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山賊・ベット際の攻防 R&S編
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碇ゲンドウが風邪をひいた。………いやその、いい気味だ苦しんどれ! 等と言われると流石に哀れだが。
ここしばらく、激務が続いた。まあ、MAGIシステムの完成が間近となればそれも仕方ないことなのだが。とにかく、如何に鬼畜外道の腐れ野郎と言えど、あんまりそうは見えないが一応生身の人間である。鬼神でも魔物でも、怪獣でも妖怪でもない、宇宙人でも地底人でもないし、ガイア人でもバイストンウェル人でもない………と思うが………とにかく何にせよ、どちらかと言えば人間らしい生き物なのだから、風邪をひくくらいはあるわけだ。
それよりも問題なのは、ゲンドウの看病をする物が一人もいない。まさにそこであった。 |
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ベット際の死闘 R&G編
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鬼の霍乱と言うのがぴったりという気がするが、ゲンドウが熱を出した。責任者のくせに自己管理がなってないと言われればそれまでだが、彼の周りには優秀なスタッフが揃っているので、まぁ一日や二日はなんとかなるのである。
が、彼の片腕とも言うべき冬月コウゾウは会議と書類処理に忙しく、ブレーンたる赤木ナオコはMAGIの最終調整のためその中央制御室、通称「ナオちゃんのマッドルーム」に篭もりっぱなし。その他の職員はさわらぬ神に祟りなし、と職務を理由に傍観を決め込んだ。………つまり彼の看病をする物好きは一人としていなかったわけだ。………彼女を除いては。
頭痛が収まらない。人類補完計画の要、新たなる人の歴史を紡ぐ者などと自負した所で、所詮私も人の子だったかと、妙に感心しながらゲンドウはジオフロント内の自室で横になっていた。
そういえば、ユイがそばにいた頃に風邪をひいたことなど無かった。もしあの頃風邪をひいたら、つきっきりの看病に始まり、風呂に入れない代わりに体を拭いて貰ったり、お粥ふーふー食べさせて貰ったり、キスやら添い寝やら、あーんなことや、こーんなことまで楽しめたものを!! おおぅ、ユイ、かむばっくっ!! などと、ホントに具合悪いかと疑いたくなることを考えているのだからこの外道は侮れない。さらに頭痛に顔をしかめながら横になっている様は、なさせないと言う以外にない。
独特の音を立て、突然ドアが開いた。音に振り向けど、そこには誰の姿もなく、ただドアが無機質に閉じるだけ。訳が分からないが、それが大した意味を持つわけでもない。ゲンドウは一度ドアをにらみつけた後、天井を見上げた。
と、突然天井に変わって紅い瞳がドアップであらわれた。レイである。
「………レイか………」
と、静かに名を呼んでみたが内心ものすげービビってたりする。口から心臓が飛び出しそうだったゲンドウであった。
レイはただじっとゲンドウを見つめる。ゲンドウは体を起こすとレイに向き直り、本人は至って優しく、他人から見ればロリコン親父そのものの口調で語りかけた。
「風邪が移るといけない。他の所で遊びなさい」
その言葉にレイはぷるぷると首を振る。………やべぇ、可愛いでやんの。案の定ゲンドウは今にも抱きしめて頬摺りしたいと言わんばかりの眼をしている。その頭の中は危ない妄想で一杯だ。レイピンチ!
だがゲンドウが危ない妄想を実現しようとした瞬間、レイはぽんっとベットから降りて部屋から駆け出していった。………無様にベットから転げ落ちたゲンドウを後に残して。
「………レイ?」
カッコ付けた台詞を吐く前に、その情けない格好をどうにかしろ、ゲンドウ!
