ケ ン ス ケ & マ ス ミ シ リ ー ズ
このSSを、EYE96さん、幻のアギャーマさん、銀河鉄道の昼さん、りゅーのすけさん、桂 脩蔡さんに捧げます。

完結中編
 さすがに午後になると追求の手も下火になり、放課後には消えてなくなっていた。まぁ、たまたま一度だけの偶然だから当たり前と言えば当たり前だし、碇君が変な弁解や言い訳をしなかったことが周りの邪推をはねのけてしまったからだけどね。………分かってるわよ、最大の理由は私が碇君に釣り合うような女の子じゃないことよ! どーせ私はアスカほどの美少女じゃないわよ。本人だって自覚してるんだから! ふん!
 ………結局今日はA組に、ケンスケ君に会いに行かなかった。逃げてるだけだって分かってるけど………やっぱり恐くて。逃げないって、難しいよ碇君。
 おまけにこの後アスカとヒカリにマックをおごらなきゃなんない。自分で言い出したこととはいえ、辛い。ヒカリったら案外ちゃっかりしてるんだから。
 体の芯まで凍えそうな財布の中身を考えると涙が出そう。………私って結構幸薄いかも。トホホ。
 傍らで立ち尽くす物言わぬ大きな影に寄り添ってため息をついて………むせかえってしまった。それはこの影がただの箱ではなく、青春の血と汗を含んでいる箱だから。………下駄箱の前でたそがれるのはやめよう。命に関わるわ。マジで。
 アスカとヒカリは校門の所にいるはず。私は掃除当番だったから待っててもらったんだ。財布の中身を考えるとちょっと悲しいけど、アスカたちと友達になれた記念と考えると、とてもうれしい。だってこの街を、人類を守る英雄とため口なんてきけると思ってなかったから。
 思わず踊りださんばかりに陽気に靴をはきかえた私は、スッキプせんばかりに足どり軽く玄関を出ようとした。
 が、その時絶対零度の視線を感じた。振り返ると影のように儚く、けど強烈な氷の波動を放つ白い少女が………綾波さんがいた。
 びっ、びっくりした、びっくりした! ………し、心臓が止まるかと思った。まだ、バクバクいってるよ。あー驚いた。
「こ、こんにちわ綾波さん。昨日はありがとう。とても助かったわ」
「……………………そう」
 うぅ、昨日よりも反応が冷たい。………怒ってるの………かなぁ? でも、綾波さんを怒らせるようなことした覚えはないんですけど。
「あの、それで………何か用かしら?」
「…………………………」
「あのぉ、綾波さん?」
「…………………別に」
 べ、別にって、そんな雰囲気じゃないでしょうが。恐い………何かすっごい恐い。アスカの時ようなあからさまな敵意は感じないけど、威圧感が違う! 違いすぎる! アスカに睨まれると体が硬直する。ヘビに睨まれたカエル状態よ。でも、綾波さんに見つめられると生きた心地がしない! なんて言うか、コードレスバンジー十秒前って感じ? ………って、なに考えてんのよ、私は!
 あぁ、パニクってるのが自覚できてしまうなんて。ゴクリとのどが鳴った。私………ここで死ぬかも?
「綾波さん?」
「……………………………」
 お願い! 返事ぐらいしてぇ!
「わ、私これからちょっと用があるんだけど………な?」
「……………………………」
「あの、アスカとヒカリとマックに行くんだけど…………あっ、そうだ! 綾波さんも一緒しない? 私、おごるから!」
「……………私、行かない」
「な、なんでぇ? みんなで行けばきっと楽しいと思うなぁ、私」
「…………肉、嫌いだから」
「そ、そお………それは残念ねぇ」
 だ、ダメ。もおダメ、もお限界。今日は厄日よ、天誅殺だわ。踏んだり蹴ったりのトドメがこれじゃ耐えられない。失神させていただきます。
 その時だった。私の意識が遠くなりかけたその時、威圧感が喪失した。残ったのは、何もかも見抜き通すように澄んだ紅い瞳。吸い込まれるようでいて、いたいけな紅い瞳だった。
「………綾波………さん?」
 相変わらず彼女は答えない。だけど、ホンの少しだけ視線が揺れた。ふと感じるデジャビュ。こんな彼女の視線を見たことがある。
 金曜の放課後、この場所で………初めて彼女と会ったときの、あの視線。辛そうに、悲しそうに、碇君を見ていたあの視線だ。
「………綾波さん」
「何でもないわ…………………さよなら」
 そう言うと彼女はきびすを返して立ち去ろうとする。後ろを向こうとする、その横顔が、その背中が………碇君と重なった。自分はいらない子供だと言った、あの涙を流さずに泣いていたような碇君に。
 そうか、なんだ………分かっちゃった。綾波さん………嫉妬してるんだ。今朝のことで。だから怒ってたんだ。そっか、そうだよね、女の子だもんね。
 可愛いね、綾波さん。精一杯、女の子だね。あなたはホンの少し無口なだけ。人よりホンの少し不器用なだけ。ホンの少し感情表現が苦手なだけ。私は昔のあなたを知らない。………あなたはきっと昔から不器用だったんだろうね。でも、そんなあなたが碇君のことになるとホンの少し正直になる。昨日、私に親切にしてくれたのも、あなたが体の中にしまってしまった心が、あなたの優しい心が顔を出してきている証拠なのかも知れないね。
 碇君だね。碇君があなたを変えかけてるんだね。………だから、好きなんだね、碇君が。
 ホントに可愛いでやんの。やっぱり友達になりたいな。………なんかアスカよりも応援してあげたくなっちゃうなぁ。ま、とりあえず。
「綾波さんっ!」
 私の呼びかけに彼女が振り返る。冷たく無表情。でも、紅い瞳だけがどこか悲しそう。
「私と碇君、何でもないから!」
「………………………」
「何もなかったんだよ! ホントだよ?」
「…………………そう」
 何よ、これだけで悲しそうだったかけらもない。それどころか、ちょっとだけうれしそう………なのかな? ………正直な奴め。でも、それだけ碇君を信じてるんだね。その想いがあれば大丈夫だよ、少し勇気を出せば大丈夫だよ。
「だから………がんばってね!」
 いつか………いつか、あなたの想いが届くように、ね?


