ARAKAWASIDE MALT WHISKY DISTILLERY
CHICHIBU
秩父蒸留所
Chichibu Distillery
「ベンチャー・ウィスキー秩父蒸留所」
Ventur Whisky

肥土伊知郎氏の挑戦
                                     
「ベンチャー・ウィスキー 〜秩父蒸留所〜」
操業を開始したばかりの秩父蒸留所

キルンが目印の蒸留所
近所では時計台(?)と思われているそうな。


周りにはこれといって何もない…

左の白い建物が製造棟

貯蔵庫 zzz…


それでは、
蒸留所内を細かく見ていきましょう!

<原料麦芽>

訪問時に使用していたドイツの製麦会社のモルト
品種はブレマーかオプティックのアンピーテッド

<麦芽粉砕>
イングランド製の4ローラーミルを使用
ここで粉砕されたモルトは糖化槽に送られる。


粉砕麦芽はハスク、グリスト、フラワーと一定の比率を維持

<糖化>
奥に見える銀紙をまいたようなタンクが糖化槽。手前のタンクにろ過した麦汁を受ける。ここからポンプを用いて醗酵槽に送られる。
 
糖化槽
ここで粉砕麦芽とお湯を混ぜ糖化させる。

糖化槽の内部

麦汁冷却用熱交換器
ここを通し麦汁を冷まして醗酵槽に送る。

<醗酵>
醗酵槽は全部で5基あり、材質はすべてミズナラ材を使用。
もちろんミズナラの醗酵槽なんてほかではお目にかかれない。
伊知郎氏曰く「前例がないのでどうなるかはわかりません。」
と。

横浜にある会社に製造を依頼した純国産ミズナラ醗酵槽
5基ある醗酵槽にはそれぞれ個性があるそうだ。それが酒質にどんな影響が出るのかが飲み手としてはとても楽しみだ。

<蒸留>
フォーサイス社製の小さなスティルは一対。ウォッシュ、スピリッツとも同じ大きさ。加熱方法はボイラースチーム。
ネックが短くずんぐりしていてへヴィーな原酒を造りそうな風格。
冷却はコンデンサー式。夏と冬では冷却水の温度が異なる為酒質が異なる。温度が高いと比較的軽くなり、温度が低いと重くなる。季節による造り分けもできるといえば出来るのだろう。
ニューポットが流れ出るスピリッツ・セーフ
スコットランドでは、税金の関係上、この箱には厳重に鍵がかけられておりティスティングすら出来ない。しかし日本ではそこまで厳格に管理されておらずティスティングすることも可能なのだ。これは作り手にとっては味を確認できるという意味でもやりやすそうだ。

蒸留の為に蒸気を作るボイラー

<熟成貯蔵>
熟成には様々な樽を使用
これは珍しいシェリーのクリアデラ樽
熟成庫の床部は多くの部分が土で自然な状態での熟成が可能な環境である。年間を通して寒暖の差が激しい秩父の気候でウィスキーたちはどんな風に成長していくのだろうか。
初訪問  2月24日(日)
今はまだ原料麦芽の貯蔵庫になっているキルン棟

 ついに蒸留所が操業を始めた。そう、他ならぬベンチャーウィスキーの秩父蒸留所のことである。バーテンダー仲間と車で出かけて行った。有料道路を過ぎ、地図を見ながら目的地を目指す。
「キルンだ!」遠くから丘の上にパゴダ屋根が見えた。どことなく秩父の景色にスペイサイド風景がかさなる。否、ここはスペイサイドならぬ「荒川サイド」なのだ。
スコットランドから数日前に帰り二月最後のよく晴れ渡った日にはじめて訪れた。何もかもが新しくピカピカしている。国内外たくさんの蒸留所を見てきたがこんなに小さく、小奇麗な蒸留所は初めてだ。綺麗なのは当たり前なのだ、なんと言っても数日前に蒸留を開始したばかりなのだから。
一つの棟内にウィスキーを作りのすべての工程が詰まっている。粉砕、糖化、醗酵、蒸留、高いところからすべてが見渡せる。手作り的な感覚が、新しい世代の「マイクロ・ディスティラリー」の姿を伝えているように思う。大資本、大量生産、安定した品質を誇る大メーカーの蒸留所とは全く違うガレージ・ウィスキーの生産現場がそこにある。無論、見学者コースもなければ気の効いたヴィジターセンターもない。そこは真剣にウィスキーを作り出す場でしかないワーキング・ディスティラリー特有の緊張感のようなものがある。

