バーブラ・ストライサンド アルバム紹介


Simply Streisand (1967)


「小品集」といった趣のアルバム。

デビュー当時の荒削りさや奇抜さはなりを潜め、飾り気のない普段着のバーブラを味わえます。"Simply"というタイトルもこういった肌触りから来ているのでしょうか。

耳に心地よいサウンドを作り上げたのはアレンジャーのRay Ellisと指揮者のDavid Shire。Ellis氏とはThe Third Albumからの付き合いですが、アルバム全体を任せたのはこのアルバムが最初。firstやsecondあるいはMy Name Is...のような渾身の作品というわけではありませんが、滑らかなボーカルと流麗なオーケストレーションは、朝早くや深夜に聴くとヒーリング効果抜群です。

バーブラ名義のアルバムの中ではじめてTOP10に入らなかった(ビルボードアルバムチャート最高位12位)という不名誉な記録を持つアルバムではありますが、これは内容の出来不出来を云々するものではなく、バーブラが映画「ファニー・ガール(Funny Girl)」の撮影に没頭していた間にミュージック・シーンがすっかり様変わりしてしまったということが大きいと思われます。

事実このアルバムからは"Lover Man (Oh, Where Can You Be?)"と"I'll Know"の2曲が"The Concert"で取り上げられるという光栄に浴し、また映画「ファニー・レディ(Funny Lady)」でも"More Than You Know"が取り上げられています。これらのことからもバーブラのこのアルバムに対する愛着ぶりが推測できると思います。

また"My Funny Valentine","All The Things You Are"といったスタンダード曲も沢山入っているので、60年代のバーブラもちょっと齧ってみたいとか、あるいはちょっと友達にバーブラを薦めてみたいんだけど、というときにはぴったりのアルバムだと思います。

因みに、アルバムの内容を見事に捉えたカバー写真はJames Mooreの作品(テレビスペシャル"My Name Is Barbra"向けに取られたもののようですが...)。またThe Sound Of Musicで有名なRichard Rodgersが賛辞を捧げています。 2002年4月24日にゴールドディスク認定。

 1.My Funny Valentine [2:22] (L. Hart / R. Rodgers) 
 1936年のミュージカル"Babes In Arms"からの超有名なナンバー。曲を聴いたことない人もタイトルくらいは聞いたことがあるのじゃないでしょうか。古くにはChet Bakerの歌唱、筆者のような30代半ばのリスナーにはLinda Ronstadtの歌唱も有名ですが、ここで聴かれるバーブラの歌唱もクラシカルな様式美と溢れるような情熱を備えており、聴いているこちらもついついほだされてしまいそうな気分になってしまいます。

 2.The Nearness Of You [3:27] (N. Washington / H. Carmichael) 
 "Skylark"や"Georgia On My Mind","Stardust"といった曲で知られる1899年生まれの伊達男Hoagy Carmichaelの1940年の曲。今をときめくNorah Jonesやバーブラと同カテゴリー(Traditional Pop Vocal Album)でグラミーを争うRod Stewartもアルバムで取り上げているとなると、隠れた今年のヒット曲なのかもしれませんね。「After "He Touched Me"」な感情をバーブラは澄んだ声で甘やかに歌い上げています。からむようなくぐもったトランペットのオブリガードは、耳を押し当てた彼の胸から伝わるささやき声でしょうか。

 3.When Sunny Gets Blue [2:56] (J. Segal / M. Fisher) 
 1960年6月6日。この曲と"A Sleepin' Bee"の2曲を歌って、プロシンガーとしてのバーブラが誕生しました。それはニューヨーク市グリーンウィッチ・ビレッジの西9丁目62番地にあった"The Lion"というゲイバーでのタレントコンテストでのこと。賞金50ドルと一週間のパフォーマンスの権利を得た彼女は、この後一歩ずつしかし着実にスーパースターへの道を歩んでいくことになります。 

 4.Make The Man Love Me [2:26] (D. Fields / A. Schwartz) 
「ブルックリン横丁」の名で映画化もされている小説"A Tree Grows In Brooklyn"のミュージカル版より。1951年初演。 そういえばバーブラ、ブルックリン生まれでしたね。

