バーブラ・ストライサンド アルバム紹介


Guilty Pleasures(2005)


"Life could be so beautiful".

収録曲の一つ、"Above The Law"の中でバーブラとバリー・ギブが口ずさむこのフレーズ、このアルバムを聴いてうなずかれた方も多いのではないでしょうか?

1980年の大ヒット盤"Guilty"から25年の時を経て、またもや極上のポップスを紡ぎだす二人。この復活を喜んだのは二人のファンだけではありますまい。浮き沈みの激しい芸能界を生き抜き、今も輝いている二人が今だから歌える一節。

彼らの出会いは1979年7月に遡ります。バーブラがロスアンジェルスのドジャー・スタジアムで行われていたビージーズのコンサートを訪ねたのです。互いに紹介を受ける二人。そしてこのとき、当時バーブラのエグゼクティブ・プロデューサーを務めていたCharles Koppelmanと、当時のバーブラの恋人であり、映画/音楽のプロデューサー業に乗り出していたJon Petersが話をまとめ、世紀の名盤が生まれる手はずが整いました。

バリーはマイアミのThe Bee Gee's Middle Ear Studioで早速曲を書き溜め、デモテープを作ってバーブラに送ります。一人の作曲家に身をゆだねるのも初めてなら、歌詞もかなり抽象的...ではありましたが、そのサウンドのあまりの完璧さにバーブラは打ちのめされ、レコーディングに入ることになります。

そしてこのコラボレーションで生まれたアルバムは"Guilty"と名付けられ、二人にすさまじい成功をもたらすことになります。

最初にシングルカットされた「ウーマン・イン・ラブ(Woman In Love)」はソロとしては「『スター誕生』愛のテーマ(Love Theme From "A Star Is Born")」以来のNo.1に輝き、続くバリーとのデュエット「ギルティ(Guilty)」「別離(わかれ)(What Kind Of Fool)」もそれぞれ2位、10位を記録、合計で3曲ものTop 10ヒットを産み出します。

アルバム自体もアメリカ本国でバーブラ5枚目のNo.1を記録、他に12ヶ国でもNo.1に輝きます。売上はアメリカ本国だけで5百万枚を記録、全世界では12百万枚というバーブラ最大のセールスを達成しています。因みに日本でもバーブラ唯一のゴールド・ディスクを獲得。20万枚以上を売り上げているという嬉しい話もあります。

成功は売り上げだけに留まりません。1980年のグラミー賞では、Record of The Year(for "Woman In Love")、Album of The Year(for "Guilty"), Best Pop Female Vocal Performance(for "Woman In Love")、Best Pop Vocal Performance, Duo or Group(for "Guilty")の4部門にノミネートされ、見事Best Pop Vocal Performance, Duo or Groupに輝きます。

バリーはこの成功に自信を持ち、以後、Dionne Warwick, Kenny Rogers, Dolly Parton, Diana Ross, Celine Dionなど一流アーティストのプロデューサー業に乗り出し、その全てを悉く成功に導くのは有名な話です。

話を「ギルティー・プレジャーズ」に戻しましょう。

"Guilty"のレコーディングで「最も居心地よく快適な時間を過ごした」(バーブラ談)二人、今までも再結成話は何度となくあがっていました。バリー自身、バーブラのために曲を書き溜めていると発言したこともありましたし。実際、このアルバムのラストに収められた"Letting Go"は、1984年というかなり早い時期にバーブラに送られたりもしています。

しかしながら、1984年の"Emotion"でのポップス路線での失敗、また1985年の"The Broadway Album"の成功で、バーブラ自身がポップス路線から離れてしまいます。

バーブラはコンセプチュアルなセルフプロデュース作品に熱を入れ、その中から"Higher Ground"や"The Movie Album"などの名盤も生まれましたが、一方70年代後半から80年代前半のポップなバーブラを知る向きからは「豪華だけど肩が凝る」という声が聞こえていたのも事実。

バーブラ自身もそのように感じていたところがあるのでしょうか、「このところオーケストラたっぷりのセルフプロデュース盤ばかりだったから、久しぶりにポップアルバムはどうかと思って」バリーに電話したのだそうです。そして今年は折りしもあの"Guilty"誕生から25周年。タイミングもバッチリだし、もう盛大にお祝いしちゃいましょう、ということになったようです(本当は周到にマーケティング戦略が練られたのだと思いますが)。

とはいえ、今回のこのアルバム、"Guilty"とは少し趣を異にしている部分もあるようです。

もちろん黒づくめのジャケットは真っ白なギルティーのカバーアートと対を為すものですし、タイトルの"Guilty Pleasures(イギリスではGuilty Too)"は明らかに"Guilty"を意識して名付けられたものでしょう。

しかしながら、このリラックスした雰囲気。ギルティーが用意周到に作りこまれた結果の心地よさだとすれば、今回のはもっとナチュラルな心地よさ。

それは歌う側としてのバーブラのコミットの仕方の違いによるものなのかもしれません。

前作の"Guilty"では予めバリーが準備した「カラオケ」に合わせてボーカルを乗せたバーブラ。それはバリーという指揮者のもとで「ヴォーカル」という一つの楽器を奏でる以上のものではなかったのかもしれません。

