バーブラ・ストライサンド アルバム紹介


Hello, Dolly! - Original Motion Picture Soundtrack Album (1969)


1969年の20世紀FOX映画「ハロー・ドーリー!(Hello Dolly!)」のオリジナル・サウンドトラック盤。

バーブラファンの中ではあまり人気のある作品とも思えませんが、日本ではおそらく「ファニー・ガール(Funny Girl)」よりもこちらの方が有名なのではないでしょうか。バーブラがどうこうというより、ミュージカル自体こちらの方が有名ですから。結構テレビでも放映されているので、ご覧になった方もかなりいらっしゃるでしょう。

1964年1月16日、ニューヨークのセント・ジェイムズ劇場で初演の幕を開けたこのミュージカルは、1970年12月27日に幕を閉じるまで2844回も上演され、当時「マイ・フェア・レディ」が持っていたロングラン記録を打ち破る大ヒットとなりました。

1964年といえばバーブラがブロードウェイ初主演作「ファニー・ガール」でセンセーションを巻き起こした年。予想通りこの年のトニー賞は「ファニー〜」と「ハロー〜」の一騎打ちとなりました。8部門でノミネートの「ファニー〜」に対し、「ハロー〜」は11部門でのノミネート。授賞式は10部門での獲得という「ハロー〜」側の圧勝に終わり、「ファニー〜」側はバーブラも含めたった1部門も賞を獲れませんでした。

そんなこんなで何やら因縁めいたものすら感じられるバーブラの「ハロー・ドーリー!」ですが、映画としての出来は「ファニー・ガール」の方が数段上でしょう。60年代のミュージカルとしては最高の2,640万ドルを掛け、ジーン・ケリーというスター監督を迎えた作品ですが、ストーリーの感覚はかなり古く、ミュージカルというよりはオペラ・ブッファかオペレッタかといった感じに仕上がってしまっています。

映画「雨に歌えば」や「巴里のアメリカ人」では華麗なダンスを披露しているケリーですが、監督としてはあまり向いてなかったのでしょうか、ヤンカースの駅やハーモニア・ガーデンでのダンスも野暮ったい感じです(これは一つにはバーブラのダンスのせいもあるかも)。

バーブラにしたってなんやらばばあ臭い雰囲気です。未亡人役ということで、無理に老け込ませたというのはあるでしょうが、バーブラも当時27歳。頭で考えて作った演技だけに、却って単なる「遺り手ばばあ」になってしまったようです。また人気ミュージカルだけに曲自体はとても親しみやすいのですが、それがバーブラと合ってるかどうかは別問題。アレンジのせいもありこれまた単純すぎてバーブラならではの歌いまわしの妙が味わいにくいものになってしまっています。

このミュージカルの作曲者であるジェリー・ハーマン(Jerry Herman)はニューヨークの生まれ。「ハロー〜」以外にも"La Cage Aux Folles"や"Mame"でもトニー賞を獲得しています。彼が17歳のとき、野心家だった彼の母親がFrank Loesser("Guys & Dolls")とのミーティングをアレンジ、彼はソングライティングの道に入ることを決めました。1985年には彼の曲を集めた"Jerry's Girls"というミュージカルレビューがブロードウェイで上演されています。

映画版のスコアと指揮はLennie HaytonとLionel Newman。Hayton氏はジャズ・ミュージシャンとして20年代後半から活躍していた人物で、Lena Horneの旦那またBing Crosbyの音楽監督としても知られている人です。またNewman氏は「紳士は金髪がお好き」や「エイリアン」の音楽監督でも有名な人物。作曲家としても「ドリトル先生不思議な旅」でアカデミー主題歌賞("Talk To The Animals")を受けています。

ところで筆者がこのミュージカルを再認識したのは"Timeless"のロサンゼルス公演でのこと。アンコールで"Before The Parade Passes By"が歌われたとき、あまりに衝撃的だったので思わず声を挙げてしまいましたが、James Brolinという伴侶を得て、残りの人生を幸せに生きて行きたいと願うバーブラの気持ちが痛いほど伝わってきて、そのコンサートで最も心に残る曲の一つとなりました。またラスベガスのInternational Hotelで収録されたエド・サリバンショーでのメドレーも総毛立つほど素晴らしいことを付け加えておきましょう。

ビルボード最高位49位。ゴールドディスク未獲得。

 1.JUST LEAVE EVERYTHING TO ME [3:22] (J. Herman) 
 邦題「私にまかせて」。映画化に際してバーブラのために作られた新曲で映画の冒頭で歌われます。ドーリー(Barbra)の商売上手さがうかがえる、ミュージカルの王道といった雰囲気の曲。

