「鈴原の手」


私は最初鈴原のことが嫌いだった
入学して一月で制服からジャージに変えて
週番もちゃんとやらなくて、、、

私の鈴原に対する見方が変わったのは
入学して3ヶ月くらいたった、あの日の出来事、、、


「はぁ、、、」

私は学校の図書室に本を返すの忘れちゃって学校に行った
日差しはぎらぎら射してて本当に嫌な日
毎日のことだから慣れたと言えば慣れたんだけど
やっぱりそばかすのことは心配しちゃう
これ以上増えたりしないよね?


私は校則違反と分かっていても
その日は授業が目的じゃないし帽子を被って学校に行った

本を返すこと自体はすぐ終わった
問題が起きたのはその後

学校の帰り道スーパーでも寄ってから帰ろうかと思ったら
急に強い風がふいて帽子が木の上にひっかかってしまった
壁とか使えば何とか登れそうだけどスカートでそれはちょっと、、、

太陽は憎いぐらい強いからやっぱり帽子は欲しいし
あの帽子は誕生日にお父さんに買ってもらった帽子
スーパーの帰りに見つけてすごく欲しくなって買ってもらった帽子
私は回りに人がいないのを確認してから木に登った

「う、、、」

結構高いところに、しかも枝の先にひっかかってるから登ったあと後悔した
怖くて取りにいけないし、怖くて降りられない
私はそこで固まってしまった
ど、どうしよう、、、


「委員長、何やってんのや?」

「す、鈴原?
 きゃ!」

下から私を呼んでいたのは鈴原だった
私は今まで枝を掴んでいた手を離してスカートにやり、バランスを崩した


「委員長!」

私の世界はスローモーションになった
ひっくり返る世界
木の間から射す太陽の光
少しずつ遠ざかる私の帽子、、、
落ちていることすら私は分かっていなかった


一瞬後私は何かやわらかいものの上にいた
帽子はもうあんなところにある

「大丈夫か、委員長?」

私は鈴原にお姫様だっこされていた
急に今の状況がわかって顔が真っ赤になる


「う、うん、、、」

「立てるか?」


私はひとつ頷いて鈴原に下ろしてもらった


「委員長、帽子取ろうしてたんか?」

「う、うん」

「お兄ちゃん、取れる?」

鈴原の隣には妹さんがいた
このときの私は鈴原に妹がいるなんて知らなかったから聞いてみた


「鈴原、、、君の妹さん?」

「はい、鈴原ミサキです」

鈴原とは違って礼儀正しい子でちょっとびっくりした


「私は洞木ヒカリ、よろしくねミサキちゃん」

「よろしくお願いします
 、、、お兄ちゃん、ヒカリお姉ちゃんのお帽子取ってあげて」

「そやな
 委員長、ちょっと待っとってや」

「う、うん」

鈴原は私があんなに苦戦した木をあっさり登って
枝の先の危ないところまで行っても何事もなかったかのように帽子を取って
その後、降りてくるのかな?って思ってたら飛び降りてきた


「ほい」

「あ、ありがとう、、、」

「委員長、女子が木になんか登ったらあかん
 こういう仕事は男の仕事や」

「う、うん、、、」

「今度何かあったらわいを呼べや
 絶対わしが何とかしてやるさかい」

「う、うん」

「じゃ、わいらは帰るわ
 ほなミサキ、行くで」

「あ、ちょっと鈴原、、、」

「どないした?」

「きょ、今日何してたの?」

「ああ、ミサキとミサキの友達を連れてプール行っとったんや
 こいつらまだガキやさかい、保護者がおらんとプール入れんのや」

「そ、そうだったんだ、、、」

「ほな、わいらは行くで」

「ヒカリお姉ちゃん、さようなら」

ミサキちゃんはそう言って鈴原と手をつないだ


「あ、バイバイ、ミサキちゃん」

私も帰ることにした

その日から私は鈴原の手をたまに見るようになった

落ちた私を受け止めてくれた優しい手
ミサキちゃんを安心させる優しい手

初めはちょっとしか気にならなかったけど
気がつくとあの手に憧れていた
いつの日かミサキちゃんのように、、、って言ったら変だけど
鈴原と手をつなぎたいと思った
あの大きな手で私を守って欲しいと思うようになった


でも、もちろんそんなこと素直に言えるはずがなくて、、、

「鈴原、週番でしょ!
 ゴミ、捨ててきなさい!」

私は委員長の肩書きを使って鈴原の手に甘えるようになった、、、