、 アルゼンチンやクロアチアとあれだけ堂々とした中盤戦を演じた日本代表のVTRを見た事がないようにも思えた。
これは冗談とは言い切れない。氏の態度に「日本を馬鹿にしている」と言う論評が多いが、 それよりも「日本のサッカーのポジションを実際より低く評価している」ように思える時が多い。 もっともこれは氏の問題ではなく、氏の周囲の問題である。

 余談だが、フランスW杯で創意工夫を組み合わせ、堂々とアルゼンチン、 クロアチアと渡り合った岡田氏と選手たちに対し、誹謗の限りを尽くした人が多かった割には、 コパアメリカの惨状についてはさほど騒ぎにならなかったのは不思議だったが。


 ■3.2 錯乱采配と淡白采配

     

 采配が当たるかどうかについては、常に結果論がつきまとう。
例えば、先程も触れた韓国戦だが、この試合の日本サイドから見た最大の敗因は、 森島、中村と言う絶好調の攻撃タレントのカードを切り損ねたトルシェ氏の判断ミスだろう。
しかし、私はトルシェ氏がカードを切らなかった気持ちもわかる。 前述したように、後半開始から日本のプレスが面白いように決まり、 韓国を押し込んでいた流れを立ち切りたくなかったのだろう。 まして韓国とのアウェイ戦である。終盤の交替で無理に勝ちを狙うべきかと言うと迷うところである。
このような采配ミスは、ただの結果論である。采配は当たる時と当たらない時があるものだ。 トルシェ氏の責任ではあるものの、当たらない頻度が多くない限りは、 それ自身が氏の監督としての能力を決定的に貶めるものではない。

 しかし、トルシェ氏はしばしば、 結果論とは片付けられないどう考えても理不尽な采配を振るう事があるのも事実なのである。

 一つは錯乱するパタン。
韓国戦やカールスバーグのメキシコ戦の失点後を思い起こそう。
大量に選手を入れ替えたものの、ほとんど攻めの形を作れない。 結果として大事な試合終盤、無為に時間を費やし、そのまま敗北した。無理な交替などせずに、 普通にボールをつないだ方がまだチャンスは多く出来たのではないかと思わせる酷さだった。
どうしても1点取りたい試合終盤にFWを大量に投入して、 リスクを負っても無理攻めを狙うのは、よくある作戦。 しかし、この2試合については、トルシェ氏自身があわててしまい、 ただバタバタと選手を交代させ自滅した感が強かった。

 とにかくどうしても同点に追いつきたいと必死だったのだろう。 しかし、必死なのはよいが、あれだけ慌てた雰囲気の采配を見せられると、 「追いこまれたときに、この男は平常心が保てるのだろうか」と、 監督しての素質を疑いたくもなる。

 一方で、驚くほど淡白になってしまう事もある。
Wユース決勝のスペイン戦は、淡々と素直に完敗を認めるかのように、 泰然自若としていた。
コパアメリカ、特にパラグアイ戦では、守備が崩壊するにつれて、 ベンチでの淡々さが増しているように見えた。 私からすれば「状況が難しいのは認めるが、 あきらめがよすぎるのではないか」としか思えない。

先日のキリンカップでも、2試合とも終盤の淡白さが気になった。
ホームゲームで勝つ事、自国の小タイトルに単独優勝を狙う事は、 代表監督に課せられる基本的な要請ではないか。しかし、 終盤の采配振りは、どうしてももう1点取ろうと言う積極的なものには見えなかった。 それぞれの試合後に、「結果には満足している云々」と言うコメントを残したようだ。
このコメントがどこまで本音かどうかは別として、代表監督への基本的要請に、 あそこまで拘泥しない姿勢はどう言う事なのだろう。

 一部に「将来へのテスト」をしている以上、 全ての試合に完璧を求めるのは困難と言う評価から、 このトルシェ氏の采配をかばう向きもあるようだが、 私には納得できない。勝ちを狙う時は狙ってもらわねば困る。 常にベストを尽くしながら結果が出ないのは仕方がない。
問題は「常にベストを尽くしていないように見える」事だ。

 トルシェ氏には、冴え渡った采配と、非常に問題となる采配がある事を述べた。 好不調の波が大きい選手があるように、トルシェ氏も非常に好不調の波が大きい監督と言えるのだろう。 確かに氏は監督としては、まだ若く、これからの成長も期待できるだろう。問題は、 彼が後2年間で経験を積み、安定した采配を残せる監督に成長するかどうかかもしれない。


 ■3.3 不用意な発言

     

 トルシェ氏が、後先考えない発言をしてしまったり、 論理的に矛盾した事を堂々と説明したり、まあ直情的と言うか、 非常に独特な性格である事を否定する人は少ないだろう。
このあたりは以前サッカーマニア14号「トルシェ君は大騒ぎ」で述べたので、 興味ある方はそちらを参考いただきたい。
また2次情報だが、氏が非常に饒舌で、 マスコミに乗せられて選手批判など軽率な発言をしてしまう事もしばしばあるようだ。 不用意な発言は、いらぬ軋轢を生み、エネルギーを浪費する。 明らかにこれは氏の欠点と言えるだろう。

