ケ ン ス ケ & マ ス
ミ シ リ ー ズ
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私は「彼」が好きだった。………ずっと憧れていた。少し影のある表情。中性的な体つき。なにより、私たちの街を命がけで守る英雄でありながらちっとも偉ぶったりしないその態度に。
………私は憧れていた。それが恋だと思っていた。
そう、本当の恋を知ったあの日まで。 |
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あ な た を 好 き だ と 言 い た い
〜文化祭交響曲・番外編2〜
〜あるいはめぐまれない少年に愛の手を〜
〜さらにはケンスケ&マスミシリーズ1〜
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今日こそは、今日こそはと決意を新たにすること………多すぎて忘れてしまった。でも、今日こそは………今日こそは! ………今日こそは憧れの「彼」に告白するって決めたんだもん!
何ってたって、今日は文化祭! ………普段とは違う雰囲気に物を言わせて一気に迫って押し倒す!! ………もとい、この切ない胸の内を伝えるんだ!
………って、せっかく覚悟決めて、ばっちりおしゃれしてきたのに………制服だけどさ。だいたい、文化祭なんだから今日ぐらい制服じゃなくたっていいもんじゃない? ………あぁあ、頭の固い先生ってやぁねぇ。
………じゃなくて! 服装こそいつもの制服だけど、その他はちょー気合い入れてるし、制服だってクリーニングから帰ってきたばかりの上に二時間ブラッシングしたんだから。
………ぁあぁ、話がずれてる! そう、私が言いたいのは、こんなに準備万端にしているというのに、そうよ、二人が熱いカップルになるためのシュミレーションは実に二十六通りだし、今日のデートスポットは全てチェック済みだし、おいしいのは、やっぱフィーリングカップルよね。三−Bでやってるおばけ屋敷もポイント高いわ。………でも魅惑のフォークダンスがメインイベントよ!
………って、ちがうぅ! そおぢゃなくてぇ! つ・ま・り、これだけ苦労したにもかかわらず、肝心の「彼」がみつかんないなんてぇ!!
今、思い出しても恥ずかしいけど、あの時、私は興奮でまわりが見え
なかったみたい。考えてることが、滅茶苦茶だもんね。
おかしいわね、事前に入れた完璧なチェックによれば、「彼」はここでたこ焼きを焼いてるはずなのに。………何故か、A組の委員長が焼いている。隣でで下品な声を上げているのはいつも「彼」の側にいる二人の内の一人ね。
何あれ、変なハッピに捻り鉢巻までして。趣味悪ぅ。第一、あれって校則違反じゃない。………あぁゆー下品なのが側にいるから「彼」まで三バカなんて不名誉な呼ばれ方をされちゃうのよね。「彼」、どうしてあんな変なのと縁を切らないんだろ?
………そっか、「彼」優しいから、あんな変なのでもほっておけないんだわ、きっと。………あんなんじゃ友達いなさそうだもんねぇ。
あんなの、どうでもいいや。それより「彼」よ。「彼」はどこなのかしら? ………くぅ〜、やっぱ出遅れたかしら? だって、だって、昨夜は緊張してて眠れなかったんだもん。………やぁ〜ん、なんか「恋する乙女」みたい! ………そう、今日こそ「彼」に告白して……………
(作者注・トリップ中です。しばらくお待ちください)
…………………はっ!? こ、こうしちゃいらんないわ。早く「彼」を捜さなくちゃ!
でも、何処から探そう? ………そうだ、確か三バカのもう一人が3階で資料館をやってるはずだわ。「彼」の手がかりがつかめるかも知れないわね。よし! 行ってみましょう!
ここね。………なにこれ………女の子の写真でいっぱい。………「校内&街角美人シリーズ」ですって? ………あっきれたぁ、あの眼鏡の人、なに考えてんのかしら。
でも、ほんとに美人と可愛い人ばかり。………これって隠し撮りよね? 誰も真正面を向いてないもん。なのに………みんな、とてもいい顔してる。写真のことなんてよくわからないけど………なんか、素敵。どうしてなのかしら?
はっ? そうじゃなくてぇ! 「彼」は………いないみたいね。しょうがない、別の所探さないと。………でも、その前に………私の写真はないのかしら?
