バーブラ・ストライサンド アルバム紹介


The Movie Album(2003)


バーブラ60枚目の記念アルバムにして、"The Broadway Album(追憶のブロードウェイ)"と対を成す映画音楽集。

映画音楽を集めたアルバムについて、バーブラが公式にコメントしたのは1986年9月6日。後にアルバムとしても発売された"One Voice"のステージ上でのことでした。このときバーブラは「オズの魔法使い(The Wizard Of OZ)」からジュディ・ガーランドの代表曲「虹の彼方に(Over The Rainbow)」を採り上げ、歌っています。

そして17年の月日を経てようやく発売になったこのアルバム、巷で噂されていた"The Hollywood Album"という名前にならなかったのは、必ずしもハリウッド製の映画だけを採り上げたわけではないことに対するバーブラならではの潔癖さの顕れでしょうか。

収められた曲は1935年から1988年までの全12作品。誰かに歌うことを薦められたものではなく、すべてバーブラが自分自身でリストに挙げたものです。必ずしも映画の中で「歌われた」曲ではなかったりもしますが、映画で使われたメロディーであることはれっきとした事実。むしろインストゥルメンタルの曲に歌詞を付けさせたり(More In Love With You)、公開時にはカットされてしまった歌詞を掘り出してきたり(Goodbye For Now)といった一捻りは、バーブラのバーブラたるゆえん、バーブラの面目躍如といったところでしょう。

またアカデミー主題歌賞を受賞したいわゆる「定番」が殆ど収められていないのも、まことにバーブラらしいこだわりといえます(受賞曲は"Moon River"のみ)。「賞を獲らなくても、いいものは時が証明してくれるのよ」とバーブラは「雨に歌えば」や「2001年宇宙の旅」を例に挙げて語っています。

レコーディングは2003年春からCulver Cityのソニーのスタジオで行われ、8月には全ての録音を終えています。ソニーはこのレコーディングのために彼女専用のレコーディングブースと洗面所を用意したそうですが、このエピソードからもソニーがこのアルバムに賭ける意気込みが感じられます。この秋のパブリシティを見てみても、The Oprah Winfrey ShowInside The Actors Studio,Billboard Magazine,The Adovocateなど、バーブラ自身も精力的にインタビューをこなしており、いやがおうにも初登場No.1への期待が高まるところです。

ジャケット写真はTerry O'Neill氏の撮影。"The Concert(1994)"のツアーパンフのポートレートと同じ構図ではありますが、髪型から推測するにこのアルバム用に撮り直したもののようです。16ページに及ぶブックレットには、アメリカの著名写真家アニー・リーボヴィッツ女史による未発表ポートレイトや、バーブラ自身による解説、歌詞、Jay Landers氏によるコメントが収められており、目からもこのアルバムが楽しめるよう配慮がなされています。因みにこのブックレットに使われている緑は彼女のカウチの布の色、灰色は彼女が日々眺めている太平洋の色だそうで、このアルバムがかなりプライベートな色彩が濃いことが、ここでも分かります。

尚、このアルバムは故Gregory Peck氏に捧げられています。

1.Smile(曲:Charles Chaplin、詞:John Turner and Geoffrey Parsons)
 言わずと知れたチャップリンの名作「モダン・タイムス(Modern Times,1936)」より。無声映画なので、もともとはインストゥルメンタルでしたが、その後1954年に歌詞が追加され、Nat 'King' Coleの歌唱で2位まで上がる大ヒットとなりました(1954年Billboard年間チャート10位)。バーブラがこの曲を録音する二日前、彼女の愛犬Sammy(ビジョンフリーズ♂。水犬の一種のようです)が9歳で天に召されました。1:57辺りから始まる「こういうときだからこそ微笑みを絶やしては駄目。泣いていたからってどうなるの?微笑んでいればそれでも生きている意味があるって分かるはずよ」というフレーズの説得力には並々ならぬものがありますが、バーブラ自身、"Smile"を忘れないように自らを励ましながらこの曲を歌ったようです。オプラ・ウィンフリーのトークショーでも歌ったこの曲は(テレビ番組で聴衆を前にライブで歌うのは実に40年ぶりだったそうです)、"The Humane Society Of United States(動物虐待防止団体の一つ)"のキャンペーンソングにもなっています。アレンジはJeremy Lubbock、天高く舞うヒバリのようなバイオリン・ソロはJoel Derouin。日本でも中島みゆきのアルバムで活躍されているようです。