レイは走っていた。司令を救えるのは自分しかいないという使命に動かされて。ちなみに、その思考順序だが。
1・司令が遊んでくれない
2・風邪をひいたから遊んでくれない
3・風邪が治れば遊んでくれる
4・風邪を治すには看病すればいい
………いささか単純な気もするが、幼児の考えることである以上、まぁ、こんなもんだろう。
看病の仕方は、MAGI(プロトタイプ思考バージョン)から調べだした。そこにあった風邪をひいたときの対処の仕方は、
1:保温
2:保湿
3:水分の補給
4:頭を冷やして足を暖める
5:安静にする
であった。………何ぞ家庭療法全集に載っているような感じの大雑把な知識じゃのう。一体どういうデータが集められているのだろう? ………謎だぜ、MAGI(プロトタイプ思考バージョン)。
さらにとんでもないことに、レイは五箇条の意味をほとんど理解できなかった。………仕方ないことなんだ、まだお子様なんだから漢字が読めないくらい仕方のないことなんだ。それ故に、解らない漢字を誰かに読んで貰おうとした。
この時レイの脳裏によぎった人物は二人。その内一人はドアを叩いても、部屋からでてくることはなかった。ドアを叩いてから、待つこと僅か2.78秒でレイはその場を立ち去った。………いや、もちっと堪えた方が良かったんでないかい、レイちゃん? ………ほら。
「きぃいいいいいいい!!! 誰よぉおおおお、うるさくって集中できないじゃないのぉぉぉぉ!!! そぉおおんなに………………殺・さ・れ・たい? ………………誰もいない………………うがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
………………やっぱり、とっとと行っちゃて正解だね。うんうん。
あ、さて。怒り狂うマッドルームの主を後目にパタパタとレイが目指したのは、当然の所ながらあの方の部屋であった。
そしてその時じーさん、もとい、冬月コウゾウは熱で倒れたゲンドウの煽りを目一杯喰らっていた。
「まったく………碇の奴め。………いつも私に面倒を押しつけよって」
愚痴の一つもでようと言うものだ。この三日、通しての睡眠時間が一時間二十八分十二秒。ようやく完成した資料をゲンドウに渡せば、それで一段落。後はゆっくり休めるはずだったのだ。それなのに、嗚呼、それなのに、倒れたゲンドウの分の日常業務の処理にゲンドウがためていた書類の決裁、さらにこの後には委員会との会議が控えている。………………合掌。
「………………ふぅ」
老眼………眼鏡を外して目頭を揉みながらため息を付く。ふと気配を感じて振り向けば、そこには紅い瞳のアップがあった。
「………何だ、レイではないか………どうしたのかね、ん?」
おお、流石わ副司令。レイのアップにビビリもしない。亀の甲より年の功だね。………しかし………やはり何処かでレイを「彼女」と重ねているのか、口調が甘い。ほとんど孫が可愛くてしょうがないおじーちゃんモードである。
そんなことにお構いなく、レイは無造作に持っていたプリントペーパーを差し出した。
「ん? ………どれ」
眼鏡をかけなおしながら渡されたペーパーに目を通す。もちろんそこに書かれているのは、件の五箇条である。
「………読んで」
淡々とレイ。表面上厳粛な顔をしているが、コウゾウさんは舞い上がらんばかりであった。レイが自分に物を尋ねに来たと言う事実は彼の中で、可愛い孫が信頼する祖父を頼ってきたと言う幻想に取って変わっていた。
先ほどのレイの素気ない台詞も、「(モジモジ)………読んで(ハァト)」に聴こえているのだから始末に悪い。………ホントに始末悪りぃぞ、おい!
「どれどれ?」
顔! おい、そのにやけそうな、ひきつってそうな、訳のわからん顔を何とかせい!!
「これの意味が分からないのかね?」
こくこく。とうなずくレイ。
「うむ、それでは教えてあげようか」
こくこく。
「まずこの保温だが………これは暖かくすることだ」
こくこく。………ふむ。
「そして保湿、これは………そうだな、お風呂のように湯気が沢山のことだ」
こくこく。………おい。まて、それは少し違わないか?
「水分の補給とは、沢山水分………飲み物を飲むことだ」
こくこく。………これは、まとも………かな?