  
ピカピカのポット・スティルとスピリット・セーフ

 ここでは伊知郎氏をはじめ合計4人の人たちが忙しそうに働いていた。蒸留器のそばでバルブの調整を真剣に行いながら色々な質問に丁寧に情熱的に答えていただいた内堀氏は蒸留一筋40年のベテラン技師。以前は軽井沢蒸留所でモルト・マスターを勤めていた兵でベンチャーウィスキーのために秩父へやってきた。その傍らで色々とアドバイスを受けながら作業をするベンチャーウィスキーの紅一点、門間さん。写真を撮りながらホースなどをアッチからこっちへ…色々な作業に終われて忙しそうな渡辺さん。そして我々を引きつれ一つ一つの工程を案内して廻る肥土伊知郎氏。それぞれ個性的なキャラクターの持ち主が力をあわせて作り上げるウィスキー。それだけでも飲んでみたい気持にさせられる。

黒いパイプがつながっている手前に見えるのが糖化の終わった麦汁を受けるタンク。奥に並ぶ木桶が醗酵層でさらに奥にスティルが鎮座している。糖化から蒸留まですべてが同じ棟内で行われている。

奥から糖化槽側(入り口)方向を見たところ。
緑のホーローのタンクはコンデンサーの廃熱リサイクルの為にコンデンサーで温まった水をためていた。

このバルブ調整一つでスピリッツの質が変わるといい、またアルコール度数や香で判断しながらのミドルカットのタイミングも経験がものを言うらしい。
近年、多くの蒸留所ではコンピューター制御で蒸留工程を管理している蒸留所も多い。しかし秩父蒸留所では、小さな蒸留器を人の手で丁寧に運転している。
蒸留器に入る蒸気を調整するバルブ スピリッツ・セーフ

働くすべての人々が活き活きと真剣にそれぞれの仕事に取り組んでいる。一つのビジョンを掲げそれに向かってそれぞれがそれぞれの持ち味を発揮しながら真剣に仕事に取り組む姿は見ていて感動的だ。ウィスキーつくりだけでなく、人を活かし、気持ちよく働ける環境を整備し、いつも飲み手や売り手の言葉にも耳を傾ける伊知郎氏の企業人としての素晴らしさにも心から感心させられた。

まだ樽がない貯蔵庫。
こんな貯蔵庫の姿が見られたのは貴重な体験だ。
ここでこれからどんなウィスキーが育っていくのだろうか…

 まだ樽もなくガランとした貯蔵庫はなかなか見られるものではない。ここでこれからどんな原酒が時を過ごすのだろうか。そしてどんなウィスキーが瓶詰され我々の手元に届くのだろうか。埼玉のバーマンとしてはピカピカの蒸留器が煤けてきた頃、至極の一杯を注ぐ喜びを味わえる日が今から楽しみである。
薄暗い貯蔵庫から外に出ると晴れ渡った空にパゴダ屋根を乗せたキルンが眩しかった。いつの日かこのキルンで埼玉県産のピート炊いて、ほんとのローカル・ウィスキーが作られるのだろう。埼玉でバーを経営していて良かったと思う。わが町から秩父は近くはないが同じ「荒川サイド」だ。
埼玉から世界へ。荒川から7つの海に漕ぎ出でるIchiro's Malt!!



2回目の訪問  5月25日(日)
2回目の訪問は残念なお天気。
雨時々曇り。梅雨のはしり。

 お忙しい中、迷惑なお願いと知りつつもどうしても飲み手の方々を蒸留所に案内したくて伊知郎氏にメールで蒸留所見学のお願いをしたところ「是非いらしてください。多くの方に来ていただくのは嬉しいのですが、小さい蒸留所なので見学は15人が限界です。」という回答を頂いた。
ほんとは中型バスチャーター位でも人が集まってしまいそうな勢いがあったのだが某大手ウィスキーメーカーのプラントのような蒸留所とは違うので少人数でレンターカーを借りての訪問となった。それでも車に乗り切れず電車で直接集まっていただくお客様もいるほどの見学希望者多数、満員御礼。
 秩父駅近くのサルベージで自家農園のハーブをたっぷり使った美味しいイタリアンで昼食を済ませチェ・アリーの横田さんに車で先導してもらい以前来たときとは逆方向から蒸留所に着いた。最初に迎えてくれたのは長靴姿が板についた門間さん。一つ25kgのモルトの入った袋を運んでいるところだった。すっかり蒸留所の仕事にも慣れてきたようだ。世界の蒸留所の中でもこんなに活き活きと女性が元気に働いている蒸留所も珍しいだろう。
蒸留所の隅々まで伊知郎氏自ら案内してくださった。
色々な質問も出て一同「真剣な」見学会になった。

 早速、蒸留所の中へ。今日は糖化、醗酵、蒸留とすべての作業が行われている。原料麦芽の粉砕工程の説明では、ミルの説明から麦の品種、粉砕麦芽のハスク、グリスト、フラワーとその比率とそれぞれの役割、出来上がる麦汁の糖度の関係などを丁寧に説明していただいた。続く糖化工程では糖化槽から麦汁を抜き取っていく作業が行われていた。この工程は少しずつバルブをあけ繊細に行われる熟練が必要な作業で最近、やっと時間通りに終わるようになったということだった。社員みんながウィスキー作りに精通した熟練ばかりではないので、一つ一つの作業をデータを取りながら経験を積みながら進めているようだ。

酵母投入後のこんな「棒」でかき回す。
脚立に乗っての作業はなかなかの重労働?