2.Moon River(曲:Henry Mancini、詞:Johnny Mercer)
 「ティファニーで朝食を(Breakfast At Tiffany's,1961)」より。1961年度(第34回) アカデミー主題歌賞受賞。今や「この50年の中でもっとも重要な曲の一つ」に挙げられているこの曲ですが、最初は映画会社の重役達のお気に召さず、あわやお蔵入りになるところだったそうです。その窮地を救ったのが主演のオードリー・ヘプバーン。この曲の魅力と映画にとっての重要性を悟った彼女が「この曲を落とすのなら、私の屍を越えていけ(Over my dead body)!」と重役達に訴え(なんだかオスカルみたいですね)、やっとのことで陽の目を見ることになりました。作曲のヘンリー・マンシーニ(1924-1994)はオハイオ州クリーヴランド生まれ。オスカー4回とグラミーを20回も受賞している映画界で最も成功した作曲家の一人です。この曲の他にも「酒とバラの日々」や「シャレード」、「ピンク・パンサー」、「ピーター・ガンのテーマ」など誰でも一度は耳にしたことがあるでしょう。この曲はヘプバーンが映画の中でギター伴奏で歌い、世の中には1,000以上ものカバーがありますが、マンシーニはヘプバーン以外にこの曲を完璧に解釈できたものはいない、とまで惚れこんでいます。それもそのはず、マンシーニは彼女の大きな瞳を思い浮かべながらこの曲を作ったのですから。オードリーも映画の公開にあたってマンシーニに書簡を送っており、「この映画は音楽がないと燃料の切れた飛行機みたいなもの。あなたの曲のお陰で高く飛ぶことができたわ」と最大限の賛辞を送っています。作詞のジョニー・マーサー(1909-1976)はジョージア州サヴァナ生まれ。「枯葉(Autumn Leaves)」の英詞や"Come Rain or Come Shine","Once Upon A Summertime"でもバーブラファンにはおなじみです。ところでバーブラがこの曲を取り上げるのは2回目。19歳(1961)当時の"PM EAST"での歌唱が"Just For The Record..."に収められています。バーブラ自身「もう一度歌うとは思わなかったわ」と述べていますが、それは私達ファンにとってもおなじこと。"PM EAST"ではPeter Danielsのピアノ伴奏一本でしたが、今回のアレンジは映画を髣髴とさせるギターをフィーチャーしています。40年余の歳月を経て、バーブラはより憧憬に満ちた歌声を聴かせてくれますが、天国のマンシーニさんのお眼鏡には適ったでしょうか?アレンジはプロデューサーのRobbie Buchanan自身が手掛けています。