「頭を冷やして足を暖める。これはその通り頭を氷などで冷やして、足は暖かくすることだな」
こくこく。………って、まんまやん。
「安静にする………まぁ、動かないで静かにしていることだな」
こくこく。………間違っているとは言わんが、何か違うような気がする。
「それで、レイ? こんなことを聞いてどうするのか………いない」
え? ………あ、ホントだ、もういない。
「ふむ………仕事に戻るか………」
背中に哀愁が漂ってるな。………ま、がんばってくれたまえ。レイが出ていくときに開いたドアが閉まるとき、コウゾウはため息と共に呟いた。
「碇め………レイの看病などと………羨ましい」
………聞かなかったことにしよう。
「この私が苦しんでいるというのに、誰一人として見舞いに来ないばかりか看病すらない。こう言うときこそ点数稼ぎやら何やらでメロンだのバナナだの持ってくるもんだろう。………さては冬月の奴が上前をはねているのだな。ううむ、せこい奴だ。大方この前奴の大福を黙って食べたことを根に持っているに違いない。………となれば取るべきは一つだな。また委員会の相手と書類の決済に市議会への対応に、その他諸々の雑務を押しつけてやる。ふっ………私に逆らう愚かさを呪うが良い、冬月」
………な訳ねぇじゃん!! そういうこと言ってるから、この後不幸な目に遭うのだよ。ケケ。
さらにぶつぶつと、ベットの中で壁を見ながら逆恨み言を呟いているゲンドウであったが、ふと殺気を感じてドアの方に目を向ければ、そこにあるのは紅い瞳のアップ。
「………レイか………」
等と冷静を装っているが、ちょっちちびってしまったゲンドウである。………マジ怖いぞ。
「どうした、レイ」
やっぱり心臓バクバクさせながら、レイに(本人は真剣に)優しく(無論、他人から見ればロリーそのままに)問いかける。しかし、レイは問いに答えずエアコンの出力を最強にセットした。冷房のままで。
当然、部屋の中はゴンゴン温度が下がっていく。ゲンドウはタオルケットをかき寄せながらレイの行動を見ている。レイは小首を傾げた。………エアコンに暖房/冷房の切り替えスイッチがあることを、知らなかったのね。
「………レイ?」
呼ばれてゲンドウを見つめるレイ。とにかくゲンドウがタオルケットをしっかり体に巻き付けているのを見て、暖かくしている………つまり保温を行っていると納得した。………………納得しちゃったよ、この娘。
「レイ?」
震えながら問うゲンドウの声を完璧に無視しながらレイは考え込んだ。
問題1:この部屋をお風呂のように湯気が沢山にするにはどうすればいいか?
………なかなかに難しい命題だな。常識的に考えれば、お湯を張った洗面器という古風な物から、加湿器という文明の利器まであるなのだが。
この時レイの脳裏に浮かんだ物は、この間MAGIシステムの実験を見学したときに見た、液体に漬けると白い湯気のような物を大量に出す冷たい物体………つまりドライアイスだった。………そりゃ、確かに白い湯気みたいな物は大量に発生するけどね。それは止めておいた方が………………って、もういないし。
音もなく部屋を飛び出ていったレイを不思議に思いながら、ゲンドウはエアコンのスイッチを切った。………不思議に思ったのなら、この時点で何か行動を起こすべきだったのだよ、ゲンドウ。可愛いからまあ良い、なんて考えているから………ほら見ろ、レイが帰ってきた。台車に山のようなドライアイスをのっけて。って、何処から調達してきたんだ? NERV………何処までも謎の組織だ。
部屋に戻ってきたレイは、エアコンのスイッチが切られていることを見て取ると、じっとゲンドウを見つめ始めた。ただひたすらに見つめ続けるレイ。真摯なその眼差しは、まるで映る者のやましい心を貫くかのようだ。
ゲンドウの背筋に戦慄が走る。まさに、ヘビに睨まれたイボガエル状態。
「………レイ」
かすれる声で呼びかけるが、レイ、無言。
「………レイ………」
じぃー。っと、無言。
「………………レイっ………」
さらに無言。