醗酵槽の上に見えるモーターは醗酵中の泡を切る為のプロペラの物で攪拌機は付いていません。
ミズナラの醗酵槽に酵母を投入しカヤ入れをする。脚立に乗っての作業は結構重労働だろう。醗酵中のウォッシュはバナナ様の香を放ちフルーティだ。伊知郎氏曰く、醗酵槽ごとのばらつきもありまだそのクセをつかみきれていないと。しかしそれがこれからウィスキーにどのように反映されるかが楽しみだ。フォーサイスの蒸留器から流れ出すスピリッツは香ばしくフルーティで魅力的な香を放っていた。
蒸留器の前で説明する肥土伊知郎氏。
2月の訪問時に比べ気持、スティルの色がやや煤けたような…

2月に来たときにはピカピカ輝いていたスティルは少し色が変わっていた。今のところ、原料の麦芽はアンピーテッドの物を使っているそうだ。作業の熟練度、醗酵槽や蒸留器のクセや特製を見るためにそうしているそうだ。ピーテッドの麦芽を使用すると似た物ばかりが出来上がってしまい出来たスピリッツの状態を分析するには不向きなのだそうだ。データの収集が出来たらピーテッド麦芽も使っていく予定だそうだ。小さい蒸留所ゆえ小回りの効く飲み手の喜びそうな造り分けがアイディアが伊知郎氏の頭の中には詰まっていそうだ。
新しく出来た「秩父蒸留所」のモルトを満たした樽が並ぶ。
色々な熟成樽を用いて熟成中…
こちらは羽生の樽、貯蔵中のバーボンと右側の青いフード・コンテナに入っているのは某スペイサイド・モルトのスピリッツ。これから樽に詰めるらしい。ちなみに羽生の樽はこれはほんの一部。まだまだたくさんストックあるそうですので安心しました。
2月の時点ではガランとした倉庫のようだった貯蔵庫が"きちんと"貯蔵庫になっていた。ホグスヘッド、バット、ラム・バレル、バーボン・バレル、コニャック・カスクなど等、様々な熟成樽を使い秩父蒸留所のスピリッツが眠りにつき始めていた。
伊知郎氏の説明も一通り終わり樽について立ち話をしていると周りでは…
「クンクン、クンクン」「?」「!!」ダボ穴に鼻を近づけ臭いを嗅ぎ出す。
「この樽はよさそうだ」「いやこっちだ!」などと勝手なことをいいながら貯蔵庫の中で宝探しさながら楽しそうな皆さん。
「で、マスターどの樽買うの?」
「肥土さん、いくら?」
「まだ値段ついてないので…なんとも…」
「じゃあ値段決めたら教えてください。みんなで買いますから!」
 貯蔵庫から外に出て本日のサプライズ!
オリジナル・フラッグをプレゼントし皆で記念撮影
蕨の旗屋さんで作ってもらったオリジナル・イチローズ・モルト・フラッグの贈呈式。伊知郎氏にも喜んで頂けたようで一同大満足の見学会であった。車に乗り込み蒸留所を後にしようとしたとき、ベンチャーウィスキーの皆さんが旗を持ってのお見送りサプライズ返し。これには負けました。
 作り手と飲み手をつなぐのが我々バーマンをはじめとする売り手の仕事。これからも時にはカウンターから離れ秩父の自然に囲まれた蒸留所を訪ねる機会を作っていきたいと思う。我らのローカル・ウィスキーはますます近い存在になっていくに違いない。ヨーロッパで絶賛されても、世界一になっても最も身近なウィスキーであり続ける存在に違いない。作り手一人ひとりの顔が思い浮かぶ酒は一層味わい深いのである。遠いアイラより近い秩父の時代はもっと豊かな酔いの時代の到来を意味するのかもしれない。


作り手の顔が見えるウィスキー。
よく考えてみるととても貴重な存在なのだ。




Written by M.Kawamoto
updated:07 June, 2008 by CASK AND STIL
L

BAR CASK AND STILL TOP