「あー、おいしかった。わたしこーゆージャンクフードってあんまり好きじゃないんだけど、おごりだとなんでかおいしいのよね」
 あぁ、そーですかい。
「ごちそうさま、マスミ」」
 そりゃぁ、よござんした。
 ポテト摘みながら他愛のないおしゃべり。マックを出る頃にはすっかり陽は傾き、街は夕暮れ時。………すっかり寒くなった財布の軽さに夕陽の朱が目にしみるわ。って、実はそうでもなかった。二人とももっと食べるかと思ったのに、ヒカリはバリューのハンバーガーセットだし、アスカにいたってはポテトのSとオレンジジュースだけ。遠慮してたのかな?
「でも、ちょっと食べたら余計にお腹空いちゃったな」
「なに、アスカ。それならバーガーの一つも食べれば良かったのに。それくらいなら大丈夫だよ、私の財布も」
「ちがうのよ、マスミ」
「何がちがうのよ、ヒカリ?」
「今日は………今日もかしら? 碇君が食事当番なんですって。ねぇ、アスカ」
 あ、なるほど。
「ち、ちがうわよ!」
「何がちがうの、アスカ?」
「別にあいつが作った料理のために食べなかったんじゃなくて、今夜のメニューは好物のビーフシチューだからよ!」
「「はいはい」」
 素直じゃないなぁ、ホントに。
 むきになっていたアスカが突然ニヤリと笑った。………な、何? 今背筋を走った悪寒は?
「………今日は色々ありがとね、マスミ。このお礼は必ずするから」
「いいよ、そんな気にしないで」
「いいえ、借りは必ず返すのがわたしのモットーなの。楽しみにしておいてね」
「う、うん」
 な、なぁんかやな予感。気のせいかしら?
「じゃ、また明日」
「うん、バイバイ」
「明日、楽しみにね?」
「………うん」
 何なの、アスカ? そのすっごい含みのある台詞は。………あぁ、なーんか不安だわ! 明日何事もなければいいけど。今日のような厄日はもうたくさんだからね!
 ………………………心配。