「………れ………レイぃ………」
ゲンドウ、すでに半ベソ。それでも、無言。ついにゲンドウは、重々しく、情けない声を出した。
「分かった………反対する理由はない。………やりたまえ、好きなように」
ザ・敗北宣言。コクコクコクとうなずいたレイは、再び冷房を全開にする。涙をのんだゲンドウが、タオルケットをかき抱いて横になるのをチラっと確認したレイは、運んできたドライアイスを台車ごと部屋の隅に置き、何処からか引っ張ってきたホースで水をかけ始めた。
水を浴びたドライアイスは気化を始め、辺りを盛大に白く染めていく。と、ここまでは良かった(?)のだが、まだ小さいレイにとって、ホースの水流は強力すぎた。初めは台車を狙っていた水流は、徐々にそのあぎとを移し始める。
レイは懸命に押さえ込もうとするが、悲しいかな、幼児の筋力ではかなう相手ではない。ホースは波打ち、水流は部屋中に乱舞する。押さえ込むことを諦めたレイは、ホースを蛇口からひっこぬくべく、必死に手繰り始める。その間にも、迸る水は部屋中を濡らしていく。壁も、床も、天井も、ゲンドウも。
ようやくホースがひっこぬかれ、暴れる水流がなだめられたとき、全てが水浸しであった。そんな中、レイのみが水滴の一粒も浴びていないのは、奇跡(御都合主義)としか言ようがなかったりする。
それでも、当初の予定通り(?)部屋中を白い気体で満たすことに成功した。………一応。レイの膝の辺りまで白く染まった室内は、まるで雲の上のようで。レイが動く度に、舞うように白い軌跡を描くことが幼子には珍しくも、嬉しい。まるで天使のようだ………とは、濡れネズミのゲンドウの言。………まだ、余裕あるじゃん?
「………レイ………何を求めているのだ、お前は………」
って、かっこつける前にその情けなさ過ぎる今の姿を自覚せい!! レイは………またいない。何処行った? ………あ、戻ってきた。また台車に何かのっけてる。えーと、大根、人参、タマネギ、セロリ、トマト、レタス、茄子、キュウリ、ジャガイモ等の野菜類と………何だあの巨大なミキサーは。業務用と書かれているようだが。呆気にとられたゲンドウの目の前でレイは、ミキサーに手当たり次第に野菜を放り込んでいる。そしてスイッチオン。
ごうん、ごうん、ごうん、ギョギョギョギョギョ、ガガガガガガガガガガガガ○ガイガー、と妖しすぎる音を響かせて、ミキサーは回る。野菜類は、何やら得体の知れない緑の液体に変わっていく。………○汁、かな?
どんっ、とゲンドウの前に差し出された液体、青○もどき。その量、5リットル。………5リットルっすか。確かにこんだけ飲めば、水分補給は完璧だよなぁ。それに味はともかく、100パーセント生野菜だから体にもいいし。
謎の液体(笑)を前に途方に暮れるゲンドウ。まさかこれを飲めと言うのだろうか、いやだがしかし、と言う内面がその苦渋に満ちた眉間から容易に想像できたりする。
「………レイ………」
んじぃー、っとゲンドウを見つめるレイ。
「飲めと………言うのだな?」
コクコクコクコク。うなずいて、期待に満ちた目を向ける。………このつぶらな眼差しに逆らえるだろうか? 否、無理だ。ゲンドウは深い溜息を付いて液体に手を伸ばした。
そして………5リットルの挑戦は終わり、ゲンドウはその戦いに勝利する。気を緩めると大根が上がって来そうな気もするが、とりあえず全て飲み干したのだから、この場合見事としか言いようがない。偉いぞ、ゲンドウ。他のことはともかく、この5リットルの勝利だけは素直に尊敬しよう。おめでとう、ゲンドウ。ありがとう、ゲンドウ。我々は君のその勇気を忘れることはないだろう。どうか安らかに眠ってくれ。………って、死んでない死んでない。
それでも、流石に具合が悪くなってきたゲンドウはぐたりとベットに横たわった。先ほどまであった多少の余裕なんざ欠片も感じられない。まぁ、無理無いけどね。
