一風変わった、ユニークな上海のガイドブックである。
「旅行ガイド」なんだから、まずは、バンド、南京路、フランス租界など、ANA提供「私的チャイナビ」的な定番観光スポットの案内からはじまる。
そのへんのお約束は、はずしていない。
しかし、である。
このガイドブックのナビたちは、そこから自分たちの興味の世界へと読者を連れていってくれるのだ。
フツーの観光客の行きそうもない、ローカルなエリアへと。
たとえば、上海北部の戦跡や、蘇州河ぞいの貸しアトリエ、格安のクラシックホテル、ボルシチを作ってくれる上海おばあちゃんのうちなどである。
また、装丁や帯で、租界時代の上海へのタイムスリップ旅行をアピールしているとおり、著者たちのオールド上海へのこだわりは一級品である。
そうかとおもうと、著者たちは、ふっと、ちがう顔をのぞかせてもいる。
[上海バンドは] いま「中国」とか「上海」とかいう「意味のしみこんだ場所」ではなくなって、利潤を求めて世界を縦横に運動する巨大資本のための「おいしい」発展空間となっている。こうして上海の30年代は、もはやレトロ感覚消費の対象などではなく、その「欲望のるつぼ」としてのリアルな意味合いをもって今よみがえる
とか…
「オールド上海」というキーワードはなかなかカネになるようで(中略)ここ数年の日本の昭和ブームと同じく、人の懐古趣味につけこんだ商売は立派に成立するということをここ上海では身をもって体感できる
とか…
もし上海に住めるなら(中略)貧乏だけれど自由で、スタイリッシュな生活を味わいたい。
とか。
要するに、この本の著者たちは、オールド上海にハマリながらも、一方で、ノリつつ冷めつつ、いまの上海を素で愉しんでいる感じがする。
そういうスタンスの執筆者たちだから、関心もあれこれにおよび、上海のもつ新旧、清濁の混交ぶり、猥雑ぶりがよく伝わってくるのだろう。
写真・地図のセレクション、レイアウト、装丁もいい。