【スポーツ放送有料化】 〜争奪戦一気に過熱〜
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人気スポーツ放送の有料化に対抗する
「ユニバーサル・アクセス権」という概念について、前回お話をした。
W杯のTV放送形態の行く末に、この考え方は大きな影響を及ぼすであろう。
既に欧州を中心に、法律による明文化が始まっている。今回はその続きである。
この権利は、公共性のある重要なイベントなど(必ずしもスポーツに限らない)に、
人々がアクセスする権利である。
「スポーツなどの公共的なイベントが有料放送に独占されることで
視聴者が限られてしまい、
その公共性が損なわれるのではないか」という議論が、
90年代になってから欧州の放送界を中心に続いてきた。
そのきかっけになったのが、
英国のBスカイBという有料衛星TV放送によるプレミア・リーグ
(イングランドのプロサッカーリーグ)のTV放送権独占だった。
1月29日付の英紙フィナンシャル・タイムズによると、
BスカイBはこのほどプレミア・リーグに対し、
現行の独占放送権契約を3年延長したいと申し入れた。
BスカイBが提示した金額はほぼ10億ポンド(約1700億円)に上るという。
我々が今目撃しているのは、
スポーツ・イベントが国際規模で進んでいる
メディアビジネスの帰趨を決する鍵になる、という事態なのだ。
昨年イタリアのセリエAのTV放送権が、
WOWOWからスカイパーフェクTVに移ったのは記憶に新しい。
BスカイBのオーナー、マードック氏は、
現在ニューズ・コーポレーション社社長。
52年に父の経営する「アデレード・ニューズ社」を引き継ぎ、
以降、積極的に海外進出。
英国では「タイムズ紙」、米国では「ニューヨークポスト紙」を買収する一方、
放送分野でも勢力を拡大し、
英国「BスカイB」や米国の「フォックス・グループ」を傘下におさめ、
日本では「スカイ・パーフェクTV!」にも出資。
米大リーグ「ロサンゼルス・ドジャース」も買収した。
85年にアメリカで六つの放送局を買収しFOXTVを開設して放送事業に進出。
いまや「FOX」はNBCなどと並び、米国の4大ネットワークの一翼である。
(マードック氏の成功譚の前半は、
ジェフリー・アーチャー著「メディア買収の野望」
で描かれている主人公のモデルとして読むことができる。超お薦め本!)
マードック氏は、今回五輪が行われる豪州の出身である。
当然シドニーオリンピックの放送権について、指をくわえているはずがない。
BスカイBはIOCに対し、ヨーロッパでの独占放送権を20億ドルでオファーした。
ところがIOCはマードック氏の提示よりも安い提示金額(9億ポンド)にも関らず、
ITC(国際公営放送連合)を選択したのである。
そのあたりの経緯をIOCのマーケティング局長の
マイケル・ペイン氏は雑誌のインタビューで以下のように説明している。
「オリンピック憲章にはIOCのTV放映に関する基本姿勢が示されている。
それは世界のできるだけ多くの人に見てもらう、ということである。
(中略)そのためには限られた地域、視聴者しか放送できない放送局の場合、
いかに高い放送権料の提示があっても
IOCはマードック氏のような申し出を断る。」
豪州にもユニバーサル・アクセス権を保障する法律
「アンチ・サイフォニング・ルール」が存在する。
サイフォンとは吸い上げるという意味。
転じて、あるメディアが他のメディアの番組を取り込むことを指す放送用語だ。
豪州では、現在サッカー、ラグビー、クリケットなど11競技で、
特別な競技大会(例えば全国選手権の決勝や、国の代表チームの対外試合等)は
有料放送による独占が禁じられ、更には、リストには入っていないものの、
五輪もそれに準ずる公共性のあるイベントと位置づけられている。
周知のように、2002年大会の放送権は、
スイスの広告代理店とドイツのメディア企業グループが、
FIFAからフランス大会の約10倍の13億スイスフラン(約850億円)で買い取り、
各国のテレビ局に販売している。
日本はNHKと民放による放送連合体が交渉相手となっているが、
両者の思惑の開きが大きいため、先行きの予断はゆるされない。
来年末に韓国で行われる本大会抽選会や本大会の放送に関しても、
全く見通しが立っていないのが現状だ。
(昨年末に行われた予選抽選会に関しては、大会の盛り上げのため、
日本組織委員会(JAWOC)が生中継実現を各方面に必死で働きかけ
何とかNHKの協力を得て放送に漕ぎ着けた。
放送権料の高騰は、FIFAが「安い放送権料でサッカーを広める」という
これまでの考え方を撤回し、巨額の収入確保を目指す方針に転換したためだが、
現時点で契約の合意が成立したのはブラジル、スペインなどわずかである。
米国でもかつて60年代にこうした法律があった。
しかし、有料放送を含むケーブルテレビが普及し始めた70年代初め、
「法律は実状に合わない」との理由で廃止された。
今年、日本の放送界は大きな転換期を迎える。
年末に開始されるBS(放送衛星)デジタル放送に、
民放各局がこぞって参入する。
そこで浮上したのが、有料か無料かの議論だ。
当初は無料の公算が大きいものの、
日本経済が低迷する中で広告費の増大は見込みにくい。
将来的には有料で視聴者から資金を回収するとの見方が一般的で、
そうなれば、番組編成の有力な柱となるスポーツの争奪戦が一気に過熱する。
さらにデジタル放送による多チャンネル化が進行している。
地上波のデジタル化も間近い。
インターネットというメディアの出現と発達により、
放送とコンピューターの境界がはっきりしなくなっている。
一方、豪州や英国のような有料放送のスポーツ独占を禁じる法律が、日本にはない。
国民のスポーツを見る権利を優先するのか。
それとも「受益者負担」の名のもとに有料TVでスポーツ観戦するのか。
問題の本質はスポーツの公共性をどう規定するのかであり、
「スポーツの公共性」と「メディアの公共性とビジネス性」との関係に
どう折り合いをつけるべきなのか、が問われているのである。
21世紀を目前にし、21世紀最初の国際的大イベントを開催しようとするこの国では、
法整備はおろか、公式な議論さえも行われていないのが現状なのである。
スポーツの公共性について議論のない日本で、何が起きるのか。
2002年のW杯は、スポーツとメディアの関係に関しても、
大きな転換点になりそうである。
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