横たわったベットは濡れていて気持ち悪いのだが、体が重く動けない。背筋を悪寒が走る。意識が徐々に遠くなり始めている。このままではいけない、本当に死ぬかも知れない。そう感じながら、ゲンドウの意識は深い深淵へと落ちていった。何処か遠くで自分を呼ぶ、懐かしい妻の声を聞きながら。………あーあ、気を失ったよ。マジで死ぬぞ、このままじゃ。
レイは………気絶したゲンドウをロープで雁字搦めにしている。さらにベットに縛り付けて………確かにこうすれば身動き一つとれないから、安静にしてることに………なるのか? それに、そのロープは一体何処から持ってきたんだ? さっきのミキサーと言い、NERV………何処までも謎過ぎる組織だ。
お、部屋を三度飛び出して………今度はバケツとやかん? バケツにはいっぱいの氷、やかんは激しく湯気を出している。そんな物持ってきて、一体どうするつもり………………って、まさか。
レイは背伸びをすると、バケツの中の氷を全部、ゲンドウの顔面めがけてぶちまけた。ゲンドウのサングラスより上は氷に埋もれてしまった。………そりゃ、氷で頭を冷やすもんだけどさ。………今度はやかんを持って、ゲンドウの足に中身………熱湯を注いだ。
「ぶあちゃ!!」
あ、ゲンドウが目を覚ました。って、当然か。しかし、レイは意に介さず熱湯を注ぎ続ける。
足からは耐え難い熱と痛み、頭部は痛むほど冷やされている。ベットは濡れていて体温を容赦無く奪い、腹の中で野菜ジュース(?)がちゃぼちゃぼ音を立てている。そして、全身をロープで縛られ、動くこともままならない。ゲンドウには今、わが身に何が起こっておるのかすら理解できない。
「がががががががががあああああああつつつつつついいいいいいいいい!!」
ただ叫ぶのみである。だがそれも短い間だけ。どずむ、と鈍い音を立て、巨大なハンマーがゲンドウの顔面にめり込んだ。ふるったのはもちろんレイ。だから………どっからそんな物を出したんだ? ハンマーにはジョセフィーヌ謹製と書かれているが、何なのだろう? とにかく、これでゲンドウは完全に沈黙。活動を停止した。………死んだんじゃねぇの?
ひくっ、ひくっと痙攣している(ちっ、生きてやがったか)ゲンドウを満足げに見やったレイは、ゲンドウの頬に触れる。
「………元気になぁれ」
幼い掌にありったけの想いを込めて、そっと呟く。天使は無心に、ただ一途に。淡い、それでいて輝くような笑顔。真摯な瞳。息すら止めて祈る、その姿こそ天使の名に相応しい。
しばらくの間だ、じっとゲンドウの横顔を眺めていたレイだったが、ぽんっと元気よく部屋を飛び出していった。一度だけ、ドアの前で振り向いて。まるで、ゲンドウが眠っていることを確かめるように。
そして駆け出していった。この後どうしようか? 部屋で本を読もうか? それとも、またばーさんをからかいに行くか? ………って、それはやめときなさい。あんまりやりすぎると、痛い目を見ることになるからね。
結局、今日は司令に遊んでもらえなかった。でも、明日はきっと遊んでもらえるに違いない。退屈なのは一日だけの我慢。看病もできて、少しだけ楽しかった。………って、あれだけ好き勝手やりゃ、楽しいだろうけどね。
そんなことを思いながら、レイは自室へと戻っていった。少し疲れたから夕食までお昼寝しようと決めて。
あ、さてさて。廃棄されたようなゲンドウがこの後どうなったかというと。くじ引きで負けた下級士官が夕食を運んでくるまでの、実に三時間五十八分二秒もの間、惨劇の部屋で昏倒していた。………発見された碇ゲンドウ氏が、すぐさま集中治療室に運び込まれ、生死の狭間をさまよい歩き、完治まで二週間寝たきり生活を送ったことは言うまでもない。
さらに、その間、司令代行を務めた冬月コウゾウ氏が、ゲンドウと入れ替わるように、過労と神経衰弱によって集中治療室と胃洗浄のお世話になったことは、お約束って奴である。
ちなみに余談ではあるが、赤木ナオコ女史が一連の事件を知ったのは、ゲンドウの完治、三日後であったと言う。 |
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