 2.It Takes A Woman [3:03] (J. Herman) 
 邦題「女がいなければ」。身の回りの世話を焼いてくれる美しい女性と結婚したいとホレス(Walter Matthau)たちは大合唱。結婚する男のホンネは所詮こんなもんでしょう。

 3.IT TAKES A WOMAN (REPRISE) [2:13] (J. Herman) 
 アイリーン(Marianne McAndrew)にホレスを紹介しつつ、内心自分がホレスと結婚するつもり満々のドーリー。か弱いと見せかけつつ実は裏で男を操ろうとする強かな女をバーブラが余裕たっぷりに歌っています。結婚する女のホンネも所詮こんなもんでしょうね。

 4.PUT ON YOUR SUNDAY CLOTHES [5:27] (J. Herman) 
 邦題「日曜は晴着で」。ドーリーはホレスが経営する店の店員、コーネリアス(Michael Crawford。あの「オペラ座の怪人」の若き日の姿です)とバーナビー(Danny Lockin)にニューヨークで素敵な女性に会わせることを請け負います。その女性がアイリーンとその助手ミニー(E.J.Peaker)とは知らず、ヤンカースの駅で胸をときめかせ歌い踊る若者二人。休みともなると新しい出会いを求めて都会に繰り出すのは昔も今も同じなんですね。映画のダンスシーンでは今や監督・俳優・振付師として大成したTommy Tune演ずるアンブローズのノッポぶりがひときわ目立っています。

 5.Ribbons Down My Back [2:26] (J. Herman) 
 邦題「リボンをつけて」。アイリーンの帽子店で歌われる曲。

 6.DANCING [3:26] (J. Herman) 
 邦題「ダンスのけいこ」。ドーリーはアイリーンにコーネリアスとバーナビーを大金持ちの御曹司と紹介。ドーリーの画策でハーモニア・ガーデンに行くことになった二人にドーリーがダンスを調教するシーンで歌われる曲。

 7.BEFORE THE PARADE PASSES BY [4:50] (J. Herman) 
 邦題「パレードが通り過ぎる前に」。人の世話ばかりしていずに自分も幸せになろうと改めて心を決めるドーリー。映画中最大のスペクタクルシーンで歌われる曲で、このシーンの取り直しをバーブラが要求したため、20世紀FOXの屋台骨が揺らいだと噂されるシーンですが、大味感は否めません。

 8.Elegance [2:55] (J. Herman)
 アイリーンをハーモニア・ガーデンにエスコートするコーネリアスが歌う曲。

 9.LOVE IS ONLY LOVE [3:07] (J. Herman)
 邦題「恋なんてものは」。ドーリーはどうすれば効果的にホレス夫人に収まれるか夜の作戦を練っています。この曲はもともと「ハロー〜」のために書かれたものではなく"Mame"のために書かれたものですが、バーブラは美しくドラマチックに歌い上げています。

10.HELLO, DOLLY! [7:50] (J. Herman) 
 しばらく前にも某社ビールのCFでサッチモことLouis Armstrongのバージョンが流れていましたね。サッチモのバージョンは1964年にビルボードでNo.1を獲得。その年を代表するヒット曲(年間チャートでも第3位)になりました。ドーリーと結託したガッシー(Judy Knaiz)にハーモニア・ガーデンでひどい目に遭わされたホレスは、美しいドレスに身を包み恭しく歓待されるドーリーの魅力的な姿に心を打たれます。バーブラは余裕たっぷりに歌い演じており、ゲスト出演のサッチモとの共演も楽しいこの曲は、この映画一番のハイライトシーンになっています。 

11.It Only Takes A Moment [4:07] (J. Herman)
 邦題「ほんの一瞬のこと」。アイリーンとの逢瀬がホレスにバレ、首を言い渡されるコーネリアスとバーナビーですが、既にコーネリアスとアイリーンの間には愛が芽生えています。バーブラは歌ってませんが、個人的にはこのミュージカルで一番好きなナンバー。

12.SO LONG DEARIE [2:36] (J. Herman)
 ホレスに求婚されてもいないのに、いきなり自分から「結婚するなんてまっぴらよ」と言い渡すドーリー。大向こうを張ったバーブラの演技性たっぷりな歌唱が面白い一曲です。

13.FINALE [4:16] (J. Herman) 
 当初の目論見通りホレス夫人の座に収まったドーリー。絵に描いたようなハッピー・エンディングです。

※バーブラが歌っているトラックは大文字で表しています。




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