3.I'm in The Mood For Love(曲:Jimmy McHugh、詞:Dorothy Fields)
 ジョージ・ラフト、アリス・フェイ、フランセス・ラングフォード主演のパラマウント映画「夜毎八時に(Every Night at Eight,1935)」より。邦題「恋の気分で」。映画の中ではフランシス・ラングフォードが唄いました。ジャズ界では「ムーディーズ・ムード・フォー・ラブ」というタイトルでも知られ、リトル・ジャック・スミス、ルイ・アームストロングらが名演とされています。作曲のジミー・マクヒュー(1894-1969)はマサチューセッツ州ボストン生まれ。バーブラファンには"The Judy Garland Show"でジュディ・ガーランドとデュエットした"Hooray for Love"が有名でしょうか。作詞のドロシー・フィールズ(1905-1974)はニュージャージー州アレンハースト生まれ。女性ではじめて"The Songwriters Hall of Fame"入りした才女です。"Make The Man Love Me"やミュージカル"Sweet Charity"の作詞もしていますから、"Where Am I Going?"や"You Wanna Bet"でもバーブラファンにはおなじみですね。アルバムに収められるのはこれが初めてになりますが、バーブラはこの曲を94年の"The Concert"ツアーでも採り上げており、筆者も幸いにしてMGMグランドホテルでの元旦公演で聴くことができました。そのときは今回のアレンジと同様ボサノヴァ基調ではありながら、"Speak Low","Guilty"とメドレーにするといったなかなかの凝ったアレンジでした。アレンジ・指揮はJorge Calandrelli、艶っぽいChuck Findleyのトランペット・ソロが夢心地な恋のムードを一層高めます。

4.Wild Is The Wind(曲:Dimitri Tiomkin、詞:Ned Washington)
 アンソニー・クイン主演の「野性の息吹き(Wild Is The Wind,1957)」より。主題歌をジョニー・マティスが歌い、同年に22位まで上がるヒットを記録しました。1957年度 (第30回)のアカデミー主題歌賞にノミネートされましたが、惜しくも"All The Way"に像を譲りました。バーブラは15歳のときにこの映画を観て、Tony Franciosaに一目惚れしたそうですが、マティスの歌唱にも心を奪われたようです。作曲のディミトリ・チョムキン(1894-1979)はウクライナ生まれ。大学でクラシック音楽と法律を学んだ後、フランク・キャプラ監督の映画で活躍しました。ネッド・ワシントン(1901-1976)はペンシルベニア州スクラントン生まれ。ボードビルのMCとしてキャリアをスタートした後、脚本家としても成功を収め、作詞家としても「星に願いを(When You Wish Upon A Star)」や"I've Got No Strings","The Nearness Of You"でバーブラファンにはおなじみです。この曲で注目したいのは、なんと言っても色彩感豊かなオーケストレーション。曲名を知らなくても草原を渡る一陣の風を感じることができるでしょう。編曲・指揮のJorge Calandrelliはヨーヨー・マの「リベルタンゴ(ピアソラ作曲)」の指揮・編曲を担当した人といえばピンと来る人も多いのではないでしょうか。バーブラはポルタメントの多用により感傷的なムードを出すことに成功しており、愛する人への想いの切実さにはこちらまで胸が痛くなります。特に「あなたは私にとって人生そのもの」と歌う2:14から「木の葉が枝にしがみつくように、あなたも私から離れないでいて」と訴える2:49まではこの曲のクライマックスと言えるでしょう。

5.Emily(曲:Johnny Mandel、詞:Johnny Mercer、補詞:Alan & Marilyn Bergman)
 「卑怯者の勲章(The Americanization of Emily,1964)」より。元々男性が歌う曲なのですが、女性でも間接話法として歌えるように、バーグマン夫妻が詞を補いました(この辺り西洋はややこしいですね。日本なら女性が男性の歌を歌ってもぜんぜんおかしくないのですが)。作曲のジョニー・マンデル(1925-)は生粋のニューヨークっ子。トローンボーン奏者としても有名ですが、それ以上に「いそしぎ(The Shadow Of Your Smile)」や「MASHのテーマ(Suicide Is Painless)」の作曲家としての方が著名です。バーブラファンには"Back To Broadway"や"The Prince of Tides","Chistmas Memories"のアレンジ・指揮でもおなじみですが、このトラックでは満を持してバーブラと一緒にプロデュースも行っています。可愛らしいワルツに歌詞を載せたのは「ムーン・リバー」のジョニー・マーサー。"family","dreamily","Emily"というやわらかい音韻の間に、映画タイトルの"Americanization"を連想させる"visualize"という硬質の響きを挟み、歌詞全体を引き締めているのはさすがの職人技です。リフレインの部分は歌手の実力によっては退屈なものになりがちですが、出だしの"Emily,Emily,Emily"だけを取り上げても表情が感じられるのは、バーブラの音楽性のみならず女優としての才能のたまものでしょう。フルート・ソロはDan Higgins。