………ない………なんか、腹立つわね。
その時、私は見つけてしまった。私の心を塗り替えた、あの写真を。
中央に飾られた、一際大きな三枚の写真パネル。
その中にある、女神の微笑みを写した、あの写真を。
なんて………綺麗なの。この人、いつも「彼」の隣にいる、校内NO.1美少女で有名な人だわ。すっごくうらやましいことに、「彼」と同居(同棲じゃないのよ! 断じて!!)していて、「彼」と同じようにこの街を守るために戦っている。
………知ってる。私は、彼女が「彼」が好きなんだと、知っていた。
………ばればれだよ。まわりだけでなく、自分の心もごまかそうと意地をはってるみたいだけど、ばればれだよ。女の子同士であんな嘘、通用しないよ。………気づいてないのなんて、当の「彼」と本人だけだよ。でも、勝ち目があると思ってた。だって、だって、彼女は素直じゃないから。いつも「彼」を困らせているから。………あんな嫌な娘よりもつくすタイプの私の方が、「彼」を喜ばせてあげられると思ってたのに。
………ずるいよ、こんな笑顔、反則だよ。こんな素直な笑顔見せられたら、なにも言えないよ。こんな、向ける相手のなにもかもを信じ切った笑顔を見せられたら。………言える訳ないよ。
………悔しい。悔しいのに………写真から眼を離せない。綺麗………ホントに綺麗。いつも勝ち気に微笑んでいたのに。それだって素敵だったのに。太陽みたいに輝いていて、同性の私でさえまぶしいくらいだったのに。こんな女の子の必殺技、世界最強の決戦兵器「とびきりの笑顔」をされちゃ、私に勝ち目なんかないよ。………失恋、しちゃたかな? 告白する前に。
でも………不思議。そんなにショックじゃない。失恋のショックより、この写真のインパクトの方が大きかったからかな?
………写真………そう、写真なんだ。どうしてこんな「オトメのQ極奥義」を写真にできたんだろう? あの眼鏡の人は彼女が好きなのかしら。でも、他の写真もとても素敵だった。女の子のちょっとした素顔てっ言うか、素直な表情を捉えている。
こんな素敵な写真が撮れるってことは、被写体の感情がわかるってことなのかな。感情の動き………うぅん、心がわかるんだ。だから、みんないい顔してるんだ。
きっと、優しい人なんだろうな。他人の心の痛みや喜びがわかる、優しい人だから………こんな写真が撮れるんだろうなぁ。
もうこの時には、私の心は変わっていたのかも知れない。
そう、憧れとは違う、確かな想いに。
「あれ………お客さん、来てたのか」
!! ………お、驚いたぁ、いきなり声がかかるんだもん。いったい誰が………あぁぁ!! こ、この人! この人だ!
「…………? どうかしたの?」
「え? い、いえ、なんでもないんです」
「そう?」
………眼鏡にそばかす。「彼」に比べたら数段落ちる容姿よね。でも、この写真がこの人は心の優しい人だって教えてくれる。………や、やだ、なんか恥ずかしくなってきちゃった。
「君………確かD組の人だよね」
「は、はひっ!」
………あぁぁあぁぁ、声がうらがえちゃったぁ! は、恥ずかしいぃ! ぅぅぅぅうう、恥ずかしくて顔、上げらんないよぉ。
「あの………僕、何か悪いことしたかな?」
「え?」
「………何か、嫌われてるみたいだから」
「そっ! そんなことないです! ………あの、私、突然声がかかったから、その、驚いちゃっただけで、えっと」
「そっか。ごめん、驚かせて」
「いいえ、ぼうっとしていた私が悪いんです」
「………うれしいな」
「え?」
「僕の写真に見とれてくれたんだ」
み、見抜かれてる。………でも、なんて素直に笑うんだろう。無防備で、子供みたいに無邪気で、とても暖かで。
『トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン』
………胸が………高鳴る。
『トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン』
………締め付けられるように苦しくて、切なくて。
『トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン』
………何よりも………愛しくて。…………………はうっ?
………いま、愛しいって考えた? ………私? ………考えたの、私は?
ち、ちがう! ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!
私は、私が好きなのは「彼」なんだから! こ、こんな冴えない人じゃなくて「彼」なんだからぁ!
我ながら、素直じゃないなぁ。
でも、この時は必死だった。
だって、「彼」への想いが否定されそうだったんだから。
「どうかしたの?」
騙されるもんですか! こんな優しそうなこと言ってるけど、こんな教室を埋め尽くすほどの盗撮写真を撮ってる人なんだから!
「具合、悪いのかなぁ?」
こんな………優しい………こと。
「保健室、行こうか?」
優しい………………あぁっ!! もうだめ、何も考えらんない!!