一方、今回の場合はバーブラの趣味がある程度反映されています。

電話のミーティングで、バリーはバーブラの最近の音楽の好みを予めリサーチします。「最近はボサノヴァをよく聴いているわ」と答えるバーブラ。

そのリクエストに対するバリーなりの回答が"Golden Dawn"と"Hideaway"。バーブラには珍しいラテンフレーヴァーがこのアルバムに豊穣なメロディーラインを与えています。

その他にもバラエティーに富む曲の数々。最近のアルバムは良きにつけ悪しきにつけ統一感がありましたから、この色とりどりの楽しさはファンにとっては嬉しい驚きです。バリーが粉骨砕身しただけのことはあります。

サウンド・プロダクションは過剰なオーケストレーションを排除した比較的小規模な楽器構成。ところどころチープに感じる部分もありますが、何度聴いても聴き疲れしないのはある意味このお陰かもしれません。

「彼も一人のアーティストだから、他のアーティストのプロデューサーとして何をすればいいかが分かっているのね。」というのはバーブラの言葉です。

さらに重ねて曰く「彼の声と彼の音楽に流れる情熱が好き。二人の声が合わさるとまるで3つ目の声が聞こえるようだったわ。お互いの声をうまく補完するのね。彼の声の空気のような触感が好きだわ。」と。

この全幅の信頼のお陰でしょうか、このアルバムでのバーブラは驚くほど若々しくチャーミング。歌っている喜びが伝わってくるようです。

DVDを付けたり、blogを設けたり、amazon.comでビデオを配信したり、最初の週だけ割引なクーポンをBarnes & Nobleで配ったり("Stranger〜"の無料CD-S付き)したにも関わらず、チャートアクション的にはそれほどではありませんでしたが、このアルバムを聴くことはまさに"法悦"。Jay Landersの言う通り「待てば海路の日和あり」なのでした。

2005/9/20発売。ビルボードアルバムチャート初登場5位。ビルボードTop Internet Albumsでは見事1位獲得。ゴールド・ディスク獲得(2005/10/21)。イギリスでは3位初登場。

1. Come Tomorrow (Duet with Barry Gibb) [5:01] (Barry Gibb, Ashley Gibb & Stephen Gibb)  
バリー・ギブとのデュエット。アルバム中、最もレトロスペクティブな印象。とはいえ、ドゥーワップスタイルの曲ながら、ベースラインをホーンセクションに任せているので、サウンド的には新鮮な部分もあります。50年代の卒業記念パーティー(プロムナイト)をイメージして作られたようです。

バリー・ギブは1946年9月1日、イギリスのマン島生まれ。1956年、双子の弟(Robin, Maurice)とThe Bee Geesを結成。ビージーズは1967年に発表した「ニューヨーク炭坑の悲劇」で注目を集め、日本でも「小さな恋のメロディー」で使われた「メロディー・フェア」で人気グループとなります。ディスコ・サウンドを取り入れた1975年の「ジャイヴ・トーキン」以来、1979年の終わりまでに8曲の全米1位を獲得。中でも1977年の映画『サタディ・ナイト・フィーバー』の挿入歌の「ステイン・アライヴ」や「恋のナイト・フィーバー」「愛はきらめきの中には」ご存知の方も多いでしょう。またバリーはソングライターとしても大成功を収め、弟のAndyをはじめ、Yvonne EllimanやFrankie Valliなど、その恩恵に預かったアーティストも少なくありません。一時は全米チャートTop 10のうち半分を彼の曲が占めるなど、レノン=マッカートニーやデビッド=バカラックもできなかった偉業を達成していることも特記すべきことでしょう。

尚、今回ソングライティングのチームとして参加しているStephen(1973年12月1日生まれ)とAshley(1977年9月8日生まれ)はバリーの息子です。

2. Stranger In A Strange Land [4:48] (Barry Gibb, Ashley Gibb & Stephen Gibb)  
これぞビージーズ・メロディー!。"Guilty"のノリを期待する向きには一番でしょう。サウンドプロダクション的にもとてもうまくまとまっています。とはいえ、歌詞はイラク戦争をモチーフに、家族や愛するものの絆を歌うなど、時代に即したものとなっています。バーブラはこの曲でアダルトコンテポラリーチャートに再度登場。64回目のチャートインを果たしています。前を走るのはエルトン・ジョンのみ!