6.More In Love With You(曲:Andre Previn、詞:Alan & Marilyn Bergman)
 ヴィンセント・ミネリ監督の「黙示録の四騎士(Four Horsemen of the Apocalypse,1962)」より。もともとは器楽曲で、マーヴィン・ハムリッシュの編曲によりバーブラの結婚式でも使われていた曲ですが、どうしても歌いたいというバーブラの意志により、歌曲として生まれ変わることになりました。歌詞を付けたのはバーブラの親友中の親友、バーグマン夫妻。歌詞を作ってもらうにあたり、バーブラは彼らに「ハッピーな曲であるということを忘れずに」と注文を付けたそうです。バーブラとプレヴィン、バーグマン夫妻は何度もミーティングを重ね、プレヴィンの強い推薦でアレンジャーにJeremy Lubbockが指名されます。ラボックは"Back To Broadway"や"Higher Ground"でもおなじみですが、流麗で豊かではあるけれどもピリッとしたところのない退屈なオーケストレーションで、筆者的にはあまり評価してなかったのですが、この曲では見違えたようにいい仕事をしています。この曲でグラミー取れないかな?。2:21から2:34に到るJoel Derouinが奏でるバイオリンのパッセージ、また3:35から3:41の「素晴らしすぎて...不可能だと思ってたけど」のボーカルとオーケストラの不協和音はリヒャルト・シュトラウスのオペラを彷彿とさせる現代的な優雅さで、特に後者においては眼前でfeuerfunkenが炸裂するような圧倒的な喜びに目が眩んでしまい、思考停止に陥ってしまうこともしばしばです。この曲の出来にバーブラは心から満足しているようですが、このサウンドがバーブラの頭で鳴っていたとするなら、バーブラのサウンドプロダクションの能力にひれ伏すしかありません。ところでバーブラはこのアルバムをExecutive Produserとして監修していますが、予算をオーバーさせないため、各曲のテイクは5回以内と決めていたそうです。この曲は元が器楽曲でオーケストラ自体の練習にもテイクが割かれてしまったため、バーブラの歌録りには3回しかテイクが残されていなかったとか。作曲のアンドレ・プレヴィン(1929-)はドイツ・ベルリン生まれ。ナチスを逃れてパリ、そしてアメリカへと渡ってきました。クラシックからジャズとクロスオーバーに活躍する多彩な人で、映画界でも「モダン・ミリー(Thoroughly Modern Millie)」や「あなただけ今晩は(Irma la Douce)」などで知られています。

7.How Do You Keep The Music Playing?(曲:Michel Legrand、詞:Alan & Marilyn Bergman)
 「結婚しない族(Best Friends,1982)」より。邦題は「君に捧げるメロディー」。この作詞・作曲トリオはもうバーブラファンにはおなじみですね。オリジナルはJames IngramとPatti Austinの"Baby, Come To Me"コンビで、Billboardシングルチャート最高位45位の中ヒットを記録しました。1982年度 (第55回)のアカデミー主題歌賞にもノミネートされましたが、この年はライバルに"Up Where We Belong(愛と青春の旅立ち)","It Might Be You(「君に想いを」from トッツィー)","Eye of the Tiger(from ロッキー3)"がいる大激戦。結局"Up〜"にオスカーをさらわれてしまいました。この曲をバーブラが取り上げるのは"Emotion"のデモセッション以来2回目。キーと落としてアレンジを変えての再挑戦ですが説得力が格段に違います。声の強さや滑らかさは当時と比べるべくもありませんが、声が低くなった分、枯れてきた分、だからこそ歌える曲があるということは、バーブラにとってもファンにとっても嬉しいことではないでしょうか。筆者的には2:03からの「あなたを愛すれば愛するほど、あなたの瞳に映る永遠を永久に見られなくなるんじゃないかって怖くなるの」というフレーズに涙を禁じえません。同じ作詞家のペンによる"The Way He Makes Me Feel(イエントル・愛のテーマ)"が恋に落ちることのおののきと喜びを綴ったものだとすれば、この曲は恋が成就した後の戸惑いと恐れを歌ったもの。連作小説のように感じるのは筆者だけでしょうか?アレンジは前曲と同じJeremy Lubbockですが、印象はまったく違います。