「何でもありません!! 失礼します!!」
はあ、はあ、ぜえ、はあ。………はぁ、こ、ここまでくれば大丈夫よね。
………って、ここ、どこ? ………なんだ、校庭か。こんなとこまで来ちゃたんだ。
………何? なんだか騒がしいみたい。………あっちの方ね。あっちは………特設ステージ? …………フィーリングカップル!!
しまった! 忘れてたぁ! あーん、私のバカ、バカ、バカ、バカ!! こんな大切なことを忘れるなんて! ………あーあ、残念。でも、どんなカップルができたんだろ?
「好奇心、猫を殺す」って言葉があるけど、この時の私がまさにそれ。
何故なら、壇上で腕を組んでいたのは、はにかんで微笑んでいたのは。
………「彼」と彼女だったんだから。
やっぱり………そうなんだ。あの二人、できてたんだ。………そりゃそうか、二人とも選ばれた人間で、同居していて。私なんかじゃ足下にも及ばない、雲の上の人たちなんだもん。………私みたいなヘーボンな娘じゃ相手にもされないよね。
………えへへ、失恋、しちゃた。所詮は、叶わぬ恋いだったんだ。私には高嶺の花なんだ。………だって二人ともあんなにうれしそうで、とってもお似合いで。
………あーあ、なんかほっとしちゃたなぁ。クスッ、ふられてほっとするなんて、変な私。
………さっき、失礼なことしちゃたな、あの人に。変な娘だって、思われちゃったかな?………それよりも、嫌な娘だなんて思われたりしてないかなぁ。
………まずいかも。だって、声うらがえっちゃたし、おどおどしてたし…………ああぁぁ、挨拶だってろくにしてない! どぉぉしよぉぉっ!!
………って、何考えてんの、私? ほんの三十秒前に失恋したばかりなのにぃ! ………あの人、こんなお尻の軽い娘、嫌いかなぁ?
………じゃなくて! 私が、私が好きなのはっ! ………好きなのは………好きに………なちゃったのかなぁ?
………………ま、いっか? 人生、なるようになるしかならないんだもんね。こんな風に始まる恋だって、きっと素敵だよ? ………きっと、ね!
今日こそは、今日こそはと決意を新たにすること、二週間。学校はとうに文化祭の雰囲気を忘れ、いつもの落ちつきを取り戻している。………なのに、私はいまだに告白できずにいる。
でも、今日こそは………今日こそは! ………今日こそは愛しの「あの人」に告白するって決めたんだもん!
今朝、こっそり「あの人」の下駄箱に入れておいた手紙………ラブレターじゃないのよね、これが。だって、恥ずかしくて………書けなかったんだもん。それに、想いは自分の口で伝えなきゃ。………の手紙で、準備は万端!
放課後の夕暮れ時の屋上。………舞台効果は完璧よね。後は早めに行って、「あの人」が来るのを待つだけね。
………って、約束の三十分前なのに、「あの人」がいる。私より先に屋上に来てるなんて。
まだ、私には気づいていないみたい。夕陽に彩られた「あの人」の横顔は、胸が痛くなるほど………素敵だった。恐る恐る、声をかける。
「あの………」
「あの人」が、私に気づいて笑いかけてくれた。
「この手紙、君かい?」
「は、はい!」
「そう。………用件だけどさ」
「は……はいっ! ………その、私………!」
「いいよ、言わなくてもわかってるから」
………え? ………えぇえぇ? わ、わかってるって…………うそぉーっ!? そ、そんな、私の気持ち………知っていたの?
「これだろ?」
と、手渡された物は………数枚の「彼」の写真だった。
「………はい?」
「君、ずっとあいつのこと見てただろ?」
………い、いやその………見抜かれてるのね。そ、そりゃぁ見てましたよ、二週間前まではね。………でも、それからは、文化祭からは………あなたを見ていたのに。………鋭いんだか、鈍いんだか?
………なんだか、緊張してたのがバカみたい。………でも、なんだか落ちついちゃたな。うん、気負いも気後れもなくなちゃった。………今なら言える、素直な笑顔で。
「ちがうんです」
「え? ………ちがうって?」
「ですから、私は写真が欲しいんじゃないんです」
「えっと、それじゃ………あぁ、手紙でも渡してやればいいのかな?」
「………それも、ちがいますぅ」
なんだ、人の心に敏感かと思ったら、自分に向けられた心にはてんで鈍いんだ。………そう言うの、なんか可愛いかも。
「じゃぁ………いったい何?」
「………私………あなたに写真を撮って欲しいんです」
そう、あなたになら………あなたのためならできるから。人類最高の秘宝、「恋する乙女の微笑み」が。………だから。
「なんだ、お安いご用さ」
………やっぱり、わかってない。んもう! 鈍いんだから! ………いいわよ、こーなったら、はっきり、きっぱり言うだけだもん!