 今日もいい天気。そして私は性懲りもなく校門でたたずむ。………あのままなし崩しに嫌われて、それで終わりなんて絶対に嫌。こうなったら嫌われついでにはっきりきっぱり言ってもらうんだから。私をどう思っているのか。
 決意新たに燃やす私に少し意外な声がかかった。
「おっはよう、マスミ!」
「あ、おはようアスカ! ………どうしたのこんなに早く? まだ八時ちょっと過ぎよ」
「気にしない気にしない! さ、教室行くわよ」
「え? あ、ちょっと引っ張らないで! 私はケンスケ君を待ってるんだから」
「いいから、いいから」
「よくないって、ちょっとアスカ!」
 って、全然私の話を来てくれない! 結局私はアスカに手を引かれて、校舎の中に連れて行かれてしまった。
 そのまま、A、Dどちらの教室にも入らず、廊下の端でお喋りを始めてしまった。その内、ヒカリが登校してきてお喋りに混じり、気がつくともうHRが始まる五分前だった。
「もうこんな時間? ………ケンスケ君はまだ来てないの?」
「相田ならさっき鈴原と一緒に来たわよ」
「ええ? 何で教えてくれないのよ、アスカ!」
「話の途中だったからよ」
「そ、そんな…………」
 それはないでしょ、アスカ。………不覚、お喋りに気をとられてケンスケ君を見逃すなんて。
「ほら、二人とも、もうHRが始まるわよ。早く教室に入って!」
 ヒカリの声に押し出されるようにして、私は自分のクラスにもどった。
 嗚呼、今朝もケンスケ君に会えなかった。シクシク。


 西の空はもうすっかり茜色。遠くから無邪気にはしゃぐ子供の声が聞こえる。………アスカの奴遅いなぁ。自分から誘っておいて、遅刻しないでよね。この公園、二日続けて来たの初めてだな。広さもそこそこだし、子供の遊び場に、待ち合わせにと結構便利だよね。
 ………ここでこうして座ってると、昨日の碇君を思い出してしまう。
 私は勘違いをしていたのかも知れない。碇君もアスカも綾波さんも英雄なんかじゃなくて、私たちと同じ十四歳なんじゃないかな。私たちと同じように、傷ついて、微笑んで、恋をして。………彼らが特別なんじゃなくて、私たちが彼らを特別と思っているだけなんじゃないかな。………そんな気がする。
 だとしたら、碇君は高嶺の花じゃなかったかも知れない。綾波さんと友達になれるかも知れない。現にアスカとは友達になれた。………綾波さんと友達になるのはともかく、碇君と………ってのは無理ね。
 昨日のヒカリじゃないけどアスカと綾波さんが相手じゃ、勝ち目ないもんね。容姿とか、性格とかじゃなくて、もっと根底にある絆にかなわない。それはきっと共に死線を乗り越えてきた彼らしか分からない、そんな絆。なんて言ったっけ………エヴァだっけ? きっとそれが絆。
 世界であの三人だけの、他の誰にも分かち合うことも、わかりあうこともできない、人類と言う(大きすぎて実感のわかないほど)大きなものを背負う、三人だけの絆。やっぱり、勝ち目ないね。
 うらやましい。嫉妬とかそう言うんじゃなくて、純粋に憧れる。混じりたい。あの人たちの絆の中に。喜びも悲しみも、みんなまとめて一緒に感じたい。
 そうやって、辛いときも、ケンカしても、心のどこかで分かりあえる人が欲しい。………夢みたいだけど、そんな人、現実にいる訳ないけど、夢だっていいじゃない。私はなりたい。好きな人の全てでなくていい、ホンの少しでいいから、分かってあげられる人間に。
 ねぇ、碇君。そうしたら優しくなれるかな、あなたみたいに。
 ねぇ、アスカ。そうしたら強くなれるかな、あなたが好きな人みたいに。
 ねぇ、綾波さん。そうしたらあなたと友達になれるかな。
 そうしたら………そうしたら、あなたに好きと言ってもらえるかな。ねぇ、ケンスケ君。
 私の足下にピンクのゴム鞠が転がってきた。手にとって顔を上げると、五歳くらいの女の子が手を振っていかけてくる。
「おねぇちゃん、それとってぇ!」
 クス、可愛いな。私は立ち上がってその子を迎える。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、おねぇちゃん!」
「うん、バイバイ」
「バイバァイ!」
 ぽてぽてとかけてく姿はとっても可愛くて。碇君やアスカが、綾波さんが護っているのは、命を懸けているのはこういうモノなのかも知れないね。………素敵だね。そうゆうの。
 それにしても、アスカってば何やってるんだろう? ちょっと遅すぎるよ。何かあったのかなぁ? まだ、避難警報がでてないから戦いがある訳じゃなさそうだし。ひょっとして碇君がらみでなにかあって、私との約束を忘れてるんじゃないでしょうね? ………あり得るなぁ。
 ため息をついたとき、夕陽が細く伸ばした影が私の影にならんだ。アスカめ、ようやく来たか。もう、今日はアスカのおごりだからね!
「おっそいぞ、アスカ!」
 振り返って指を突きつけた先にいたのはアスカではなく………ケンスケ君だった。