 5.Lover Man (Oh, Where Can You Be?) [2:52] (J. Davis / R.J. Ramirez / J. Sherman) 
 一般的にはビリー・ホリデーで知られる曲。作者のJimmy Davisは入隊中にこの曲を作って彼女に直接贈りましたが、彼女がレコーディングする(1944年)前に彼はヨーロッパ戦線で戦死してしまったとか。捉えようによってはいろんな解釈ができるこの曲を、バーブラは歳を取って恋愛を重ねてもまだ本当のパートナーを見つけられていないという焦りとともにいらだたしげに歌い上げます。

 6.More Than You Know [3:29] (B. Rose / E. Eliscu / V. Youmans) 
1929年のミュージカル"Great Day"より。ご存知ファニー・ブライスの再婚相手、Billy Roseが作詞しています。と書いていると映画「ファニー・レディ」を思い出しますね。しかしながら歌詞はまんま"My Man"の世界。むしろニッキー・アーンスティン相手のファニー・ガールで使われてもよさそうな感じの曲です。ヴァースからして絶望感が漂ってますし(「ファニー・レディ」のバージョンより暗く聴こえるのはこのせいでしょう)。もう一つ特筆すべきはバーブラの低音。正確に調べたわけではないですが、バーブラがレコーディングした曲の中で一番低い音を出しているのではないでしょうか。

 7.I'll Know [2:47] (F. Loesser) 
1950年のミュージカル"Guys and Dolls"より。古いミュージカルですが、「野郎どもと女達」という邦題で映画にもなっているし、その他にも宝塚公演や1992年からのブロードウェイでのリバイバル公演などで実際に観た方もいらっしゃるかもしれませんね。掲示板の方には前に書きましたが、このミュージカルからは他にも"Adelaide's Lament","I've Never Been in Love Before","Luck Be a Lady"の3曲をバーブラは取り上げており、このミュージカルに対する偏愛ぶりがうかがえます。The Concertでのマーロン・ブランドとのハモリも楽しかったですが、そうなるとこちらのソロバージョンが物足りなくなって、思わず一緒にハモってしまうのは元コーラス部員の性でしょうか(苦笑)。

 8.All The Things You Are [3:36] (O. Hammerstein II / J. Kern)
1939年のミュージカル"Very Warm For May"から。このミュージカル、なんとわずか59回で打ち切られたそうです。春のそよ風のような洒落た感じの曲で、筆者的にはとても好きな曲ですが、世の中で言われるほど複雑な曲に聴こえないのは、バーブラの優れた音程のお陰もあるし、実直なまでにしっかりしたコード進行を持つヴァースから歌っているということもあるのでしょうね。
 
 9.The Boy Next Door [2:50] (H. Martin / R. Blane) 
1944年のビンセント・ミネリ監督の映画、"Meet Me In St.Louis"(邦題「若草の頃」)の中で、主演のジュディ・ガーランドにより歌われた曲。歌詞の中で住所がうまく使われていて、ミュージカルならではの面白みのある曲です(「私はケンジントン・アヴェニュー5135番地に住んでいて彼は5133番地(筆者注:隣に住んでいるということ)だというのに、なんの望みもないなんて」みたいな)。またこのアルバムと同時に発売された"A Christmas Album"には同映画から"Have Yourself a Merry Little Christmas"も収められています。

10.Stout-Hearted Men [2:43] (O. Hammerstein II / S. Romberg) 
ミュージカル"The New Moon"より。邦題「意志強き男達」。webによると慶應ワグネルの愛唱歌になっているようですね(なんとマッチョな...)。聴いている分にはこちらも胸がスカっとするのですが、フェミニストで名高いバーブラがなぜこの曲を取り上げたのでしょうかね。まだpolitically correct的にもうるさくなかった時代でしょうから、men=peopleとして捉えていたのでしょうか...。

補足:このアルバムセッションで"Willow Weep For Me"も録音されたようです。聴いてみたいですね。 




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