「ちがうんです!」
「………え?」
「だから………私は…………私は…………」
か、顔がほてるぅ。うつむいてしまう。………く、空気が重い!
だめよ、告白するって決めたんだから! ………今日を逃したら今度はいつになることやら。………後悔なんてもうたくさん!! そうよ………逃げちゃダメなんだからぁ!!
「私は………あなたが………」
集まれ! 私の中の小さな勇気たち! ………想いを、溢れそうな想いを大切な「あの人」へ伝えるために!!
「………あなたが………好き………です!」
そう、とびきりの笑顔で! |
《END》 |
水晶より
恵まれなかった少年に……… |
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後 書
はい、水晶です。
どうでしたか? 文化祭本編を読んでおられない方には訳わからないかも。
と、言うわけで、今回は出番も台詞も多かったのにいつのまにか
その他扱いのケンスケ君の補完ものです。しかも、水晶初のオリキャラ付き。
ひたすら、個人名を出さないことにこだわったので言い回しが多少(ホントに多少か?)変かも?
オリキャラの一人称って、結構反則かも。しかもケンスケが某神秘の世界のまこっちゃんが混じったような?
今回のヒロイン「私」ですが、まだ名前がありません。
ボイスイメージは川菜 翠(なんてマイナー)で、外見的には某級生2の篠原い○みのような
ボーイフィッシュな娘です。まぁ、いず○ほど美少女じゃないけど。十人並みより少し劣る程度ですな。
そこでこの「私」の名前を募集します。
もし、名前が付きましたら今後の水晶のSSで準レギュラー化もあるかも。
まぁ、お暇でしたらで結構ですので気楽に考えてください。
(とか言って、誰も考えてくれなかったらどうしよう?)
そんなわけで今回はこの辺で。
読んでくださった方、ありがとう!
水晶でした
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H P版 後 書
ヤヨイ「どもー、福音神殿右神官の茅野ヤヨイですー!」
ユ カ「同じく、福音神殿左神官の堂島ユカです。………とうとう来たねヤヨイちゃん」
ヤヨイ「おうとも! このシリーズが始まれば、こっちのもんよ!!」
ユ カ「これで私たちの出番まで、秒読み段階だね………長かったわ」
ヤヨイ「明けない夜はないのだ!」
ヤ&ユ「ヤッターヤッター、ヤッターチャウチャウ!!」
水 晶「おい………何だ、そのヤッターチャウチャウ言うのは?」
ユ カ「あら、水晶。ヤッターチャウチャウ知らないの? ………遅れてるのね」
ヤヨイ「しかたあるまい、水晶だからね」
水 晶「おまいらな………」
ヤヨイ「そんなことより、水晶、あんた、上の後書で言ってることまだ変わってないの?」
水 晶「上で言ってること?」
ユ カ「今回名無しのあの娘の声とか、名前募集の件ね」
水 晶「ああ、それか。申し訳ないけど、名前の募集はもうやってないのだ。
あれは居酒屋「豊泰」の頃の話だな」
ヤヨイ「マス………げふんげふん、あの娘のボイスイメージは?」
水 晶「あれも変わった。某下校モード萌え萌えゲームの影響で、現在は池澤春奈嬢やね」
ユ カ「またせっそーのない」
ヤヨイ「それが水晶って奴よ」
水 晶「ほっとけ!」
ヤヨイ「ま、今回は許そう」
ユ カ「あら、めずらし。そんなあっさり追及を止めるなんて何があったのヤヨイちゃん?」
ヤヨイ「今回は気分が良いのだ。なんと言ってももうすぐ出番だからな」
ユ カ「なるほどね。気持ちは分かるかな」
ヤヨイ「ってところで、今回はお時間!」
ユ カ「次は、このシリーズの続きの予定です。さっさと更新しなさいね、水晶?」
水 晶「へーい」
ヤ&ユ「それではまた、次の後書で! しーゆー!」ちゅ!
水 晶「それにしても………ヤッターチャウチャウって、何なんだろう?」
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