甘粕正彦と日中映画「交流」

山口猛

『幻のキネマ 満映 甘粕正彦と活動屋群像』

平凡社 1989.08

1937年7月の廬溝橋事件から、日本は中国侵略を拡大しはじめる。その翌月、上海で第2次上海事変が発生する。

ちょうどそのころ、北の「満州」では、「満州建国精神の普及徹底」を目的に、国策会社・満州映画協会が作られていた。略して、満映である。

ナチスドイツが映画をプロパガンダに利用していたことにヒントを得て、日本もひとつ政府が映画を統制し、戦時体制に利用してやろうということだった。

1939年11月には、甘粕正彦が満映の理事長に就任する。映画「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じていた、あのあやしい男である。

本書は、その甘粕を中心に満映の実態が描かれている。

「ラストエンペラー」では坂本龍一が銃で自殺するシーンがあるが、実際は青酸カリを用いた服毒自殺であった。本書には、その様子も描かれている。また、甘粕が関わっていた謀略も、いくつか触れられている。

では、満映は、帝国主義と謀略の機関だけであったのかというと、そうは言い切れない側面もある。

そこには、日中映画関係者の交流があった。また、国内の映画統制から逃れた日本の映画人が、中国人に映画製作技術を伝えたという事実もある。

そうした側面を語ることは、多分に日本人の手前ミソではある。なんといっても、暴力的で差別的な占領下でのことなのだ。

しかし、そういった状況下で、映画人たちはどのような交流をしていたのか。そこにはどのような人間模様があったのか。それはそれで、興味深い話ではある。

本書には、関係者とのインタビューやかれらに提供された資料をもとに、当時のようすが丹念にまとめられている。なかにはすでに亡くなった方たちも多く、この本自体、とても貴重な資料といえよう。