バーブラ・ストライサンド アルバム紹介


Je m'appelle Barbra (1966)


このアルバム、正直あまり聴いてなかったんです。フランス語だし(おいおい)。
でもレビュー書くために聴き直してみたら、このアルバムもすごいじゃないですか!

何がってMichel Legrandのアレンジがすごいんですよ。"シャンソン"というとなんとなく古臭い感じを思い浮かべませんか?しわがれた声のおばあさんがアコーディオンの伴奏にのせてメロディーともセリフともつかない歌詞をつぶやく、みたいな(偏見であることは重々承知しつつ)。でもこのアルバムで聴ける音は古びていないばかりか、今聴いてもそのアヴァンギャルドさに驚かされるくらいです。嘘だと思ったら"Speak To Me Of Love"や"Once Upon A Summertime"を聴いてみてください。

そのミシェル・ルグランは1932年2月24日パリ生まれ。バーブラファンにとっては「愛のイエントル(YENTL)」の音楽でおなじみ中のおなじみですね。ソンドハイムと並び最もバーブラと相性のよい作曲家だと考えるのは筆者だけではないでしょう。パリ高等音楽院を首席で卒業後、ジャズ/映画・舞台音楽/ポピュラー音楽とクロスオーバーに活躍し、65年に『シェルブールの雨傘』がアカデミー3部門にノミネート("The Hollywood Album"で取り上げてくれないかしら。でもフランス映画だから駄目か(-_-;))。ちょうどその頃、Peter Danielsに変わる音楽監督を見つけようとしていたバーブラの目に留まり、めでたくこのアルバムの制作となったようですが、この辺り、バーブラって本当に目敏いですね。

このアルバムは最初は2枚組として企画され(1枚はフランス語only、もう一枚は英語とフランス語のちゃんぽん)、1965年の秋に始まったレコーディングセッションは66年の秋まで断続的に続きました。結局このアルバムに収められなかった"Les Enfants Qui Pleurent"と"Et La Mer"はヨーロッパだけの4曲入りシングルに収められ、"Look"は"Stout-Hearted Men"のB面としてリリースされました。

その他にもこのアルバムには一流のアーティストが集結。まずカバー写真はあのRichard Avedon。ベルサーチやVogueの写真で有名ですね。最近では宇多田ヒカルの写真も撮ったとか?。またライナーノーツはモーリス・シュヴァリエ(Maurice Chevalier)が書いています。近頃亡くなったEddy MarnayはCeline Dion関係でも有名な作詞家です。

ここまで見事な人々が作り上げたバーブラ初の外国語アルバムでしたが、セールス的には残念な結果に終わり、ゴールドディスクを獲得するまでに36年掛かっています(ビルボード・アルバムチャートでは最高位5位。それでも外国語アルバムとしては健闘らしいのですが)。

あくまでも私見ですが、ポピュラリティを得られなかったのは、フランス語ということもさることながら(なんせアメリカ人は世界で一番外国語のできない国民ですからね)、ルグランの素晴らしすぎるサウンド・プロダクションにあったのではないでしょうか。ある意味難解ですし。でもだからこそ飽きが来にくいともいえるのですが...。

でもこのアルバム、やっぱりバーブラ上級者編ってことにしておきましょうかね。このアルバムにたどりつく前にもっと先に聴いておかないといけないアルバムが沢山ありますから。

あっ。因みにタイトルは「私はバーブラ」という意味です(どこまで主張なされば気がお済みになるのかしら(苦笑)。

 1.Free Again [3:43] (R. Colby / M. Jourdan / A. Canfora / J. Baselli) 
 バーブラが"Color Me Barbra"で紹介した"Non C'est Rien"の英語バージョン。しかし出来は絶対"Non C'est Rien"の方が上。原語の音韻って大切です。

 2.Autumn Leaves [2:50] (J. Mercer / J. Prevert / J. Kosma) 
 原題"Les Feuilles mortes"。日本でも「枯葉」として超有名な曲です。最近では椎名林檎も「唄ひ手冥利〜其の壱〜」で取り上げてましたね。第二次世界大戦後すぐにフランス最高の現代詩人の一人、ジャック・プリヴェールによって書かれました。シンプルなバイオリンの伴奏に載せたバーブラの抑制の効いた歌唱が美しいです。しかし28回も取り直したそうで、レコーディングセッションに入るまでは仲のよかったルグランもさすがに愛想を尽かしたとか。バーブラの完璧主義を物語るエピソードの一つです。