後 書

ヤヨイ「マスミの友人Aこと茅野ヤヨイでぇす!」
ユ カ「マスミの友人Bこと堂島ユカです」
ヤヨイ「ざまーみろ、水晶め! 何がもう出番がないだ? 見事に復活、名前付き!」
ユ カ「それもこれも、りゅーのすけさんのおかげ」
ヤ&ユ「ありがとうございます!!」
ヤヨイ「と、言うわけでユカ」
ユ カ「何、ヤヨイちゃん?」
ヤヨイ「………もう一回呼んで」
ユ カ「? ………ヤヨイちゃん?」
ヤヨイ「………あぁ、快感! 名前を呼んでもらうのがこんなに素敵だなんて………」
ユ カ「クセになりそう?」
ヤヨイ「うん………って、ちょっちヤバイか」
ユ カ「ほどほどにね」
ヤヨイ「へい」
ユ カ「さ、気を取り直して、お仕事お仕事」
ヤヨイ「はいな! ………って、ことで次回予告!」
ユ カ「とうとうやってきた、マスミとケンスケの直接対決。落とされる決戦の火蓋」
ヤヨイ「ついに明かされるケンスケの胸の内にマスミは、今!」
ユ カ「次がラスト。本当に終わるのかしら」
ヤヨイ「マスミとケンスケの思いの行方は? そして炸裂するジャーマン!」
ユ カ「死人が出ないことを祈りましょう」
ユ&ヤ「次回、あなたに好きと言って欲しい・完結後編! お楽しみに!」
ヤヨイ「………でもさ、ユカ」
ユ カ「ん?」
ヤヨイ「結末がどうなるか、あたし予想できるぜ?」
ユ カ「わたしもできるわ。だって水晶だもの。どうせ、ぬるいラブ米よ」
ヤヨイ「………つくづく、底の浅い奴」
ユ カ「だって、ワンパターン作家だもの」

水 晶「だかましいわい!!」


                                               水晶でした


H P版 後 書

ヤヨイ「ゲッタービーム皆様! 福音神殿右神官の茅野ヤヨイなのじゃー!」
ユ カ「同じく、福音神殿左神官の堂島ユカなのじゃー! ………しかし、何でゲッタービーム?」
ヤヨイ「ん? ゲッタートマホークの方が良かった?」
ユ カ「そゆことじゃないんだけどね」

ヤヨイ「ま、いいじゃんいいじゃん。これでわたしらの名前の由来も出たことだし」
ユ カ「そだね。これでいつでもアイドルデビューできる準備が整ったね」
ヤヨイ「そゆこと!」
水 晶「何故に、アイドルデビュー?」
ヤ&ユ「この美貌故に」
水 晶「………絶妙のタイミングで切り返しおったな、おまいら。実は密かに狙ってやがったな?」
ユ カ「あ、やっぱ分かる?」
水 晶「分からいでか!」
ヤヨイ「ち、水晶の割に鋭いわね」
水 晶「おまいら………ネタなんだか、バカなんだかはっきりさせろよ」
ユ カ「じゃ、ネタ」
水 晶「即答かい………それだとバカだと自白しているようなもんじゃねーか」
ヤヨイ「ち、やるよユカ!」すちゃ!
ユ カ「らじゃ!」ぶぶん!
水 晶「え?」
ヤヨイ「クロスボーンガンダム・SD参戦記念、ザンバスター!」びゅむ!
ユ カ「同じく、ムラマサブラスター!」ぎぎゅん!
水 晶「ひーあー!」ぼがむ!
ヤヨイ「悪は滅んだ!」
ユ カ「さ、ヤヨイちゃん。宇宙へ出よう?」
ヤヨイ「そだな、そこで宇宙海賊でもしようか」
ユ カ「うん!」
ヤ&ユ「それではまた、次の後書で! しーゆー!」ちゅ!

水 晶「………閃光のハサウェイもいいぞー」がく


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