3. Hideaway [4:15] (Barry Gibb & Ashley Gibb)
スモーキーな歌いだしから開放的なメジャー進行へドラマティックなメロディー展開を持った曲。バーブラも思いっきりロマンティックに歌っています。実際のブラジルはこんなにロマンティックなものでもありませんが(爆)。

4. It's Up To You [3:31] (Barry Gibb & Ashley Gibb) 
丸いエレキギターの音がカントリー調に響く曲。当館ではジャクソン・ファイブの"I'll Be There"に似ているということでも話題になりました。歌詞的には一時のバーブラには考えられないくらい依存度の高い歌詞ですが、バーブラも結婚して角が取れたのでしょうか?メロディー的にも可愛らしい小品です。

5. Night Of My Life [3:59] (Barry Gibb & Ashley Gibb)
"No More Tears(Enough Is Enough)"や"Main Event/ Fight"の夢よもう一度。この曲聴いて狂喜乱舞したファンも多いのではないでしょうか?(もちろん筆者もその口です)。この曲はRemix/ DJの大御所、ジュニア・バスケスによりリミックスされ、12inchビニール盤でシングル発売され、ビルボードのClub Play Chartで#2を記録するとともにTop Dance SinglesでもTOP 10に入りました。アルバムに収められたバージョンもサウンド的にとても力が入っており、往年のバリーの実力を彷彿とさせます(歌詞の支離滅裂さも含め(笑))。因みに12inchシングルには下のバージョンが収められています。またイギリスで発売されるCD-Sにはまた別バージョンのリミックスが収録される予定です。

・Night Of My Life - Junior's Roxy Anthem (7:54) 
・Night Of My Life - John Luongo 12" Mix (9:05) 
・Night Of My Life - L.E.X. Club Mix (8:50) 
・Night Of My Life - John Luongo 7" Mix (3:48) 

6. Above The Law (Duet with Barry Gibb) [4:26] (Barry Gibb, Barbra Streisand & Stephen Gibb) 
個人的にはこのアルバムで一番好きな曲。一時はこの曲をタイトルトラックにする話もあったとか。少なくともこの曲を1曲目にしていれば、アルバム全体の趣きもまた変わったように思います。

それはさておき、この曲では一段と伸びやかなバーブラの高音域を楽しめます。軽やかなサウンドと相俟って、車のCFにでも使えばよさそうなドライブ感を醸し出しています。

バリーとの掛け合いが素敵な曲ですが、この曲のデモを聴いたときにカウンターメロディーをバーブラがハモり、その翌日には曲としてそのオブリガードが組み込まれていたとか。というわけで、バーブラ、ちゃっかりとコンポーザー陣に名前を連ねています。

7. Without Your Love [3:49] (Barry Gibb & Ashley Gibb) 
"Guilty Pleasures"版"Make It Like A Memory"と云った風情の曲。ジャズやミュージカルと次々と曲調を変える複雑な構成を持った曲で、バーブラ、さすがの歌いこなしです。でも作曲としては、ちょっと頑張りすぎかな(苦笑)。

8. All The Children [5:13] (Barry Gibb, Ashley Gibb & Stephen Gibb)  
バーブラの政治意識を反映して中近東風のサウンドを取り入れた。とのことですが、そんなことは忘れて、バリーの艶やかなバックアップコーラスを楽しみましょう。この曲もリミックスされればかなり踊れそうな雰囲気です。

9. Golden Dawn [4:40] (Barry Gibb, Ashley Gibb & Stephen Gibb)  
このアルバム中でバーブラ一番のお気に入り。個人的にはシンセサイザーの音が廉過ぎるように思うのですが(苦笑)。ジョージ・マイケルの"Jesus To A Child"風の曲が欲しいというバーブラの要望に応えてバリーが作った曲で、その類似性については意見の分かれるところだとは思いますが、このラテンフレーヴァーはこのアルバムの大きな魅力の一つと言えるでしょう。バーブラの歌い口も繊細で、聴いているこちらもついセンチメンタルな感傷に浸ってしまいます。

10. (Our Love) Don't Throw It All Away [4:01] (Barry Gibb & Blue Weaver) 
バリーの愛弟Andy Gibbの1978年のヒット曲。邦題「愛を捨てないで」。アンディのバージョンはビルボード・シングルチャートで9位を記録。バーブラがビージーズのベスト盤を聴いていて、ボーナストラックとして入っていたこの曲を気に入って歌いたいと言ったのがきっかけで、このアルバムに収められたようです。イントロのシンセが"What Kind Of Fool"風なこの曲、バーブラの歌唱ものりのりで、筆者も何度となく繰り返し聴いてしまいます。作曲家陣に名を連ねるBlue Weaverは1947年ウェールズ生まれ。セッションマンとしてビージーズファンにはお馴染みの人のようです。

11. Letting Go [3:53] (Barry Gibb & George Bitzer) 
1984年に書かれ、バーブラに送られたものの、入れるべきアルバムが見つからずにお蔵入りになっていた曲。痺れを切らした(?)バリーは、1988年のティモシー・ダルトン主演の英映画「この命尽きるまで(原題:Hawks)」のサウンドトラックで、一足先にソロとして発表しています。バーブラはこの曲を一発で収録し、貫禄の歌いぶりを見せています。"Guilty Pleasures"は何度も何度も並び順を試した結果、今の並びになったそうですが、この"Letting Go"は常に最後。一時はアルバムタイトル候補に挙げられていたのも納得の重厚さです。作曲者に名を連ねているGeorge Bitzerは"Guilty"でもキーボーディストとして参加。またバリーのファーストソロアルバム、"Now Voyager"でも多くを共作しています。

追記:このアルバムセッションの中で"If Only(You Were Mine)"もレコーディングされましたが、結局アルバムには収められませんでした。いつか陽の目を見ることをみんなで祈りましょう。




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