バーブラ・ストライサンド アルバム紹介


A Christmas Album (1967)


今やクリスマスアルバムの定番として名声を確立した感のあるアルバム。事実世界で最も売れたクリスマスアルバムの1つです(アメリカ本国だけで500万枚)。しかし考えれば考えるほど不思議なアルバムではないでしょうか。

まずバーブラがユダヤ人であるということ。クリスマスはいわずとしれたキリストの聖誕祭。宗教に頓着のない日本人ならともかく、先進国の中でも特に信仰心が篤いと言われているアメリカの、そのユダヤ人がなぜわざわざ異教徒の聖歌を歌うのか。

それにこのアルバムが醸し出す雰囲気。鈴の音やバックの混声合唱を聴く限り、これも確かにクリスマスアルバムではあります。でもどうでしょう。このアルバムをクリスマスのディナーのときに流そうと思いますか?あるいは友達とのパーティーでBGMとして流せますか?

筆者的には答えはNoです。そうするにはあまりにもこのアルバムは深いのです。真剣すぎると言ってもいいかもしれません。

筆者が思うにこのアルバムは60年代版の"Higher Ground"だったのではないでしょうか。「クリスマス」という言葉が持つ表象的な意味ではなく、人々が祝いたいもの、思い出したいもの、大切にしたいものの本質を抽出し、これらを「クリスマス」というある意味分かりやすいキーワードで包んで一人一人に差し出したものだと思うのです。

事実、選ばれている曲もクリスマスキャロルばかりというわけではありません。"My Favorite Things"はいわずとしれたミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の中の曲ですし、"The Best Gift"は赤ちゃんへの慈愛に満ちた感謝の曲です。

ですからこのアルバムを聴くのにクリスマスにこだわる必要はないのです。大事な人の誕生日でもいいし、何かの記念日でもいい。折に触れ大事なことがあったときには針を落として、厳かな気分になってください。ビルボード誌ホリデイ・チャート第一位獲得(アルバムチャートでは最高位108位)。

 1.Jingle Bells? [1:58] (new adaptation by M. Paich & J. Gold) 
 聴いているこちらまで手に汗握るようなスリル満点の橇遊び。同時発売された"Simply Streisand"はバーブラには珍しく抑えた作りのアルバムでしたが、こちらはのっけからいつものバーブラ節全開です。シングル「追憶(The Way We Were)」のアレンジで有名なMarty Paichとプロデュ−サーのJack Goldが替え歌部分を作っています。

 2.Have Yourself A Merry Little Christmas [3:14] (H. Martin / R. Blane) 
 邦題「あなたに楽しいクリスマスを」。1944年のビンセント・ミネリ監督の映画、"Meet Me In St.Louis"(邦題「若草の頃」)でジュディ・ガーランドによって歌われた曲。このアルバムでのバーブラ、かなりハスキーですが、"From now on our troubles will be miles away. Here we are as in olden days, haappy golden days of yoke"の歌いまわしは筆者的にかなり好きです。 

 3.The Christmas Song (Chestnuts Roasting On An Open Fire) [4:00] (M. Torme / R. Wells) 
 ジャズ界の巨匠、Mel Tormeによって作られた曲。このアルバムの中で最も「クリスマス的」と言える曲ですが、コーラスが廉っぽく聞こえてしまうのは筆者だけでしょうか...?

 4.White Christmas [3:08] (I. Berlin) 
 これは珍しい。ヴァース付きのホワイトクリスマス。あまりにもビング・クロスビーのイメージが強すぎて、さしものバーブラも歌うのに躊躇したようですが、ヴァースを付けることを条件にOKを出したそうです。

 5.My Favorite Things [3:09] (O. Hammerstein II / R. Rodgers) 
 ミュージカル「The Sound of Music」の中でも最も小粋なナンバーであることから、ジャズ界からJR東海のCFまで幅広く愛されているワルツ。今ではクリスマスシーズンの定番とも言える曲ですが、これがクリスマスの歌として定着したのにはバーブラの影響も大きいのではないでしょうか。

 6.The Best Gift [3:11] (L. O'Kun)
 邦題「一番素敵な贈りもの」。この作者、どこかで見覚えあるなと思ったら"The Minute Waltz"の作詞家なのですね。あんな面白い曲からこんな優しい曲まで書けるとは大したものです。有名な曲に囲まれてついつい聴き逃しがちな曲ではありますが(地味ですし...)、騙されたと思って歌詞読みながら聴いてみてください。このアルバムの前年、1966年12月29日に生まれたJason君への愛情がひしひしと感じられ、温かい気持ちになれること請け合いです。

 7.Sleep In Heavenly Peace (Silent Night) [3:07] (F. Gruber) 
 邦題「きよしこの夜」。ニューヨークはセントラルパークでのコンサートでバーブラがこの曲を取り上げたのが1967年6月17日。つまりバーブラは真夏に「聖しこの夜」を歌ったわけです。このことをずっと筆者は突飛なことのように思っていたのですが(最初に上で書いたように意味合いとしては理解できるのですが)、ある映画を観ていたときにポン!と膝を打ちました。その映画とはキャメロン・クロウ監督の自叙伝とも言える「あの頃ペニーレインと(原題:Almost Famous)」。これは1960年代の終わりから70年代のロックシーンを舞台にした映画なのですが、その中で「真夏にクリスマスを祝おう」という運動が出てきます(ほんの一瞬ですが)。この運動、おそらくは行き過ぎた商業主義から大衆を守るといった意味合いのものだとは思いますが、バーブラの意図とは違うにせよ、このような社会背景もあったということは頭に入れておいていいと思います。因みに当アルバムの天使のようなカバーフォトはこのコンサートのリハーサルで撮影されたものです。

 8.Gounod's Ave Maria [3:26] 
 バッハの「平均律クラヴィーア曲集1第1番ハ長調」にグノーがオブリガードを付けた曲。"Ave Maria"ものではシューベルト(こちらは"Christmas Memories"に収められていますね)と並んで有名な曲です。後にクラシック歌曲を集めた"Classical Barbra"というアルバムを出すバーブラですが、ここでのバーブラはクラシックという枠に囚われず自由な解釈で歌っており、その奔放さは微笑ましくも堂々としたものです。

 9.O Little Town Of Bethlehem [2:58] (new adaptation by J. Gold)
 邦題「ああベツレヘムよ」。今まで書かれたクリスマスキャロルの中で最も美しい曲。ベツレヘムはユダヤ人にとっても(またイスラム教徒にとっても)聖地ですが、バーブラはキリストを連想させる部分を注意深くオミットして(更には歌詞を改変させて)歌っています。 

10.I Wonder As I Wander [3:18] (J.J. Niles) 
 邦題「何故にイエスは」。もともとアパラチアの民謡だった曲をJ.J.Nilesが1945年にアレンジしたもの。しんしんと身に沁みるような静寂が厳粛な気分を盛り立てます。

11.The Lord's Prayer [2:43] (A.H. Malotte) 
 邦題「主の祈り」。1895年生まれのクラシック作曲家Albert Hay Malotte (1964年没)による聖歌。テキストは聖書から取っているようです。筆者としてはアルバム前半より後半の方が断然好きなのですが(特に8曲目以降)、その中でも聴くたびに気分の高揚を禁じえない曲です。最近では「スーパースター・クリスマス」というオムニバス盤にも収められているので、これを機にバーブラファンが増えることを主に祈っているのですが、まだ願いは聞き入れられていないようです(笑)。惜しむらくは録音の悪さですね。




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