8.But Beautiful(曲:Jimmy Van Heusen、詞:Johnny Burke)
 ビング・クロスビー、ボブ・ホープ、ドロシー・ラムーアの三人が主演する"珍道中"シリーズ第五作、「南米珍道中(Road to Rio,1947)」より。夜の船上でクロスビーがラムーアに歌いました。作曲のジミー・ヴァン・ヒューゼン(1913-1990)はニューヨーク州シラキューズ生まれ。バーブラがこれまでに取り上げた曲は"Love Is A Bore"のみで、あまり関係が深いとは言えませんが、前述の"All The Way"の作曲もこの人です。作詞のジョニー・バーク(1908-1964)はカリフォルニア州アンティオーク出身。バーブラがこの人の曲を取り上げるのは初めてですが、ヒューゼン同様、珍道中シリーズなどビング・クロスビー関連の映画で活躍しました。バーブラが影響を受けたのはビリー・ホリデーのバージョン。幼い頃にスーパーで"Lady In Satin"を手に入れたバーブラは、子供ながらにこのアルバムに感銘を受け、後に"For All We Know","I'm Glad To Be Unhappy"を取り上げただけでなく、このアルバムのアレンジャー、Ray Ellisに"A Christmas Album"のアレンジを任せたほどです。今回のアレンジはまたまた登場のJeremy Lubbock。Warren Lueningの柔らかなフリューゲルホルンが春の宵を思わせる雰囲気を醸し出しています。

9.Calling You(詞曲:Robert Telson)
 「バグダッド・カフェ(Bagdad Cafe,1988)」より。このアルバムに収められた映画の中では唯一の非アメリカ映画(西ドイツ制作)。自国至上主義のアメリカではこの曲はあまり有名でないようですが、バーブラはこの曲に惚れ込み、この映画の監督Percy Adlon氏にも会っています(おそらく監督としても興味があったのだと思われますが)。バーブラは作者のロバート・テルソンに三番目の歌詞を追加してもらうとともに、二番目の歌詞を物語のように歌い(ちょっと市原悦子入ってます)、バーブラならではのオリジナリティを出していますが、オリジナルのジュベッタ・スティーユをはじめ、ホリー・コールやセリーヌ・ディオンなど様々なカバーもヒットした日本で、この解釈は受け入れられるでしょうか?。1988年度 (第61回) アカデミー主題歌賞ノミネート(受賞は"Let the River Run")。アレンジ・指揮はプロデューサーのRobbie Buchanan自身が手掛けています。

10.The Second Time Around(曲:Jimmy Van Heusen、詞:Sammy Cahn)
 「ゲパルト・パパ(High Time,1960)」より。1960年度(第33回)アカデミー主題歌賞ノミネート(受賞は"Never On Sunday")。ある意味、このアルバムよりも"A Love Like Ours"にでも入っていそうなハッピー・エンディング版「セカンド・ラブ」な歌詞を持つこの曲、サウンド的にも"A Love〜"が似つかわしくも思えますが、反対にそちらに入っていたら曲としては目立たなかったかもしれませんね。ジェームズ・ブローリンが"The Second Time"なのなら、"The First Time"はエリオット・グールドなのか?はたまたジョン・ピータースか?などという下司の勘繰りをさらりとかわし、幸せ一杯のバーブラは余裕しゃくしゃくでのろけてみせます。サミー・カーン(1913-1993)はニューヨーク出身。"The Third Album"のライナー・ノーツを手掛けていますが、意外なことに曲としては前述の"Love Is A Bore"以来久しぶりの歌唱となります。アレンジ・指揮はJorge Calandrelli、サキソフォン・ソロはTom Scott。"A Love〜"ではKenny Gのサックスがフィーチャーされてましたが、バーブラの中でサックスはジムのモチーフになっているのかもしれませんね。