 3.What Now My Love [2:41] (C. Sigman / P. Delanoe / G. Becaud) 
 原題"Et maintenant"、邦題「そして今は」。「ナタリー」や丸山明弘(現美輪明弘)でヒットした「メケメケ」で日本でも有名なフレンチシンガーソングライター、ジルベール・ベコーの曲。この曲だけRay Ellisが編曲しており、このアルバムの中でもっともとっつきやすい曲の一つと言えます。バーブラの歌唱もダイナミックでスカっとします。

 4.Ma Premiere Chanson [2:19] (E. Marnay / B. Streisand)
 バーブラが初めてペンを取った曲。 1964年作曲。シンプルな伴奏の中に美しいメロディーが浮かび上がります。ライナーノーツに英訳が載っていたので転記しておきます(いいのか?)。邦題「私の初めてのシャンソン」。
"One finger on a piano, my voice around some words, I played with your name and a song was born. In my hands your heart and mine... That old piano takes me back to the first day of my first love. When each second held your name... And then I found... My First Song." 

 5.Clopin Clopant [3:10] (B. Coquatrix / P. Dudan / K. Goell) 
 タイトルは「足を引きずって歩く」くらいの意味。フランスでは悲しそうに歩く人をクロパン・クロパンと言う...。

 6.Le Mur [2:34] (M. Vaucaire / C. Dumont) 
 このアレンジもすごいです。だってボレロですよ、ボレロ。ってまぁそりゃフランスはラベルが生まれた国ではありますが。因みにタイトルは「壁」という意味。「ばら色の人生」「愛の賛歌」で有名なエディット・ピアフのために書かれた曲ですが、歌われること無くピアフは死去(1963年)。バーブラがシャンソンのアルバムを企画していると知った作家チームがバーブラが歌うまで取っておいたという曰くつきの曲です。しかしここでもDIVAの交代劇があったんですね。歴史って不思議です。

 7.I Wish You Love [3:01] (A.A. Beach / C. Trenet) 
 原題"Que reste-t-il de nos amours?"、邦題「残されし恋には」。ちょっとキャバレー的なノリのある曲です。

 8.Speak To Me Of Love [2:52] (B. Sievier / J. Lenoir) 
 原題"Parlez-moi d'amour"、邦題「聞かせてよ愛の言葉を」。1930年の曲。作者のジャン・ルノワールは映画監督で印象派画家ルノワールの次男。上でも書きましたが、この曲のアレンジ、ほんとにすごいです。特に"Such thrilling love and happiness"から"Parle moi d’amour"に移るところ!。耳を澄ませて聴いてみてください。

 9.Love And Learn [2:29] (N. Gimbel / E. Marnay / M. Legrand) 
 原題"Qui es-tu"。この曲でのバーブラ、ちょっと気張りすぎかな。特にラストが金属的です。

10.Once Upon A Summertime [3:37] (J. Mercer / E. Marnay / M. Legrand / E. Barclay) 
 原題"La Valse des lilas"、邦題「リラのワルツ」。この曲には英語詞の和訳(?)タイトルもあって、そちらは「ある夏の日の想い」と言うそうです。原題の通り今度はワルツですが、金管楽器が奏でるけだるい感じが夏の午後を感じさせていい感じです。しかし22歳でこんなしゃれた曲が書けるとは、ルグランって早熟だったんですね。

11.Martina [2:21] (H. Shaper / M. Legrand) 
 原題は"Les Enfants Qui Pleurent"で「泣く子供」くらいの意味。"Martina"はその泣いている子供の名前。子供の頃に愛に飢えた子供は大人になっても愛を得ることができないといったかなりシリアスな歌詞。アダルトチルドレンを先取りしたような内容です。

12.I've Been Here [2:31] (E. Shuman / M. Vaucaire / C. Dumont) 
 6曲目の"Le Mur"の英語バージョン。これも筆者的には原語バージョンに軍配を挙げますが、みなさんはいかがですか?というか、同じ曲入れるくらいだったら別の曲入れろよな。ボーナストラックじゃないんだから...。




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