 しかし、性格に問題があって優秀な監督の方が、 性格はよいが無能な監督より格段によい事は間違いない。だから、 特殊な性格その物は、監督としての適正に影を差す事は事実だが、 決定的な問題とは思わない。むしろ、マスコミに頻繁に話題を提供する面からすれば、 代表監督にふさわしい性格と言えるかもしれない。あれほど、 スポーツ新聞向けの発言を不用意にしてくれるトルシェ氏と、 スポーツ新聞の折合がよくないと言うのは興味深いが。
とにかく、何を発言しようが、強いチームを作ればよいのである。

 ただし、ライバル国に敗戦した直後に、 その国の代表チームを長年支えてきたスーパースターのゴールを、 「あたかも偶然」と語るような、軽率な発言には気をつけて欲しいが。


 ■3.4 単独チームとの連携

     

 代表監督がよい成果を挙げるためには、単独チームとの連携が重要だ。 各選手のコンディションや代表からの要望などの情報を共有し、 代表に召集していない期間(その方がずっと長いのだが)の強化まで依頼する必要もあろう。
しかし、トルシェ氏の振る舞いを見ていると、 各単独チームとの連携をとる意思があるのかと疑いたくなる。

 トルシェ氏の合宿と言うと、就任当初から、大量の選手を召集するのが話題になった。
当初は、異国での采配でもあり、幅広く選手を見たいのだろう、 と思ったがその傾向は2年近く経った今でも収まっていない。

 Jリーグ最中の中国戦や韓国戦でも、明らかに出場する選手よりも多い選手を召集する。
今年に入ってからは、五輪代表選手だけ、ごく短期に集めるミニキャンプも何回か行われた。 氏によれば、「オートマティズム」の習得のために、 集められるときにできるだけ多くの選手を集めたい、と言うことなのだろう。
氏の気持ちはわからないでもない。しかし、物事には相手がある。 いつもいつも自分の希望通りに選手を集める事が、 本当の意味で代表の強化につながるのか、かなり疑問である。

 リーグ中にそれだけ多数の選手の時間を、 単独チームから奪うと言うことに、どうしてあれだけ無神経でいられるのだろうか (これは日本協会にも問題があるが)。試合に出場もさせないのに、 再三代表に選手だけ召集される事に、多くの単独チームは不満に思っている事だろう。
結果、単独チームの監督の協力も得られづらくなっていくのである。

 その究極が、韓国戦の、アジアチャンピオンズカップ帰りの中山と服部の無理な起用である。 どうして、あそこで無理をしてこの両選手を使わねばならなかったのだろう。
偶然とも言えるが、両選手とも、帰国後負傷している。 負傷の直接的要因は(特に服部については)別である。しかし、 溜まった精神的疲労が、負傷に全く影響を与えなかったとも言えないだろう。
半分冗談だが、服部が元気であれば、 ビスマルクの肘打ちもかわせたかもしれないではないか。少なくとも、 今後ジュビロは代表への協力を素直に行いたいとは思わないだろう。

 さらに驚かされたのが、今回トルシェ氏が取った夏休みである。
夏のバカンスそのものは、契約事項なのかもしれないし、リフレッシュも必要だろう。
しかし五輪とアジアカップの選手選考のもっとも重要な直近のJリーグの視察を行わないと言うのだから、 あまりに効率が悪いではないか。休みなら別なときに取ってくれてもよいではないか。 Jリーグを視察しないでおいて、合宿ではたくさんの選手を見たいと言うのでは、 単独チームの関係者は面白くないだろう。

 この状態で、代表チームと単独チームの連携は巧く行われているのだろうか。 ミニ合宿を行ったり、無理に中山を起用するよりは、 単独チームに協力できる点は協力した方が、ロングレンジで考えた場合、 トクだと思うのだが。
今後、2002年が近づくにつれ、ますます代表選手の拘束時間が長くなっていくだろう。 単独チームへ協力を依頼するケースが増えるはずだ。そのためにも、 よい関係作りは重要なはずだが。

 ここからは余談である。
一部のマスコミは、トルシェ氏が自分の主張を常に要求するのは欧米風で好ましいと伝える。 また氏をタフネゴシエィタと呼んだ方もいる。
しかし、私の経験からすると、氏の交渉術は欧米風でもないし、巧くもない。
欧米の所謂タフネゴシエィタと交渉してみるとすぐわかるが、 彼らは決して自分の要求のみを羅列しない。自らの要求もはっきり訴えるが、 相手の要求もよく聞く。優先度の高い要求を実現するために、 相手の要求でを受け入れられる点は積極的に受け入れようとするし、 優先度の低い要求は取り下げてくるケースも多い。
トルシェ氏は、 自分の(それも短期的要望を)声高に訴えているだけのように思えるのは私だけだろうか。 結果として、氏が本当に要求したい事が実現しない事を危惧するのである。


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