オリジナル版はブロードウェイのMark Hellinger Theatreで幕を開け、1965年10月17日から280回上演されました。主演のデイジー・ギャンブルはBarbara Harris(映画「ナッシュビル」や「ペギー・スーの結婚」)、相手役のマーク・シャボー博士はJohn Cullumが演じています。「メイム」や「ラマンチャの男」「スイート・チャリティ」という強敵に阻まれてトニー賞こそ獲れませんでしたが、グラミー賞では"Best Original Cast Album"を受賞、音楽としての魅力を評価されています。
作詞はAlan Jay Lerner(1918-1986)。ニューヨークの裕福な家に生まれた彼は、ジュリアード音楽院でLorenz HartとOscar Hammersteinに師事(なんと豪華なメンバー!)。1942年にFrederick Loeweと出会った彼は、"Brigadoon (1954) ","Paint Your Wagon"などで作詞家・脚本家としてヒットを飛ばします。さらにGeorge Bernard Shawの"Pygmalian"をミュージカル化した"My Fair Lady"がブロードウェイミュージカルの歴史を変えるほどの大ヒットを記録。主演のJulie Andrewsとともに彼らの名前を不動のものとします。後にオードリー・ヘプバーンで映画化され、バーブラも"Color Me Barbra"の「顔メドレー」で"I've Grown Accustomed To Her Face"を触りだけ歌っていますが、"Could I Have Danced All Night","On The Street Where You Live"など、ミュージカルファンのみならず、ジャズファンにもお馴染みの曲ばかりです。このミュージカルは1956年の初演以来、2,717回のロングランを誇り、"Hello!, Dolly"にその記録を破られるまで上演回数の記録を保持していました。「晴れた日に〜」の監督であるVincente Minelliとは「恋の手ほどき(Gigi)」でタッグを組み9部門でオスカー獲得。Kurt WeillやAndre Previn,Leonard Bernsteinともミュージカルを作り、ミュージカル界最高の作詞家の一人とと賞賛されています。
作曲のBurton Laneは1912年生まれ。早熟だった彼は15歳よりプロ活動を開始、17歳のときGershwin兄弟の前で自作曲を演奏する機会に恵まれ、さらにはIraの紹介でE.Y. (Yip) Harburgとの知己を得た彼はHarburgと「フィニアンの虹(Finian's Rainbow)」を共作します。このミュージカルからバーブラは"How Are Things in Glocca Morra"を取り上げ、Lernerの"The Heather on the Hill("Brigadoon"より)"とメドレー仕立てにして録音していますが、残念なことに今のところお蔵入りになっています(素晴らしい出来なのでいつの日か正式にリリースしてもらいたいものですが)。LernerとのタッグはFred Astaire主演のミュージカル"Royal Wedding(1951)"が最初、そして二回目のコラボレーションがこのミュージカルです。1997年に85歳で鬼籍に入るまで長らくアメリカ音楽界の重鎮として活躍していた彼ですが、彼の一番の功績は1934年のFrances Gummという少女の発掘でしょう。当時11歳だったその少女はすぐにMGMのエグゼクティブに紹介され、間もなくJudy Garlandとして世界中の人気をさらうことになります。
1.HURRY! IT'S LOVELY UP HERE [2:58]
映画の冒頭。Daisy Gambleが花に話しかけると、あら不思議、花が次々と咲いていきます。そうDaisyは超能力者なのです。この映画のフォトスチルはどうしてもビクトリア調の豪華な衣装を身にまとったバーブラばかりになってしまいますが、この曲でのバーブラは70年代の若い娘相応の「今」の服装でのお出ましです。
2.Main Title - On A Clear Day (You Can See Forever) [2:27]
Bridey Murphyの輪廻転生の話を下敷きにしたと言われているこの映画ですが、Main Titleの映像もサイケデリックな雰囲気で、70年前後の雰囲気を感じさせてくれます。無窮動を繰り返すミニマルな映像とテキストのイメージは、ある意味今のミュージックビデオにも通じる要素を持っています。このコーラス自体はどうしようもなく古臭いですがね(笑)。
3.LOVE WITH ALL THE TRIMMINGS [2:52]
この映画のために書かれた新曲。禁煙治療を頼むDaisyにMarc Chabot博士は催眠術を施します。すると不思議なことにMelindaという別の人格が顔を出します。MelindaはRobert Tentreesという貴族の妻で、MelindaはRobertに会ったときの思い出を語り始めます。
5.GO TO SLEEP [3:00]
新曲。Melindaに興味を持ったChabotはDaisyを食事に誘います。そんなこととは露知らぬDaisyは、Chabotが自分に興味を持っていると勘違いして、彼に恋心を抱きます。婚約者との板ばさみで夜も眠れないDaisyの心の葛藤をバーブラがコミカルに歌います。おすすめ。
6.HE ISN'T YOU [2:14]
ChabotはMelindaにRobertと別れられるかを尋ねます。Chabotとの相性のよさは感じながら、結局MelindaはRobertを選びます。バーブラはDaisyを演じるときとMelindaを演じるときでは全く違う歌い方をしています。特にこの曲と前曲"Go To Sleep"でその違いが分かりやすいので一度聴き比べてみてください。ところでこの曲、オリジナルでは"She Wasn't You"だったようです。Chabotの曲だったのでしょうか?
7.WHAT DID I HAVE THAT I DON'T HAVE? [5:58]
Chabotの留守中に訪れた研究室ですべての事実を知るDaisy。驚き、混乱、悲しみ、怒り。バーブラならではの感情表現が堪能できる曲です。
8.Come Back To Me [4:27]
タイトル曲と並んでこのミュージカルを代表する曲。事実を知ってChabotの元から去ろうとするDaisyをChabotがテレパシーを使って呼び止めようとします。映画ではモンタンが歌っていますが、バーブラ自身の歌唱も"Barbra Streisand...And Other Musical Instruments"の中で聴くことができます。
9.On A Clear Day (You Can See Forever) [2:48]
再びDaisyに会えたChabotは、彼女自身の不思議な能力を自覚し自分の存在の大切さを理解するよう、Daisyに促します。
10.ON A CLEAR DAY (YOU CAN SEE FOREVER) (REPRISE) [2:09]
すべてを受け入れたDaisyは自らの存在を高らかに歌い上げます。作曲者もビックリしたというここでのバーブラの歌唱は、まさしく時空を超えそうなほどの勢いです。
※バーブラが歌っている曲は大文字で示しています。
※ここには収められていませんが、映画では他に"Wait Till We're Sixty-Five"(Larry Blydenとのデュエット)、"Who Is There Among Us Who Knows?"(Jack Nicholsonのソロに合わせてバーブラがハミングする)の2曲が録音されましたが、どちらも監督の判断でカットされてしまいました。 また舞台版で歌われた"Tosy and Cosh","On the S.S. Bernard Cohn","Don't Tamper With My Sister""When I'm Being Born Again"の4曲も映画では使われていません。