安彦良和

『虹色のトロツキー』

潮出版社 1992-1997

安彦良和といえばガンダムに代表されるアニメの人という印象があったので、「虹色のトロツキー」もまたロボットが出てくるのかと思ったら、さにあらず。単なる漫画好きにはついていけないくらいアカデミックな知識を必要とされる内容の漫画だ。

建国大学を研究対象にしようとしていたものの、なかなか踏ん切りがつかなかった東京の某文学部教授は、この漫画を読んでやっとやる気になったという実話がある。

漫画としては、はっきり言って成功していないが、取材が綿密なので結果的に力作に仕上がった。

石原莞爾、甘粕大尉、辻政信、川島芳子、李香蘭といった有名人についてはもちろん、ちょっとしたチョイ役でさえ当時の満州に実在した人たちだったりするところがスゴイ。

「満州建国大学」は、満州に「王道楽土」「五族協和」の王国を作ろうとした日本が、新京(長春)に建てた「満州国」の国策大学だ。

「王道楽土」「民族協和」なんて、侵略のためのタテマエというのは今から見ると明らかだが、しかし当時、本気でそれを理想として勉学や研究に励んだ人は意外に多い。大学じたいも、ガンジーやトロツキーを招聘しようとしたくらい気合いの入ったものだった。

今となってはちょっと信じられないが、当時「王道楽土」「民族協和」という理念は、それなりに根拠のあるものだったからである。

いまのところ建国大学を研究している人は少ないが、宮沢理恵子氏の『建国大学と民族協和』(風間書房1997)にその詳しいところが書かれている。

わたしも個人的にこの建国大学を研究しているのだが、『虹色のトロツキー』は読み返すたびに新たな発見をみつけることができるので、読んでいてとてもためになる。