11.Goodbye For Now(詞曲:Stephen Sondheim)
 「レッズ(Reds,1981)」より。映画で歌詞は使われていませんでしたが、お蔵入りになった歌詞があると耳にしたバーブラが、ソンドハイムに頼み込んで歌詞を引っ張り出してきてもらったという曰く付きの曲。「レッズ」は俳優が監督業に乗り出す走りになった作品の一つで、制作・主演・監督のウォーレン・ベイティはアカデミー監督賞を獲得するという大成功を収めました。昔の恋人であり、親友シャーリー・マクレーンの弟でもある彼が監督として成功したことは、バーブラが「愛のイエントル(YENTL)」を監督するにあたって、大きな影響を与えたことは想像するに難くありません。バーブラの人生の中でも特に思い出深い映画の一つなのでしょう。曲の方はさすがの相性の良さ。第3節の"See...I free you/ And I'll see you when I see you.../ Fine ,okay"の間合いときたら100の言葉を並べるより雄弁というほかありません。ここまで来ると映画の主題歌というよりは劇中歌、あるいはミュージカルそのものといってもいいでしょう。編曲・指揮のJeremy Lubbock、ここでもいい仕事してます。

12.You're Gonna Hear From Me(曲:Andre Previn、詞:Dory Previn)
 ナタリー・ウッド主演のハリウッド内幕物ミュージカル映画「サンセット物語(Inside Daisy Clover,1965)」より。こういう曲になるとバーブラの独壇場ですね。いや、ほんと第三、第四の"The Broadway Album"を期待してもいいんじゃないかしら(笑)。特に2:44からのビッグバンド風間奏が終わったところで顔を覗かせるバーブラの得意気なことときたら!。ミュージカル監督は「ファニー・レディ」でもおなじみのハーバート・ロス。おまけにロバート・レッドフォードやロディ・マクドウォールも出ているという、ある意味バーブラ関係者オールスターの映画のようです(筆者はこれに限らず、このアルバムで取り上げられている映画、すべて未見なのですが...(爆))。この曲のラストには"Don't Rain On My Parade(パレードに雨を降らせないで)"のフレーズがかぶりますが(これはバーブラ自身のアイデアによるものだそう)、歌詞自体も"パレードに雨を降らせないで"や"I'm The Greatest Star(私は大スターよ)"そっくりなので一度読んでみてください。アレンジ・指揮はJorge Calandrelli。彼とのコンビでまたアルバム作って欲しいですね。

※制作:Barbra Streisand,Robbie Buchanan(2,7,9 with Barbra),Johnny Mandel(5 with Barbra)

(追記)限定盤のDVDには以下の内容が収められています。
1 Wild Is The Wind
2 I'm In The Mood For Love
3 Song Commentary by Barbra Streisand

(参考リンク)
メドレー試聴
CFなど

■ビルボードアルバムチャート
 2003/10/25: 5位(162,000枚)
 2003/11/01: 9位(72,000枚)
 2003/11/08:19位
 2003/11/15:39位
 2003/11/22:49位※ゴールドディスク獲得
 2003/11/29:75位
 2003/12/06:81位
 2003/12/13:75位
 2003/12/20:75位
 2003/12/27:86位

■第46回グラミー賞ノミネート
   Traditional Pop Vocal Album部門

■RIAA Album Certifications
 Gold: 2003/11/18
 Platinum: 2004/04/16 




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