戦後、すぐ帰国できなかった日本人の話。

古川万太郎

『中国残留日本兵の記録』

岩波書店[同時代ライブラリー203]、1994.10
(初版は『凍てつく大地の歌』三省堂、1984)

太平洋戦争が終わって、植民地だった朝鮮半島や中国大陸から、多くの日本人が帰国した。

しかし、ソ連に捕らわれ地獄のシベリア送りになった者や、大陸で戦犯として拘留された者など、すぐさま帰国できなかった者も多かった。

中国に残った者の引き揚げは、結局、1950年代の半ばまでかかった。

その間、共産党軍に組み込まれ、国共内戦の後方部隊で働いた日本人もいた。こうして引き留められ役務に使われたことを「留用」という。

本書は、そうした、留用された残留日本人の姿を描いている。

かつての侵略者が敵国に残ったわけだから、さぞかし悲惨な虐待を受けているかとおもえば、そうではない。意外なことに、礼儀正しい共産党・八路軍のなかで日本人は優遇される。

そして、残留日本人は、国共内戦を戦う共産党軍に協力するうちに、かれらの思想教育に触れ、清廉さ・一途さ・礼儀正しさに感銘を受け、中国人への見方を変えてゆく。

よく、戦犯収容所で洗脳がされたというようなこともいわれるが、それでもない。むしろ、日本軍が暴力的な「上意下達」であったのに対して、共産党軍は押しつけの教育をしなかった。「自願原則」。すなわち自分から望んで聞く姿勢ができるまで、なにか強制的に教育しようとはしなかった。

こうした経験を経た日本人は、中国に共感や恩義を感じるようになって帰国した。そして、日中友好のために奔走することになる。

口さがない人にいわせれば、それは中共に洗脳されたのだとか、親中派を育てて帰国させるという中国のうまい戦略だったのだとか、いろいろな言い方もされよう。しかし、それもまた一面的な見方に過ぎないという思いを新たにさせられる一冊である。